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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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発症を促すのは④

「…………」


 そこで俺はひとつ、気になったことを口にする。


「お前、何年もこの大陸(アイシャ)で暮らしてたんだろ。誰かと友達になったりしなかったのか?」


 セウォルは僅かに視線を上げて俺を捉えると、ふ、と息を吐いた。


「…………俺にはタトアルがいたからね」


「つまり、そんな相手を簡単に斬り捨てるのがお前たち始祖人なんだな」


「ひひっ、なんとでも言いなよ。否定はしない。俺たちは命が惜しくなかっただけだから」


「命が惜しくなかった?」


「ようやく死ねるってことだよ。長く生きるのも苦労があってね。……まあ、でも」


 そこまで言うと、セウォルはアルミラさんへと視線を戻した。


「俺がお前なら、のんびり話なんかしていない。ひひ、俺なんかに構ってる場合じゃないだろうに」


「…………」


 正直、こいつのことは全くわからない。


 本心なのか、そうでないのか……俺には理解しようがない。


 だけどひとつだけ。アルミラさんのことだけは、本当に助けようとしているような気がする。


「どうしてそこまでアルミラさんを気に掛けるんだ?」


「お前こそ、どうしてそれが気になるんだ?」


「さあ、俺もよくわからないけど」


 でも……。


「魔力結晶に込めた魔法は本当に爆発する(・・・・)ようなものなのか?」


 聞くと、セウォルの眉がぴくりと動いた。


 だから俺はそのまま続けることにする。


「魔力結晶を割れば込めた魔法が発動するはずだろ。でもお前、アルミラさんを傷付けたくないみたいだし」


「そういえばそうね。ミラを助けたくて魔力結晶を纏わせているのでしょう? だとしたらわざわざ爆発する魔法なんて込めないかもしれないわ」


「そっか、ハルト冴えてるー!」


 ファルーアとボーザックが応えたところで、セウォルはふんと鼻を鳴らした。


「なら割ってみたらいいよ」


「…………どっちにしても割れねぇのは確定だ。お前の魔力が姉貴を抑えてるってのを信じたわけじゃねぇが、実際姉貴は動いてねぇ。割ったときに爆発しなかったとしても動き出しちまったら結果として姉貴は大怪我じゃ済まねぇだろうよ。ならこのままにしておく」


「ええ。それがいいわ」


 グランの言葉にしれっと応えたファルーアは杖を手にしたまま腕を組んだ。


「それも含めてデミーグを呼ぶべきね」


 すると今度は〈爆風〉が扉に向けて投げた双剣の片割れを拾いながら言った。


「ではとりあえず始祖人を連れて歩くとするか。猿轡(さるぐつわ)を噛ませて袋でも被せておけばいいだろう。デミーグは〈閃光〉のところに向かったんだったな」


「ああ。そいつ引き摺っていくのは〈爆風〉に任せてぇんだがいいか」


「いいだろう。〈不屈〉、気配を探れ。〈祝福〉は案内を頼む――それでいいな? 〈豪傑〉」


「そうしてくれ。ハルト、ディティア。お前たちは〈爆風〉と行け。ファルーア、悪ぃが遠距離の補助が必要になるかもしれねぇからな。残ってくれ」


 ……ん? 行け?


「……ああ、そうか。アルミラさんも両親もいるもんな」


 俺が言うと、グランは眉尻を僅かに下げて唇を結び、ややあって頷いた。


「そういうことだ。放っておくわけにもいかねぇし、動かせもしねぇ。ここにクトラフが来ねぇとも限らねぇ。俺は残っておくから、デミーグを呼んできてほしい。俺たちの代わりに護衛できる騎士もいりゃいいんだが」


「相手の目的が薬の破壊であれば、警戒しておくに越したことはないものね」


「………」


 グランとファルーアに返されて、俺は逡巡する。


 クトラフを相手にするなら『精神安定』バフは必須だろう。


 かといってセウォルが暴れないとも限らない。


 そしてアルミラさんを動かすのも危険だ。


 グランは〈爆風〉と一緒に行けっていうけど、俺は――……。


 考えが纏まらずに唇を噛んだが、それを読んでいたかのように言ったのは〈爆風のガイルディア〉だった。


「お前は残れ〈逆鱗〉」


「え、でも……」


「この始祖人程度に俺はやられん。共に行く者もやらせん。ならバフは〈豪傑〉と〈光炎〉のために使え」


「……」


 本来ならここで戦力を分けるのは避けたい。


 そんなこと皆わかってるだろう。


 何度も城を震わせる爆音が、いつ防護膜を突破し城を破壊するかもわからないのだ。


 グランの両親とアルミラさんを置いていける状況にない以上、こうするしかない。

 


「……わかった」



 だから、俺は頷く。


「早く戻ってきてくれよ?」


 さらに情けなく付け足せば、ボーザックが笑った。


「ハルトたちの気配は常に捉えておくよ。なにかあれば駆け付けるからさ」


「…………」


 ……ん? え、そんなことできるのか?


 ずっと気配を探るのはそれなりに疲れるだろ……と思ったけど、あまりにさらりと言われたんで一瞬言葉に詰まる。


 するとディティアが笑った。


「ボーザック、気配捉える精度すごく高くなってるもんね」


「え、そうなのか? ボーザック?」


「俺もよくわからないけど、なんかコツは掴めたのかも? 集中しなくちゃだからずっとは無理だけど」


「コツ……?」


 コツなんて全然わからないけど?


「さて、では行くとしよう。なに、町と町を行き来するわけじゃない。すぐに戻ってこられるだろう」


 俺が眉間に皺を寄せていると〈爆風〉が話題を終わらせる。


 慌てて『精神安定』と『五感アップ』を掛け直し、彼らがセウォルを連れて出ていくのを見送って……俺は再度眉間に皺を寄せ、うーんと唸った。


「気配、気配ね……」


 彼らの気配が遠ざかるのはわかるけど……。


 瞬間、右肩にポンと衝撃が奔り俺は飛び上がった。


「うぉあぁっ!?」


「……あら、近くの気配を察知できないんじゃまだまだね。気配はボーザックに任せてこっちを手伝って頂戴」


「う……はい」


 振り返れば俺の気持ちなんてお見通しのファルーアが妖艶な笑みを浮かべているわけで。


 俺は大人しく頷き、ファルーアを手伝ってグランの母親をアルミラさんの近くに運ぶ。


 グランは父親を運ぶと、項垂れて深々と息を吐いた。


「セウォルの野郎をぶん殴ったってぇのに、ちっともスッキリしねぇ」


「……そうね。結局、セウォルに関しては何がしたいのかもわからない。操ったひとに舌を噛ませるような命令が出せるのに、ミラを助けようとする理由はなにかしらね」


 ファルーアはそう言うと意識のないアルミラさんを覗き込む。


「発症を促したのはタトアルの血だと言っていたのも恐らく本当だと私は思うわ。……まあなんにせよ殴らない理由にはならないけれど」


 彼女はさらりと肩を滑り落ちた髪を右手の指先で拾い上げ、背中側へと払いながら上半身を起こして続けた。


「私たちは薬の効果の程度も作り方もまだ聞けていない。だから確実とは言えないけれど、この薬がクトラフにとって多少なりとも困る代物である確率は高いのではないかしら。ここにミラが来たのは薬を破壊するためだとセウォルも予想していたようだし」


「そうだな。――クトラフは噛み付いて従ずる者を増やさないと、ひとりじゃ何もできないってことかも。ああでも……虫もいるのか」


 俺が言うと彼女は唇の端を僅かに持ち上げて腕を組む。


「そうね。虫がいるのは厄介だけれど、いざとなれば部屋ごと消し炭にするわ?」


 え、いや、それはちょっと……。


 咄嗟に心のなかで言ったのは正しい判断だと思う。


 大して広くない部屋でファルーアの炎が踊ると思うと――いやいや笑えないぞ。


 ちらと見ればグランは眉間を揉んでいた。


 同じことを考えたに違いない。


「あー、とりあえずさ、グラン。デミーグさんにアルミラさんとご両親を任せたあと俺達はどう動く?」


「ん? ……ああ、そうだな。まあ決まっているといえば決まってんだが、クトラフを捜すしかねぇだろうよ」


「まぁそうだよな。王はあいつ(・・・)が守ってるし、俺たちが遊撃部隊になるしかないか」


 始祖人……その統べる者は四人だとシェイディが言っていた。


 そしてシェイディとセウォルは俺の『浄化』バフで弱体化してある。


 残っているのは嫌味で無駄にキラキラした騎士が連行してきた始祖人とクトラフだけど、連行されてきた始祖人はどこかに縛られているだろうから警戒すべきはクトラフだけのはず。


 そう思ったけど、グランは難しい顔をしていた。

こんばんは!

本日も何卒よろしくお願いします。

来てくださる皆様に感謝を!

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