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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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851/851

目標を定めるのは①

「どうかしたのか、グラン?」


「……ああ、クトラフだけでなくセウォルも城に居たのが少し気になってな」


「え? 始祖人同士で連絡してたから――じゃないのか?」


「当然、連絡は取り合ってたろうよ。方法は知らねぇが、なら俺たちが捕まえた始祖人シェイディのことも、〈閃光のシュヴァリエ〉が連行した始祖人のことも知ってると思わねぇか?」


「まさか助けにきたとか……?」


「なくはないわね。(ほふ)りに来た可能性もあるけれど」


「……そうだな。そこからさらに言うと、だ。どいつが一番上位(・・)だ?」


「え?」


「セウォルよりクトラフが上位だとして、親玉はどいつなのかと思ってな」


「あ……うーん……」


「いまの情報だけでは判断しようがないわね。それに判明したところで選択肢が増えるものでもないと思うわ?」


 ファルーアがそう言うと、グランは噛み締めるように続けた。


「――姉貴の発症を促したのが『始祖人の血』なら、『始祖人の上位の血』を浴びた奴の命令はどうなる」


「!」


 俺は思わずゴクンと息を呑む。


 アルミラさんがタトアルの血を浴びて自身の魔力を変質させたのなら、始祖人の上位の血で変質させた魔力はどんな効果をもたらす?


 限りなく統べる者に近くなる可能性があるんじゃないのか?


 つまり……どの始祖人の影響も受けず、反対に命令を下すことができるってことになるよな?


 でも……。


「セウォルの言葉を信じるなら、アルミラさんはセウォルに噛まれて、それを治療したことでタトアルの血――その魔力を取り込む状態になったんだよな? だとしたら、一度操られたか昏睡状態になって、かつ治療済のひとが血を浴びる必要があるだろ? それに、そもそも浴びるほどの血っていうのは――」


「ああ、わかってる。現実的じゃねぇ案だし実行するつもりもねぇ。ただ……戦う以上は『想定外』を作りたくねぇんだ。考えておく必要はあると俺は思う」


 俺の言葉に応えたグランは顎髭を擦りながら瞼を伏せた。


「つってもなぁ……正直、頭が追い付かねぇよなあ」


「そうね、全然わからないことだらけだもの。こうしている間も城の外では龍が暴れていて防御膜はいつ破壊されてもおかしくない――……」


 ファルーアが言葉を紡いでいる、そのとき。



 一際(ひときわ)大きな揺れが起き、重く低い轟音が耳朶を打つと同時に俺は踏鞴(たたら)を踏んだ。



「……な、なんだ!? 『五感アップ』『五感アップ』!」


 咄嗟にかけたのは『五感アップ』だ。『精神安定』は残してるからこれで四重である。


 ここは奥まっているから音も少し遠いんで、それを補おうと思ってのことだった。


 石と薬品のような臭い、肌に触れる空気の冷たさ、そういうのが一気に濃くなって――ぶわぁっと背筋を這い上がっていく戦慄。 


「言った側から破られた(・・・・)――最悪の状況ね」


 ファルーアの声は心なしか硬く重い。


 そう。防御壁が破られた――遠かった大量の龍の気配が城に押し寄せているのだ。


 そこで放たれた雷撃の轟音が鼓膜を震わせ、俺は腹に力を入れた。


「この音……まだ血結晶の兵器は使えてるみたいだ。だけど……」


 そこまで口にして唇を噛んだ俺に、ファルーアがちらと視線を合わせ、険しい表情で小さく頷く。


「距離を詰められてはいずれ役に立たなくなるわ。周りを巻き込んでしまうもの。龍はそれなりの大きさだから城に入り込むのは難しいはずだけれど、壁を壊されたらひとたまりもないわね」


「どうするグラン、なんとかしないと……」


 瞬間、俺は聞き覚えのある鳴き声(・・・)に気付き、空が見えるわけでもないのに天井を振り仰いだ。



『クルルルルッ!』



「! グラン、ファルーア! いまの聞こえたか?」


「ああ。風将軍(ヤールウィンド)の鳴き声だったな。俺たちが乗ってきた奴等とフェンが援護しに来てくれたのか?」


「いや、いまの『アロウル』の声だと思う。ロディウルが戦ってくれてるんだ!」


 俺がビッと右の人差し指を立てて言い切ると、グランは驚いたように双眸を見開き、すぐに顎髭を擦りながら唸った。


「ああ? ハルト、お前、聴き分けられ……いや、いい。呆れる暇もねぇな。とりあえず、そりゃ朗報だ」


 ロディウルはディティアを助けたときに俺が弱体化させた始祖人――シェイディを王都まで運ぶ役目を担ってくれた。


 本当はそのあと『血結晶で動く兵器』を俺たちのところに運んでくる予定だったはず。


 でも俺たちが草原の町アーヴェルから伝達龍で連絡したのを受けて、兵器を運ぶ予定だったのを取り止めたんだろう。


 だからここにいるはずだっていうのはわかってたけど……そっか、兵器をバルコニーに設置してくれたのもロディウルかもしれないな。


 たぶん――それを使っているのも彼ら『ユーグル』だろう。


「――ロディウルが戦っているなら時間は稼げるわね。なんにしても楽観視はできそうにない。いまになって龍が攻め始めたのは理由があるはずよ」


「ああ。……ハルト、皆が戻る前にロディウルの援護に回れるか? ここは俺とファルーアでなんとかする」


「え……俺?」


「俺たちが分断されたこの状況がクトラフの狙いかもしれねぇ。薬が目的ならここに来るだろうが、切札がハルトのバフと知られたんだ。お前を狙う可能性もある。なら少しでも警戒しておかねぇとな」


 真剣な顔のグランに、俺は唇だけを僅かに動かしたけど結局音を紡ぎ出せずに瞼を伏せる。


 皆で行動できればいいのにって、この短時間で何度も思った気がするな――。


 俺が行ったところで龍を全部食い止められるはずもないし、どちらかといえば遠距離、広範囲の攻撃を持つファルーアのほうが適任だ。


 でも、この場所に留まるのが俺とグランじゃ虫に対抗するのが難しい。


 加えて、俺にはバフがある。ロディウルを援護することはできるはずだ。


 ――俺が操られるのは一番()けなければならない状況。かといって援護せず龍を放っておいても押し切られてしまうのは想像に難くない。


 だからこそ、必然的に援護に行くのは俺。


 アルミラさんやグランの両親を放っておけない以上、グランもファルーアもそう思ってる。きっと。


「わかった。噛まれるなよグラン」


「はっ、誰に言ってやがる。お前こそ気を付けるんだぞハルト。龍に混ざって虫がいるかもしれねぇ。『精神安定』があっても警戒は怠るな。――始祖人に出くわしても戦うんじゃねぇぞ。一旦退け、いいな?」 


 頷きながら、俺はある予感を口にした。


「うん。たぶんだけど、ボーザックとディティアどっちかが援護に来てくれる気がする」


 予感って言っても、ある程度は考えてのことだけどな。


 まず始祖人セウォルは〈爆風〉が連れていたし、それが一番安心だ。さらに案内役のアイザックは残す必要がある。


 だとすれば動けるのはボーザックとディティアで、二人は気配の察知に優れている。


 当然俺だけが動いたのを察知すれば援護しに来てくれる――そう思ったんだ。


 まあ……残念ながら俺にはボーザックたちの気配がどれでどこにいるのかなんて、これっぽっちもわからないけどな。


本日もよろしくお願いします!

春らしい春は短くなり、あっという間に長い夏が来そうですね。

皆様どうぞご自愛くださいませ。

引き続きよろしくお願いします、いつもありがとうございます!

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