【第一章:嵐の海と悲劇の夜】
前回は鋼鉄の怪物の力をお見せしましたが、今回は荒れ狂う大自然の脅威が小さな漁船を襲います。 主人公である15歳の少年ネッドの運命を大きく狂わせた、嵐の夜の悲劇です。
暴風雨が吹き荒れる漆黒の海。荒れ狂う波間に、一隻の小さな漁船がまるで木の葉のように翻弄されていた。激しい波をかぶる甲板には木箱やロープ、漁獲網が散乱し、立っていることすらおぼつかない。
「ネッド! ネッド! どこにいる!」
轟音を立てる風雨に負けじと、漁師のボビー・ランドは声を振り絞った。必死の形相で荒れた甲板を見回し、息子の姿を探す。 その時、渦巻く水面の下から、不気味に光る「二つの目」が浮上してきた。
「父さん!」
物陰から姿を現した15歳の少年、ネッド・ランドは、海中からうねりながら伸びてきた異様なものを見て息を呑んだ。巨大な吸盤が無数に這う、太く長い腕――。
「これは一体……!」 「クラーケンだ! 怪物が襲ってきた!」
ボビーの叫びと同時に、海中から巨大な触手が甲板めがけて叩きつけられた。
「ネッド! 危ない!」
ボビーは身を挺してネッドを抱え込み、間一髪で触手の容赦ない一撃を避ける。そのまま息子を力ずくで引きずり起こすと、甲板の隅にあった頑丈な空の木箱へ彼を押し込もうとした。
「ネッド! 母さんのこと、頼んだぞ!」 「何言ってるの、父さん!」 「いいか、絶対に出るんじゃないぞ!」 「やだよ父さん! 一緒にあいつと戦おう!」
食い下がる息子を、ボビーは悲痛な面持ちで突き放した。
「ダメだ! モリや網で戦える相手じゃない!」
反抗するネッドを木箱に押し込め、無理やり蓋を閉める。その直後、海面が大きく盛り上がり、怪物がさらに多くのおぞましい触手を宙へと突き上げた。
ボビーは逃げなかった。木箱の横に転がっていた一本のモリを手に取ると、息子を隠した箱を守るように荒れ狂う怪物の前へ立ち塞がり、鋭い切っ先を構えた。
だが、大自然の――あるいは未知の怪物の――圧倒的な力の前では、人間の抵抗などあまりにも無力だった。巨大な触手が鞭のようにしなり、無慈悲にボビーへと襲いかかる。
鈍い衝撃音とともに、ボビーの身体は甲板から宙へと弾き飛ばされた。巨大な腕に絡め取られ、なす術もなく暗い波濤の向こうへと引きずり込まれていく。
「ネッドォォッ! 母さんを……!」
ボビーの絶叫が暗い海に空しく響いた。
ボビーの姿が暗い海に消えると同時に、あれほど荒れ狂っていた怪物の気配は、まるで幻だったかのようにふっと途絶えた。嘘のように静まり返る海。後に残されたのは、冷たい波の音と、嵐の爪痕が残る無惨な甲板だけだった。
ギシッ……。
静寂の中、木箱の蓋が開き、ネッドがおそるおそる這い出てきた。震える足で立ち上がり、辺りを見回す。だが、そこにはひっくり返った木箱と破れた網があるだけで、頼もしい父親の姿はどこにもなかった。
「父さぁぁん!」
静まり返った漆黒の海に向かって、少年の悲痛な叫びだけが空しく響き渡った。
第1章、最後までお付き合いいただきありがとうございました。 絶望的な嵐と、本物の怪物「クラーケン」の襲撃……。ネッドを庇う父ボビーの姿に、胸が痛む展開でした。 たった一人残されてしまった15歳の少年ネッドは、この悲しみをどう乗り越えていくのか。次章では、彼の運命を大きく変える出会いが待っています。
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