【プロローグ:海を汚す者と鉄の怪物】
新連載スタートです! 舞台は1867年。人間の身勝手な欲望で汚される海と、そこに現れた「光る二つの目」……。 得体の知れない鋼鉄の怪物が暗躍する、深海の世界へようこそ。
夜の闇に包まれた絶海の荒海。国籍を示す旗すら掲げない一隻の黒い船が、どす黒い煙を吐き出しながら進んでいた。この船の目的はただ一つ、他国の目を盗んだ海洋への不法投棄である。
船尾からは轟音とともに、大量の廃液が滝のように海へと垂れ流されていた。波立つ水面にどろどろと混ざり合っていくそれは、自然界には決して存在しない、不気味で毒々しい色を帯びている。人間の身勝手な欲望が、清らかな海を無残に汚染していく。
やがて、その汚された海面下に「それ」は現れた。深く沈んだ闇の中から、二つの不気味な灯りが浮かび上がる。未知の巨大な海獣の双眸にも見えるその光は、一直線に不法投棄船へと迫ってきた。
得体の知れない脅威を察知した不法投棄船の大砲が、夜の闇をつんざいて火を噴いた。水底を移動する二つの灯りをめがけ、次々と砲弾が放たれる。周囲にいくつもの巨大な水柱が立ち上がるが、その灯りの主が怯むことはなかった。それは水柱を易々と掻き分けるように進み、そのまま船の真下へと滑り込むように消えた。
次の瞬間、海を揺るがす激しい衝撃が船底を突き上げた。何か途方もなく巨大で硬い塊が、船の急所を正確に突き破ったかのような凄まじい揺れが襲う。金属がへし折れる異音とともに推進器と舵が無惨に砕かれ、動力を完全に奪われた船から火花と炎が噴き上がる。船体は沈没こそ免れたものの、漆黒の荒海の中で完全に動きを封じられ、波間に漂うだけの逃げ場のない牢獄と化してしまった。
機能不全に陥った不法投棄船から漏れ出す炎の光が、波立つ海面を照らし出す。その光の中、荒波を割って重々しく姿を現したのは、生物の皮膚ではなく、冷たい光を鈍く反射する「鋼鉄で造られた巨大な艦」だった。
艦橋に並んだ二つの窓が、まるで巨大な怪物の目のように妖しく光を放っている。船の先端は鋭く尖り、そこから艦橋の上部に向かって、鋸のようなギザギザとした異様な隆起が続いている。さらに艦橋の後ろと、船体の最後尾の二箇所には、海獣のヒレを思わせる巨大な舵がそびえ立っていた。
暗い海に君臨する、正体不明の鋼鉄の怪物。炎を上げる船を嘲笑うかのように、二つの怪しい光を放つその巨体は、ただ静かに夜の波間に漂っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます! いよいよ始まりました『海底二万マイル~海に託された未来~』。 謎の「鋼鉄の怪物」の圧倒的な力、いかがでしたでしょうか。不法投棄船への容赦ない鉄槌……スカッとする反面、暗い海に潜む得体の知れない恐ろしさがありますね。 次回から、いよいよ主人公の少年ネッドが登場し、物語が本格的に動き出します。
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