第三十七話 爬虫類怖い
早く降りよう。
山の空気は嫌いじゃないが、ここは少なくとも長居する場所ではない。目的地はグランマルクだし。
本来早く着くために近道をしているんだ。
「おじいちゃん、そろそろ行きましょう。」
その時、急に、ガサッ、と近くの茂みが揺れた。
もうドラゴンやだ。
だが、出てきたのは
「……ちっさ」
ドラゴン。
いや、ドラゴンの子供みたいだ。
手のひらよりは大きいが、猫くらいのサイズしかない。羽はあるが、まだうまく使えなさそうだ。
こんなのもいるのかよ。
目が合った。もしかしたら小さくてもドラゴンブレスをしてくるかもしれない。警戒をする。
あと小さくても爬虫類は爬虫類だ。苦手なものは苦手なんだよ。
子ドラゴンはじっと見てくる。
「おい、来るなよ?」
言った瞬間、てててっと近づいてきた。
やだ!やだ!怖い!
爬虫類ムリ!
足元まで来て、ぺたっと座った。
攻撃はしてこなさそう。でも怖いものは怖いんだよ。
「お前、親とかいないのかよ。いるなら帰ってくれよ。」
居るなら居るで襲われたら困るのだが。
さすがに返事はない。
代わりに、体を近づけてくる。
その度に一歩後ずさる。
完全に懐いてる。気がする。
いやいやいや、ちょっと待ってよ。
爬虫類嫌いだし、しかもドラゴンだし。
加えて、さっき君の親かもしれないドラゴンを……
ねえ?
そう思っていたら、
「グルル……」
低い唸り声。
振り向くと、次郎が睨んでいた。
「いいぞ、もっとやってくれ!」
「ワン!」
ドラゴンの子供は気にせずこっちに近づいてくる。
次郎でも無理なら諦めよう。
そうだ、逃げるか。逃げるぞ。
離れようとした瞬間。
てててっとついてくる。
来ないでよ!
振り返る。
止まる気配なし。
おじいちゃんもなんか言ってよ!
「なんかかわいいから連れて行ったら?」
冗談じゃねえ。結局、走って逃げた。
山を降りる。走る。
後ろをちらっと見た。
ドラゴンの子供が少し遅れながらついてきている。
こいつ、意外とやりおる。
追いつかれないように必死に走る。
おじいちゃんは余裕そう。
数十分後。
ふもとに到着。
「はあ……疲れた〜。」
もう無理、流石に走れない。
振り返ると、二匹ともいる。
居やがった。ここまで付いてこられるなら諦めよう。
爬虫類が嫌いといえども、子供を殺すのはかわいそうだったのだ。
察したのかドラゴンの子供は満足そうに座り込んだ。
山を降りて、そこそこ歩いたあと、夜になった。
適当な場所で野営をしよう。
焚き火をつける。
今日はもう動く気にならない。
今日こそ早く寝たい…
ベッドをインベントリから取り出す。
おじいちゃんはどこかにいなくなっていた。
まあいいだろ。強いし。
横になった。
次郎がベッドの隣に来る。
ドラゴンの子供は少し離れたところで丸くなっている。
布団に入るといつの間にか意識が落ちていた。
朝になっているようだ。
目を開けると日が昇っている。
ゴロゴロしたあとに体を起こした。
次郎はすでに起きているみたい。
ドラゴンの子供も、こっちを見ている。
元気だね。
朝ごはんを食べたあと、グランマルクまで出発だ。
今日もかなり歩くことになった。また山を超えることになった。
気がつくと、歩くだけで一日が過ぎていた。
夜になる。
やっとゆっくりできる時間が来たかな。
レシピでも見るか。と思っていた。
すると、
「寄りたい場所があるんじゃが」
おじいちゃんが言った。
「寄り道ですか?」
「そうじゃ」
もう嫌な予感が。
「……どれくらい遠いんですか?」
「すぐじゃよ」
絶対に信用ならない。
どうせドラゴンがいると知っていてあの山を通ったんだ。でも逆らえない。
「……分かりました」
渋々ついていくことにした。
しばらく歩いた。
……これ登ってるよな。
「これ、山に戻ってません?」
「少しじゃ少し」
絶対嘘だろ。
もうドラゴンは無理って昨日は散々念押ししたのに。なんか道が微妙に険しい。
完全に嫌な予感しかしない。
次郎とドラゴンの子供は普通についてきている。
さらに進む。
その先に、
湯気。
近づく。
そこにあったのは、
「温泉だ〜!」
思わず声が出た。
自然の岩場に、湯が湧いている。
「ここじゃよ。」
おじいちゃんが満足そうに言う。
「マジですか」
この世界に来てから、まともな風呂は入ってない。
買ったのはいいが工事中の風呂ならある。
毎日水浴び程度だ。
「入っていいんですか?」
「好きにするといい」
よっしゃー!
もう遠慮はしないぞ!
服を脱ぐ。
湯に入る。
あ゛〜
あったけ〜。体の芯まで染みる〜。
天国かよ……
次郎も足だけ浸けている。
ドラゴンの子供は湯気に興味津々だ。
お前、入れるのか?
ちょこんと湯に触れる。
びくっとして引っ込んだ。
まあそうだよな。俺も熱いと思うもん。
しばらく浸かっていると、体が軽くなっている気がする。疲れが抜けていく。
…これはやばいな〜
出たくない〜
ふと、おじいちゃんを見ると湯に浸かっている。
……なんか、若く見えね?
一瞬、そう思ったけど、
……気のせいかな
目をこすってもう一度見た。
普通のおじいちゃんだ。
気の所為だったのだろう。
深く考えるのはやめよう。
しばらくして、上がる。
体がぽかぽかする。
……眠いな〜
一気に眠気が来たみたいだ。
「今日はもう寝たいですね〜」
そう言った瞬間。
「では、軽くやるかの」
ん?嘘だろ?聞き間違えかな?
おじいちゃんが立ち上がる。
「体も温まったことじゃしな」
笑っている。怖っわ。
「いや、今日はもう……」
言い切る前に。
急にぞわっとした。
「……ちょっとだけじゃからな?」
逆らえない
逃げたほうがいい、と体が言っている
次の瞬間には、おじいちゃんは目の前にいた。
「特訓じゃな?」
終わった〜、完全に。
結局その日、死ぬかと思うくらい体を動かされることになった。




