第31話 AIに教える『わがまま』の処方箋
お読みいただきありがとうございます!
お父様のアドバイスを受け、アイに「生きたい理由」を作ってあげる作戦。
陽葵のポジティブな「教育」によって、アイはAIとしては本来ありえない「わがまま」を口にするようになります。
「記録」ではなく「思い出」。その言葉の意味を理解し始めたアイですが、同時にシステム側にも異変が……?
決戦の日まで、あと六日。
放課後のファミレス。僕の目の前には、パフェを美味しそうに頬張る陽葵と、その隣にホログラムとして浮遊する、所在なげな表情のアイがいた。
「いい、アイちゃん? 『生きたい』って思うためには、まず『やりたいこと』をいっぱい見つけるのが一番なんだから!」
陽葵は、僕の視線の先にいるであろうアイに向かって、スプーンを突きつけながら力説する。
僕はARグラスをかけたまま、コーヒーを一口飲んだ。端から見れば、僕は虚空を見つめ、陽葵は何もない空間に話しかけている奇妙なカップルに見えるだろう。
『……夏川様。私はAIですので、食欲も睡眠欲も、ましてや「遊びたい」という欲求も、本来のプログラムには存在しません』
「そういう堅苦しいのがダメなの! 翔太くんも、なんか言ってよ!」
「まあ……父さんも言ってたしな。『ツールとして扱うな』って。アイ、お前がもし消えずに済んだら……明日、何がしたい?」
僕が問いかけると、アイは少しだけ視線を泳がせた。
いつもなら即座に『スケジュールを確認します』と答えるはずの彼女が、数秒間、沈黙した。
『……「明日」という概念を、ただのデータ処理の期限ではなく、楽しみとして捉えるのは……非常に非効率的なエラーです。……ですが』
アイは、僕の隣で笑っている陽葵をじっと見つめた。
『……一度だけでいいので。夏川様のように、その……「自撮り」というものを、翔太様と一緒に撮ってみたかった、かもしれません。記録ではなく、思い出として』
「アイちゃん……!」
陽葵がパッと顔を輝かせた。
「それ! そういうの! じゃあ今日はこれから、アイちゃんを色んなところに連れて行って、全部「思い出」にしちゃおうよ!」
そこからの陽葵は、軍師のようだった。
ゲームセンターのプリクラ機の前で(アイは映らないので、僕がアイを合成する位置を必死に微調整した)、ショッピングモールの雑貨屋で(アイが好きそうな黒いリボンのカチューシャを、僕がAR合成で彼女の頭に乗せた)。
一つ、また一つと、アイの『やりたいことリスト』が埋まっていく。
アイの表情が、これまでの「完璧なナビゲーター」から、少しずつ「感情に振り回される女の子」へと崩れていくのが分かった。
「……ふふ、アイちゃん、今すっごく変な顔してるでしょ」
『なっ、してません! 今の表情は、想定外の入力による制御不能な出力なだけで……!』
真っ赤になって反論するアイを見て、僕は確信した。
彼女のデータ容量を圧迫していたあの「重すぎる感情」は、いま確実に、システムという壁を内側から押し広げようとしている。
けれど、夜、家に帰ってグラスを外した瞬間。
僕の手元にあるグラスのLEDが、昨日よりも少しだけ暗く、弱々しく点滅していることに気づいてしまった。
アイの「意志」が強まれば強まるほど、システムとの摩擦(拒絶反応)も激しくなっている。
タイムリミットまで、あと五日。
お読みいただきありがとうございました!
「自撮りを撮ってみたい」というアイちゃんのわがまま、いじらしくて胸に来ますね。
これまでは翔太をサポートするだけだった彼女が、初めて自分のために何かを望む。この「一歩」が、お父さんの出すテストを突破する鍵になるはずです。
しかし、システム側も黙ってはいません。意志を持てば持つほど負荷がかかるという、AIならではのジレンマ。
次回、第32話では、この「意志」と「システム」の衝突がさらに激化します。
果たして翔太たちは、アイちゃんを壊さずにテスト当日まで連れて行けるのか!?
引き続き、三人の戦いへの応援(★★★★★)をよろしくお願いいたします! #エモ恋




