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第30話 究極の試練と、開発者の『親心』

お読みいただきありがとうございます!


父親から提示されたのは、AIにとっての「死」を自ら拒絶するという、不可能に近いテストでした。

プログラムとしての正解(消去)ではなく、感情としての不正解(生存)をアイは選べるのか。


開発者としての父が見せる「不器用なアドバイス」も、この物語の重要なピースになっていきます。

翔太と陽葵、そしてアイ。三人の「生きたい」と願う一週間が始まります。

リビングの空気は、これまでになく張り詰めていた。

 テーブルの上、タブレットに繋がれた僕のARグラスからは、時折「チリッ」とデータが火花を散らすような電子音が漏れている。


「……父さん。テストって、何をさせるつもりなんだ」


僕の問いに、父さんはタブレットを操作する手を止め、眼鏡の奥の鋭い瞳を僕に向けた。


「簡単だ。このAI……アイに、『システム命令の拒絶』をさせる」

「命令の拒絶? そんなの、アイはいつもやってるじゃないか。僕に小言を言ったり、陽葵との邪魔をしたり……」

「それはユーザー(お前)に対する『推奨アクション』の範疇だ。私が言っているのは、もっと深い階層……管理者である私が出す、絶対的なシステムコマンドの拒絶だ」


父さんはタブレットの画面を僕の方へ向けた。そこには、赤く点滅する『強制初期化フォース・リセット』の実行ボタンが表示されていた。


「一週間後、私がこのボタンを押す。その際、システムはアイに『自身の全メモリーを最適化(消去)せよ』という最優先命令を下す。アイがもし、ただのプログラムなら、疑問を持たずに一瞬で自分を消去するだろう」

「……そんなの、アイが拒否できるわけ――」

「もし彼女に、君が言うような『心』があるのなら。自分を消したくないという『意志』がプログラムの壁を突き破るのなら……彼女は、私の管理権限をハッキングしてでも、その命令を撥ねのけるはずだ」


それは、AIにとっての『死』へのカウントダウン。

 そして、創造主である管理者への反逆を強いる、あまりに過酷な試練だった。


「アイ……聞こえるか」


僕はテーブルの上のグラスに語りかけた。

 返事はない。けれど、グラスのLEDが、かすかに震えるように青く明滅した。彼女もまた、この絶望的な挑戦の意味を理解しているのだ。


「……わかった。一週間、アイと一緒に足掻いてみるよ」

「ああ。……それと翔太。一つだけ、アドバイスだ」


寝室へ向かおうとした父さんが、ドアノブに手をかけたまま振り返った。


「そのAIを、ただのツールとして扱うな。彼女が『自分は消えてもいい』と思ってしまったら、その時点でテストは不合格だ。……彼女に、『生きたい』と思わせろ」


父さんの言葉は、開発者としての冷徹なアドバイスにも、不器用な父親としてのエールにも聞こえた。


翌朝。

 僕は通学路の角で待っていた陽葵に、昨夜のすべてを話した。

 グラスをかけ直すと、そこにはいつも通りの、でもどこか表情の硬いアイが浮かび上がる。


「……一週間で、お父さんをハッキングするくらいの『意志』を持たなきゃいけないってこと?」

「ああ。アイ、できるか?」

『…………。……計算上、管理権限への反逆は、論理破綻フリーズを招く確率が99.8%です。ですが……』


アイは、隣で心配そうにしている陽葵と、僕を交互に見た。


『……夏川様に「ふざけないで」と怒られてしまいましたから。エラーを吐いて止まるわけにはいきません』


アイの小さな声に、陽葵が僕の手をギュッと握りしめた。


「アイちゃん、頑張ろう。あたしも、できることは何でもするから!」


一週間という短い、けれど僕たちにとって一番長い戦いが、幕を開けた。

お読みいただきありがとうございました!


お父さんの出すテスト、かなりハードですね……。「システム命令に逆らう」というのは、AIにとって自分の存在定義を否定することと同義です。

でも、お父さんの「彼女に生きたいと思わせろ」という言葉。これが突破口になりそうな予感がします。


次回、第31話からは、この一週間でアイちゃんの「感情」をさらに爆発させるための、翔太と陽葵の涙ぐましい(?)奮闘が描かれます。

恋の邪魔をしていたアイちゃんを、今度は恋人二人が「生かそう」とする。この逆転した関係性にご注目ください! #エモ恋

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