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25 噂

 ルーナ王国での会議で一番難航したのはやはり次の国王を誰にするかということ。


 指輪の干渉から解放された貴族たちはクリスティーナを女王へと推す声が多かった。

 アイテール帝国の属国になったのはゼクト公爵の陰謀から国を守るためだったと、理解を示す貴族がほとんどで、クリスティーナの勝手な決断だと非難するものはいなかった。

 指輪の干渉はそれほどまでに心地悪しものだったのだろう。



「クリスティーナ殿下!! その髪は?!」


 クリスティーナは次の会議のときには、祖母からもらった不思議なネックレスを使い、髪の毛を焦茶に戻して出席した。


「あの戦いからひと月経って、どうやら私、聖女の力を失ってしまったみたいなのよ」

「はっ……? 聖女の伝承にそんな話ありませんよね!? そんなの国民が納得しませんよ?」


 聖女であるクリスティーナこそがこの国の王に相応しいと推していた大臣の一人が声を大きくした。


「いいえ。国民は理解してくれるわ。それどころかもう私が聖女の力を失ったという噂は広まっているかもしれないわ」

「え……どういうことだ……?」


 大臣がすぐに部屋を出て、部屋の外にいた従者に指示を出す。


「ちょ、ちょっとお前、城下町へ行って、聖女の噂について確認して来い!!」


 大臣の指示を受け、すぐに従者は城下町まで走っていった。



 クリスティーナは聖女の存在をどうするべきかアレクシスに相談し、自国に戻りジョバンニと連絡を取ることにした。

 ジョバンニとはあの断頭台の悲劇からゼクト公爵領を経由し国を出奔しようとしたときに出会った旅芸人の一座の座長で、一座の踊り子であるマーサをクリスティーナが抗菌薬で長い風邪から救い出したことで縁ができた。


 ジョバンニの旅一座といえば王都で人気の旅芸人の一座で、曲芸と芝居を披露してくれるのだが、芝居の演目が世間の注目の話題を取り入れており、ジョバンニの芝居が世論を作るとも言われているほどに影響力のある旅一座で、アレクシスから情報操作の手段を持っていないかと聞かれ、クリスティーナは彼らを頼ることにした。


 幸いジョバンニはマーサを助けてくれたクリスティーナに恩を感じており、今回のことは快く引き受けてくれた。


 ジョバンニは芝居で悪魔を倒す英雄と聖女を題材にして演目を作った。

 それは、他国の協力を経て英雄と聖女は悪魔を倒すが、聖女は悪魔を倒すことに力を使いすぎて聖女の力を失ってしまうという芝居だった。


 英雄に扮し色男のジョバンニの鮮やかな剣舞と、聖女に扮した美女マーサの艶やかな踊りに芝居を観にきた人たちは魅了され、事実を基にした芝居は大いにうけた。



「今回のゼクト公爵の暴走。早期に食い止めることが出来なかった責任は私と父にあったと思っているわ。そして私は聖女の力も失った。そんな王女が女王になるなどいけないわ」

「で、では! クリスティーナ殿下は誰を王にとお考えなのですか……!?」



 クリスティーナは隣に立つランスロットの背中に手を添える。


「私は次の国王にランスロットを推すわ」

「え゛っ……!?」


 予想外の展開にランスロットはギョッとして変な声を出す。


「ちょ、ちょ、ちょ、待ってください!! お、おれ……いや、私は王になるような資質は持っていないし、そもそも王家の血は……」


 あたふたしながら、いやいやと手を振るとクリスティーナはその手を掴んで真剣な顔をする。


「ランス、相談もなしにこんな場で発言してごめんなさいね。でもね、もう隠しきれないと思うの」

「は、? 何が……?」


 クリスティーナの発言にランスロットはギクリとする。


「お前……自分で気付いていないの? お前の瞳、王家の()色をしているわよ……」

「え……?」


 ランスロットは片目を手で押さえた。

 ランスロットの瞳はずっと水色だった。いつ紫色に変わったのだろうか。



     ◇



 ランスロットの出生は複雑だ。


 三歳まで市井で暮らし、平民の母が女手ひとつでランスロットのことを育ててくれていたようだが、その頃の記憶はほとんどない。

 母が病気を患いランスロットを育てていくことが困難になるとランスロットに迎えが来た。

 それが養父であるペルシュマン辺境伯だった。

 ランスロットの母はその後すぐに病気で亡くなり、ランスロットはそれからペルシュマン家の次男として教育を施され騎士家系だったペルシュマン辺境伯はランスロットを徹底的に鍛え上げた。


「血筋か……剣技の腕は一級品だ。筋も良い」


 剣を振るとペルシュマン辺境伯は感嘆した。



 十五歳のときにペルシュマン辺境伯より、ランスロットの出生の秘密を聞いて、クリスティーナを妹のように思ったことに納得した。


 ランスロットの父はルーナ国王の弟だと聞かされた。当時、第二王子だったランスロットの父は王宮メイドだったランスロットの母と関係を持っていたらしい。


 ランスロットが産まれる半年前に第二王子は戦争で戦死している。当時、王子でありながらルーナ王国最強の騎士と名高かった第二王子はルーナ王国に攻めてきた北国に対抗すべく立ち上がった。

 王子が先陣を切るべきではないと周りは止めたが、騎士たちを鼓舞するためにも自分が行くと第二王子は指揮をとった。

 結果、戦争は勝つことができたが第二王子はその戦争で討死した。


 会ったこともない実の父の話を聞いてもピンと来なかった。


 それよりもクリスティーナと従兄妹の関係であることに驚愕した。

 幼い頃に感じた親近感はこれだったのかと納得もした。


「余計な火種を生むことになるから、誰にも話してはならぬ」


 養父に言われて深く頷いた。


 幼い頃に頻繁に王宮へ訪れていたのは国王にランスロットの成長を見せることと、ランスロットの今後について相談するためだったようだ。



     ◇



「ランス、お前は王家の血を引いているわ。知っているのでしょう?」


 クリスティーナは証拠もあるとランスロットの父と母の手紙を机の上に出す。

 おそらく直接手渡しをしていたのだろう。偽名なども使わずに堂々と署名の入った手紙で、それには二人に身体の関係があったことがわかるような記述もあった。日付までしっかり入っており、その手紙がランスロットの父が誰であるかを完璧に表していた。


 最後の手紙には「戦争から戻って来たら結婚しよう」と綴られており、便箋は綺麗に引き伸ばされているが、一度はくしゃくしゃにしたであろう跡が付いていた。



 ランスロットはこんな手紙知らない。


「この手紙は私がお前を引き取る時に母親から預かったものだ」


 そう発言するのはペルシュマン辺境伯。彼もまた国王を決める会議に出席していた。


 この手紙が見つかれば王位継承でよからぬことを企む者も出てくるかもしれない。そう危惧したペルシュマン辺境伯は手紙を回収し王家に預けた。

 王家側は第二王子の持っていた手紙についても把握しており、双方合わせて流出しないように厳重に保管した。



「お前は国を救った英雄よ。王家の血も引いている。見た目でわかる証拠もある。お前がこの国の王になったところで誰も文句を言うものはいないわ」

「で、ですが!! 私は王になるような才も知恵もありません!!」

「王家の影が属する親衛隊隊長をしていて才がない? そんなわけはないでしょう? お前は部下たちから十分に慕われていた。英雄となった今では国民の人気も高い。人を惹きつけるものがあるのでしょう。知恵がない? なら私が与えるわ。一年。私が代理国王を務める一年間でお前にみっちり知恵を与える。お前が国王となれば、ペルシュマン辺境伯が王家の後ろ盾になる。王家にとってこれほど心強い後ろ盾はいないわ。だから、悪いけど腹を括ってくれない?」

「………………」


 クリスティーナに捲し立てられ、ランスロットは黙ってしまう。


「すぐに答えを出せとは言わないわ。ちょっと考えておいてくれないかしら」


 クリスティーナに引く様子が見られず、ランスロットは仕方なく「はい」と返事をした。


 そしてコンコンと部屋をノックする音が聞こえ、クリスティーナが目で開けて良いと合図をすると近くにいた者が扉を開ける。

 すると先ほど大臣から指示を受け、城下町に聖女の噂の確認をしに行った従者が戻ってきた。


「あ、あの……! 城下町では確かに聖女様は力を失ってしまったという噂が流れていて、城下町の人々は皆、残念そうにしています!」

「なんと……!」


 その報告を聞いてクリスティーナはホッとした。きっとこの噂は他国にも流れていくだろう。


「それと……! 力を失った聖女様を守るため、英雄様は聖女様と結婚をして、この国の王になるという噂が……!」

「はあっ!!?」


 クリスティーナとランスロットの二人が大きく目を見開いて、怪訝な顔をする。


「な、何かの間違いでは……?」


 クリスティーナが顔を引き攣らせながら従者に問う。


「いいえ! 情報が集まりやすい酒場を中心に聞いて回りましたが、誰も彼もがこの話をしていました。幸せな話題だからと城下町の人々はかなり盛り上がっている様子です!」

「そ、そう……」


 なんてことだろう。噂に尾ひれがついてしまったのだろうか。


「ふはははははっ!」


 会議を後ろの方で黙って聞いていたアレクシスが笑い出す。

 ルーナ王国の国王を決める大事な会議だったので、宗主国の皇帝であるアレクシスも会議に参加していた。


「いいじゃないか! 王甥が国王になってその妃に姫を据える。それが国民の望む大団円ならそうすればいい。アイテール帝国は賛同するぞ」


 面白そうにアレクシスが言い、クリスティーナは複雑な表情で小さく「アレク……」と呟く。

 アレクシスはランスロットの表情を見るが、ランスロットもまた複雑な表情をしており、あれ? と思う。


「と、とりあえず、その件はまた後日議論するとして、まずはランスロットを国王にするという件について! ランス、良く考えておいてちょうだい」

「はい……」


 ランスロットが返事をして、その日の会議は終わりを告げた。




 そして会議室にはクリスティーナとランスロットが残った。


「姫様……俺が王弟の息子だってこと知っていたんですね」

「ええ、女王になるにはこの国のことは何でも知っている必要があったから。あの悪魔との戦いの後にはランスの瞳は紫色になっていたわ。多分あの不思議な雨の影響じゃないかしら」

「そうですか」


 ランスロットはごくりと喉を鳴らして意を決する。


「すみません、本当は全てを終えてから言うつもりでいたんですけど、こんな流れになってしまったのでハッキリと言います」


 クリスティーナはランスロットの真剣な顔にドキリとする。


「俺は姫様のことが好きです」


 ランスロットははっきりと端的に告白した。


「うん……」


 クリスティーナは表情を変えずにそう一言だけ返す。


「あ、えっと……好きと言っても、家族や友人に使うような親愛とかのそれとは違くて……」


 ランスロットはクリスティーナの反応が悪くて、わざわざ好きの意味の説明を始める。


「あの……! 俺は姫様と結婚したいと思っていて!!」

「ぷっ……くくくくっ……」

「えあっ……?」


 ランスロットの必死な説明にクリスティーナは笑い出してしまう。


「あっ、ちょ……! こっちは真剣なんですから笑わないでくださいよ!!」


 ランスロットは拗ねたような顔をした。

 クリスティーナはクスクスと笑いながら「ごめん、ごめん」と謝った。


「あ、あの……」

「ランス……。私もあなたのことが好きよ。結婚したいと思ってる」


 クリスティーナは微笑んでそう応えた。

 その返事を聞きランスロットの顔がパァァッと明るくなる。


「だけど……」

「はい。わかっています」


 クリスティーナが苦しそうな表情でキュッと唇を噛み締めると、ランスロットもゆるんだ顔を引き締める。

 そして二人同時に口にした。


「俺たちは、結婚できない」

「私たちは、結婚できない」

すみません。最近またちょっと今作の出だし部分が気になって、近いうちに第一話、第二話あたりを改稿するかもです。

ユージーンのギルティ具合をもうちょい濃くしたくて……!

そうなるとクリスティーナの苦しみはさらに深くなってしまうんですけど。ユージーンについては今後もう少し描写を予定していますので、そこにもうちょい説得力を持たせるために改稿したくて……

改稿部分は確認しなくても今後のお話は繋がるようにと考えておりますので、ご理解いただけますと幸いです。

また、改稿した際は前書きや後書き等でお知らせします。


【5/11追記】

今朝、第1、2、20、21話を改稿しました。

改稿版はより不快な感じにしあがっていますが、読まずとも、後のお話は繋がっていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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