21 仇討ち
5/11朝改稿しました。
「ランスロットか……」
ユージーンがランスロットを見て力を抜く。
「なに油断してるんです? 俺があなたに危害を加えないとでも?」
ランスロットはすごい速さで剣を抜き、ユージーンに向かって振り下ろす。
キンッと剣と剣のぶつかる甲高い音が響く。
咄嗟にユージーンは剣でそれを受け止めた。
「くっ……!」
ランスロットは間髪入れずに次の一手をすぐに打ち込む。ユージーンはすんでのところでなんとかそれを受け止める。
カンカンとランスロットは次々に打ち込み、ユージーンはどんどんと部屋の隅に追い詰められていく。
「ま、待ってくれ! クリスティーナと話を……話をさせてくれ……!」
「何を話すことがある! お前は陛下の仇! 何を言ってもその事実は変わらない! 俺がこの手で地獄に連れてってやる!」
ダンッとランスロットが強く打ち込むと衝撃でユージーンの剣が飛ばされる。
「俺は姫さんの騎士だ!! 姫さんの憂いは俺が晴らす! 今世の行いを地獄で悔いろっ!!」
ランスロットが剣を大きく振りかぶったその瞬間……
「や、やめて! ランス!!」
ランスロットはクリスティーナの声にピタリと止まる。
「姫さん……」
「クリスティーナ……」
とどめのところで、止められてランスロットは歯を食いしばり、ユージーンはホッとした顔をした。
クリスティーナは剣を抜く。
それをユージーンの喉元に突きつける。
「え……?」
そうくると思っておらずユージーンは顔を青くする。
「話は何ですか? あなたには父を殺されているんです。命乞いをしたところで助けるつもりなんてありませんから」
クリスティーナはバクバクと脈打つ鼓動を無視して淡々と話す。
「命乞いなんて……、ただ、僕は君に謝りたくて……。初めてこの国に来たときの昼食会で僕の人参を食べてくれたのはクリスティーナ……君だったんだね」
それを聞いてクリスティーナは顔をくしゃっと歪ませる。
「金髪の少女だったから、僕はずっとレイチェルだと勘違いをしていた」
「レイチェル・ゼクト公爵令嬢はあの日は昼食会には参加していません」
「そう……」
ユージーンはグレーの瞳を揺らす。
「さっさと調べれば良かったんだ。過去の行事の参加者リストを確認すればすぐにわかることだった。だけど僕はそれをせずにレイチェルに聞いてしまった」
そして隣国の王子に声をかけられたレイチェルは浮かれて適当に話を合わせてユージーンとの距離を詰めていった。
「すまない。今思えば違和感のあることばっかりだった。君やルーナ国王が贅沢をしている様子なんて一度も見なかったのに、出てくる帳簿は二人の罪を裏付けていた。でもきっとそれは何かの間違いだ……今ならわかる……だけど僕はそれを信じて……君と国王を捕らえてあんな処刑を……」
ユージーンが青ざめながら告白する。
「今さら何を言うんです!? 父はあなたに殺されたんです! 謝られたところで帰ってこないんです!」
クリスティーナの脈はどんどん早くなる。
「ゼクト公爵の指輪が気になりアイテール帝国まで調べに行った。だけど、帝国側からはなんの情報も得られなかった。そこで君に会った時少し頭がスッキリしたんだ。でもやはりこの国に戻ると頭がおかしくなる」
ユージーンもゼクト公爵の手にある指輪を目撃していた。アイテール帝国に伝わる指輪かもしれないと気になり、自ら調べに出国したが、帝国に伝手もなく結局なにもわからなかった。
クリスティーナは察していた。ユージーンもゼクト公爵の持つ黒真珠の指輪のせいでゼクト公爵の都合の良いようにしか物事を考えられなくなっていたのだと。
だとしても、やはりユージーンを許すことは出来ない。
アレクシスに黒真珠の指輪が盗まれた時期を確認した。父王とクリスティーナが処刑台に上がる一年前のことだった。
クリスティーナがユージーンの不貞を目撃したのは指輪が盗まれる少し前のこと。
ユージーンがレイチェルに惹かれたのは黒真珠の指輪の効果ではなく、ユージーンの意思によるもの。
強い精神力を持つものは指輪の力は効かないと聞いた。そういう醜い心の揺らぎにつけ込まれて、指輪の力が働くようになったのだろう。
ユージーンは父王に向かって民のために死ねと言った。
「話はそれだけですか」
「…………本当にすまない」
ユージーンは俯いて小さく謝罪する。
そんな態度を取られたところで、クリスティーナの決意は変わらない。
殺してやりたい。今度こそ。
なのにまた瞳が涙で滲んで前が見えづらい。ユージーンの喉元に突きつけた剣先は震えている。
「ユージーン様っ!! 失礼します!! 帝国兵が近くまで迫ってます!」
クリスティーナが躊躇しているとユージーンの護衛がバンッと扉を開けて入って来た。
「お、お前たちは……!?」
「ちっ……! こいつは俺が食い止める! 姫さんは陛下の仇を……!」
ランスロットがすぐに護衛に切り掛かる。
だが、ユージーンの護衛も腕が立つ者でカンカンと互角の打ち合いとなる。
その合間でランスロットが「姫さん、早く討て!」と叫ぶ。
「…………」
早く……早く、ユージーンの首を取らないと。この男は父の仇……!
そう思うのにどうしても手が震える。
「ううっ……ふうっ………うっ……!」
ついに堪えきれずにクリスティーナが涙を流した時だった。
「お前が手を汚す必要はない」
横から大剣でクリスティーナの剣を弾かれる。
「っ……!?」
すぐにユージーンは口と鼻を手巾で塞がれ、くらりと床に倒れ込む。
「アレク!!」
やって来たのはアレクシスだった。
「一体何を……?」
突然倒れ込んだユージーンを見てクリスティーナはアレクシスを見る。
「こういうときのために渡してくれたのではなかったのか?」
アレクシスはクリスティーナから渡された眠り薬の入っていた空の小瓶を見せてやる。
「そうね。使い方はばっちりだわ」
クリスティーナは涙の滲む目で無理矢理笑って返事をする。
「ランスロット! 仕留めたか!!」
「ただ今!!」
その返事と共にランスロットはユージーンの護衛を斬る。
「おい! この馬鹿王子を捕虜にしろ!! ついでにこっちの馬鹿女の方も捕らえておけ!」
「はっ!」
後から入室して来た帝国兵が眠っているユージーンとレイチェルを捕縛する。
「クリスティーナ、あの馬鹿王子は後でお前の気の済むように私が処分してやるから、無理して自分の手を汚すな!」
そう言って大剣で弾き飛ばしたクリスティーナの剣を拾ってクリスティーナの手に握らせてやる。
「首を取ることだけが復讐じゃない。殺さずとも亡きルーナ国王が報われる方法を選べば良い」
「あ……ありが、とう……ううっ……うっ……」
アレクシスのその言葉でクリスティーナはユージーンを討たなければという責務から解放される。
クリスティーナはアレクシスに縋るようにして涙を流す。
クリスティーナが言う父の仇討ちがしたい、それを鵜呑みにユージーンを斬ることしか考えていなかったランスロットはアレクシスの言うような発想はなかった。
殺したいけど殺せない。そんなクリスティーナの葛藤に気付いてやることはできなかった。
ランスロットはアレクシスの服を掴んで涙を流すクリスティーナから目を逸らす。
「クリスティーナ! 悪いが泣いている暇はないぞ! ゼクト公爵がいつの間にか広場に移動しており、武器を持った国民たちに演説をしている!」
「っ!」
「帝国の兵士たちには、武器を持っただけの国民は傷つけずに食い止めるように指示を出したが、どこまで食い止められるか……!」
クリスティーナはグイッと腕で涙を拭って前を向く。
「広場へ急ぎましょう!!」




