表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

20 地下通路

5/11朝改稿しました。

 王都へ着くまでの道のりでクリスティーナとランスロットは毎晩、眠り薬を精製した。

 精製してできた精油の方は嗅ぎ薬として使用できるが極少量しか精製できない。

 蒸留水の方は飲み薬になるが、大量に飲ませないと効果がない。


 クリスティーナは少量の精油の方を小分けに小瓶に入れいざという時のために使用することにした。



     ◇



 キンキンと激しく剣がぶつかり合う。


「民間人は絶対に斬るなよ!」


 アレクシスが大剣を振り回し、ルーナ王国兵を斬りながら叫ぶ。


 戦争にもルールがある。非戦闘員は斬ってはならない。

 だが大抵の戦争はそういったルールを無視して敗戦した側は傭兵などのガラの悪い兵士に襲われ略奪される。


 もちろん帝国軍に加勢する際、その心配はした。自国民に略奪をするような国に加勢などしたくない。だが、帝国の属国になった国の国民たちは帝国軍による略奪は無かったという。

 帝国軍は傭兵も使うが粗暴な傭兵は契約を切る。略奪行為を見つけた場合は戦で功績を上げても報酬はもらえない。そういった契約を確認して帝国軍に加勢をしても良いと判断し、クリスティーナは傭兵志願をした。



「ランス! こっちよ!」


 ランスロットは王城の裏側でクリスティーナに引っ張られた。

 クリスティーナとランスロットは随分前に王城前での混乱に乗じて軍の中から抜け出していた。


「これを着て!」

「これは……!」


 クリスティーナに渡されたのはルーナ王国兵の服


「どこでこれを?」


 するとクリスティーナは人差し指を立てて「シーッ」と言う。


 クリスティーナの向こう側を覗くと二人の男が服を剥かれて眠っていた。


「ああ、なるほど」


 クリスティーナとランスロットはすぐに着替えて、防具を身につけ兜を被る。


「こっち来て」


 クリスティーナが向かうのは王城ではなく裏門から続く墓地へ向かう。


「こんなところに何が?」


 クリスティーナは王族の墓地を見て指差しながらぶつぶつと順番を数えている。


「確か三番目の……目印はないのかしら……あ、これかしら?」


 一つの墓の下から鎖がチラリと見えている。

 クリスティーナはそれを掴んでグイッと引っ張るがびくともしない。


「ランス、ぼけっとしていないで手伝って!」

「あ……は、はい!」


 ランスロットがそれを強く引っ張ると墓の下からガチャンと何かが外れたような音がした。


「うん、多分当たりだわ! 押すわよ!」


 クリスティーナが墓を押す。それを見てランスロットも同じように押すとずずずと墓が動く。


「えっ、ちょ、まさか、姫さん、ゾンビを仲間にしようとか考えてます!?」

「なに阿呆なこと言ってるのよ。ほら、しっかり押して!」


 クリスティーナは呆れた顔で、ランスロットはハラハラとした心地で墓を押す。

 すると墓が動いて下に下る階段が現れる。


「わぁっ、すげっ……!」

「うわー、真っ暗……この中をいくのはちょっと嫌ね……」


 蜘蛛の巣が張ってあって、奥は真っ暗。埃っぽそうだし、虫もたくさんいそうだ。

 クリスティーナは不快そうな顔をする。


 ランスロットが墓地の入り口にかけられていた門灯をランタン代わりに持ってきて火を灯す。


「俺が前を歩きますから」


 そう言って、拾ってきた木の先に布を巻きつけランタンの火を移す。それを入り口で振り回し、張られた蜘蛛の巣を焼き払う。

 すぐにポイっと足元に捨て、ぱんぱんと足で踏んで火を消した。


「さあ、行きましょう!」


 ランスロットは片手でランタンを、もう片方の手をクリスティーナに差し出した。

 クリスティーナが手を取っても良いのかドギマギしながら瞳を揺らせばランスロットはクスッと笑う。


「姫様怖いんでしょう?」


 クリスティーナは逞しい姫ではあるが、怖いものもある。暗いところはちょっと苦手だ。

 ランスロットはそれを知っていて、クリスティーナに手を差し出した。


「ありがとう……」


 クリスティーナはドキドキしながらランスロットの手を握った。


 二人は気をつけながら階段を下り、地下の道を進んでいく。


「泥濘んでいるから気をつけてくださいね」

「うん……」


 先は暗くて何も見えない。


「ひっ!」


 足元がぞわぞわして、クリスティーナはランスロットの背中にしがみつく。


「大丈夫ですか!?」

「今……何かが足を触ったわ……!」


 ランスロットがランタンの灯りで足元を照らすと一瞬小さな生き物がそこを横切る。


「ねずみ、ですね」

「はぁ……ねずみか……」


 何かわからないものが足をくすぐるのは怖かった。


 クリスティーナが深いため息を吐くとランスロットはくくくと笑う。


「なによ」


 クリスティーナは笑われて不機嫌そうにした。


「いや……剣を持って兵と戦っているときはこんな姿見られないから、可愛いなって思って」


 クリスティーナは姫なのだから、本当はいつもランスロットの影に隠れて、しがみついていて欲しい。


「か、かわっ……」


 クリスティーナはランスロットに可愛いと言われて顔を赤くする。暗くて顔色を知られないのが幸いだ。


「ほら、いきますよ」


 ランスロットがクリスティーナの手をギュッと握る。


「う、うん……」


 クリスティーナは腕を引っ張られて足早にランスロットについて行った。


 どうか、この手をずっと離さないで……そんなふうに思いながら……



「ところでこの地下通路はどこへ繋がってるんです?」

「わからないわ……」

「えっ?! 知らずに歩いているんですか?」


 王城と外と繋がる隠し通路があることは知っていた。だが、どこに繋がっているかはわからない。


「お父様の寝室と、私の寝室にも隠し通路があったはずだけど、それもどこへ繋がっているかはわからないのよね」


 この地下通路は王族の緊急避難用で、情報が漏れると暗殺などの侵入経路として使われてしまうため、クリスティーナでも父から最低限以下の情報しか教えてもらえていない。


 二人は一本道をひたすら歩いた。



「行き止まり?」


 ランタンで先を照らすが壁に阻まれ、右にも左にも道はない。


「どうします? 戻りますか?」

「待って……」


 クリスティーナが周りの壁をトントンと叩く。

 少し戻ったところでクリスティーナが叩くことをやめる。


「ここ……壁の向こうが空洞になっているわ。多分仕掛け扉になっていると思うのだけど……」


 クリスティーナが壁を押すと鈍く壁が動く。ランスロットを見るとランスロットはうんと頷き、さらそれを押す。すぐに壁がガコンと何かに嵌り少しの隙間ができる。そしてその隙間に手を入れて横に力一杯引いてみると引き戸のように壁の向こうに出られる。


「また壁か……?」


 今まで辿っていた壁よりも綺麗な壁がすぐに現れる。


「しっ……! 何か話し声がするわ!」

「っ!?」


 クリスティーナとランスロットが声を潜めると何やら話し声が聞こえてくる。



「ユージーン様、何をそんなにイライラされているのですか?」

「君からもゼクト公爵を説得してくれ!」


 !?


「ローヴァン大公とゼクト公爵令嬢か……?」


 ランスロットが小さな声で呟く。

 クリスティーナとランスロットはそのまま聞き耳を立てる。


「大国であるアイテール帝国に逆らっても良いことはない! 僕は帝国軍を迎え討つようなことはするなと指示をしたはずだ! バルミュだって援軍を出して事を荒立てるようなことをして……」

「大丈夫ですわ。先日お父様が、国民たちにも腕に自信がある者は帝国軍に立ち向かうようにと演説をしましたの。今、騎士団の者たちが国民たちにも武器を配っているところでしょう」


 その話を聞きクリスティーナは眉根を寄せる。


「はぁ!? ゼクト公爵は何考えているんだ! 国と国との争いに国民を巻き込むなんてどうかしている!」

「なぜです? 国民が武器を持てば帝国軍の兵力なんてあっという間に上回りますのよ?」

「君は何おかしなことを言っているんだ!?」


 聞こえてくるのはユージーンの荒ぶる声とレイチェルのおかしな話。


「おかしいのはユージーン様ですわ。四ヶ月前、調べたいことがあるって国の外に出てからおかしいですわ」

「おかしいことなんてない。違和感のある出来事が多かったから調べるようになっただけだ。事実、君は僕との出会いのことだって嘘をついていたじゃないか!」

「それはユージーン様がわたくしのことを好きだっておっしゃってくれたから、嫌われたくなくて話を合わせただけですわ!」

「そ、それはすまない……! だが……僕にとっては出会いの出来事が一番大切なことで……」

「そんなの……ひどいですわ……」


 ぐすぐすとレイチェルの泣き声が聞こえてくる。


「ユージーン様がわたくしのことを好きだとおっしゃるから! クリスティーナ様とは婚約破棄するっておっしゃるから、初めてを捧げたのに……」


 クリスティーナの胸がドクリと強く鳴る。

 もうユージーンのことなど何とも思っていない。今はただの父の仇で復讐の対象。そう思っているはずなのに、不貞を働いていた話を聞くと、過去にその場を目撃した時のことを思い出し、クリスティーナの胸は抉られる。


「わかってる! だから、ちゃんと責任は取る! 君は私の妃として隣に立っていればいい! だがこれ以上の贅沢はやめて、国政には口出しをせず大人しくしていてくれ!」


 ユージーンが怒鳴るような声を上げるとレイチェルが「ひどい、ひどいですわ」と一段と強く泣き喚く。


「あの頃の僕はどうかしていたんだ……。クリスティーナは君と違って、舞踏会ばかりしたがったりなどしなかったし、公務だってちゃんとこなしていた。国政のことでおかしな提案をしたりすることもなかった。君だけじゃない。この国の者たちはどうかしてる……」


 ユージーンが呟くように言うが、声が小さすぎてクリスティーナとランスロットには聞こえない。

 だが、何かを言っているというのはわかる。だから二人は壁にもたれて耳を壁に近づけた。

 するといきなり壁がくるんと回転した。


「え、」


 クリスティーナとランスロットはユージーンとレイチェルが揉めていた部屋にどしんと倒れ込む。

 壁は回転して元通りになっていた。


「は、? 兵士!? どこから……!?」


 ユージーンが目を丸くしてこちらを見る。

 泣いていたレイチェルは驚いてキャーキャー騒ぎ出す。


「いやー!! 曲者よー! いやー!!」


 慌てて部屋の外へと飛び出そうとしたので、近くにいたクリスティーナは咄嗟に手巾を取り出しポケットに入れていた小瓶の蓋を外して手巾に液体を染み込ませる。そしてレイチェルの腕を掴んて引き止め、それでレイチェルの鼻と口を塞ぐ。

 するとレイチェルの力はふっと抜けていき、ぐらりとその場に倒れ込む。


「レイチェル!!」


 ユージーンは部屋に置いてある剣を手に取る


「貴様、レイチェルに何をした!」


 剣をこちらに向けて構える。


「眠らせただけです」


 クリスティーナが答える。

 するとすぐにユージーンはハッとする。部屋に倒れ込んだときにクリスティーナが頭に被っていた兜は外れてしまっていた。


「えっ……クリスティーナ……?」


 ユージーンが一歩前に出る。


「姫様に近づくな!!」


 ランスロットがクリスティーナを守るように前に立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ