2-26 決して抗うことの出来ない大いなる力
おれの決死の許し乞いに対し、ハイエルフの皇女、星読みのリターナは無表情のまま、翠の瞳をパチクリとさせた。
その長い耳がピクリと動き、じっとおれの頭頂部を見つめる。
「……アキヒロ、頭、低い。リタ、怒って、ない。エルフの国、本当にピンチ、だから。それより、横の、人間?、すごく、怖い。魔力が、オーバーフロー、してる」
傀儡の洗礼で口と身体の自由を完全にロックされたはずのケイコが、「もご、もごごごごごっ(殺します殺します殺します)」とものすごい強STRを発動させ、床の石畳をミシミシと粉砕しながら、拘束魔法を力づくで物理破砕しようとしてる。
とりあえずこいつのアダ名は嫉妬獣に変更だ。
おれは最高位拘束魔法の【神代の荊冠】を発動させ、嫉妬獣を闇に葬った。
「もごごごごごっ――」と呪詛の残響を残しながら闇に消えていく我がパーティーの最強獣。
やつのMNDでも15分はあの魔法は解除出来ない筈だし、とりあえずこっちの話を先に終わらそう。
「悪かったな、リターナ。……で、本題だ。お前が『星読みの巫女』の固有能力で、わざわざ学園の門番に網を張ってまでおれを待っていたってのは分かった。世界樹の根の汚染。エルフの全戦力でも詰んでる無理ゲー。それを、おれに解決して欲しい、と」
「……うん。リタの未来視、間違って、ない。アキヒロなら、できる。エルフを、救える。……報酬、は、世界樹の、最上位精霊契約。アキヒロ、それ、好き、でしょ?」
リターナがおっとりとした棒読みのまま、おれの物欲をピンポイントで刺激するダイレクトマーケティングを仕掛けてきた。
最上位精霊契約。
ゲームの仕様通りなら、召喚士の☆8スキルに到達しなければならない。
本来のストーリーを容易く崩壊させる隠しフラグ報酬だ。
これがあれば、地道にレベル上げをする何倍もの速度で【最強への道】を爆走できるのは確かだ。
しかし、その分難易度はハネ上がりそうだな……
しかも、おれの知らないクエストである可能性が非常に高い―――瞬間、おれはハッとある事案が脳内を駆け巡った。
もし今からやるクエストが、前世でエルフの里の防衛クエストをやってた時、もうすでに起こってしまっていた、あの悲しい事件を解決する内容であったとしたならば……
もしかして―――あの悲劇のフラグをへし折る事が出来るのか?
おれは脳内で攻略チャートを築き上げていく。
約5分程の思考という名の沈黙の後、おれはリターナへと返答する。
「リターナ、その依頼受けよう」
その返事を聞いた彼女は、表情こそ変わらないものの、長い耳がピクピクと喜びを表していた。
「ありが、とう。アキヒト。最大限の、感謝、を」
「ああ。ただし、先にヤる事があるから、それを処理してからになる」
「もう、たくさん、待った。これ以上、待つと、手遅れ、なるかも………すぐに、里に」
耳を少し垂れさせながら、おれの意見に対してそう心配するリターナを、おれは手で制しながら自信たっぷりに告げる。
「その問題を確実に解決する為に必要な事なんだ。大丈夫。おれを信じろ」
「………本当、に?……大丈夫、なの?」
おれの言葉を聞いても、まだどこか不安そうなリターナへ、おれは笑顔で応えてやる。
にちゃぁ。
「…………絶対、信じない」
彼女の深い翠の瞳に、深い闇が纏った。
おれは10分足らずで抜け出してきた嫉妬獣に再び同じ魔法を掛けて排除した後、15分掛けてリターナを説得した。
MPを無駄に消費させられた。
とりあえずはまず予定通り、召喚士への転職条件を満たしに行く。
おれは、ただ気絶しているだけのスタコラシスターズに水魔法をぶっかけて起こと、リターナの紹介とクエストを受けた経緯を説明した。
2人はリターナに寄り添い、「任せてよ!」と笑顔で応え、「何があっても蹴散らしてやるんだから」と、あのデスマーチを生き抜いた自信と、おれの指導がどれだけ苦痛であったかを息巻いて説明していた。
どんな事があっても大丈夫だと胸を叩く2人に、嫉妬獣の現在の状況と、それへの処理を指示した―――瞬間、「あきらめて」と一言だけ発し、その場から逃げ去って行った。
リターナの深い闇翠の瞳が、漆黒に染まっていくのを眺めながら、おれは2人に拘束魔法を発動し、嫉妬獣の檻にぶち込む。
阿鼻叫喚の悲鳴を身体中から発しながら、闇へと飲み込まれていく2人を尻目に、おれはリターナを引き連れ、図書室へと歩みを進める。
両耳に上級回復魔法を掛けながら―――。
地獄の女子会への想い(不安)を馳せて―――。




