2-19 相手に思わせる為には、すごい力が伴うらしい
おれは一歩一歩、確実に間合いを詰める。
「ひっ……、く、くるな!」
武器を失い、尻餅を付いたバカ殿は、無様に地面を這いずり回りながら後退していく。
全人類の頂点、天才、そんなプライドはもうどこにも残っていない。
目の前にあるのは、己の理解を遥かに超えた『怪物』への、純粋な恐怖だけだ。
よし、もう戦う意思は無さそうだな。
―――じゃあ、後処理の開始だ。
おれ達は、今後こいつとはもう2度と関わりたくない。
しかし、当然校舎でバッタリ会う事もあるだろう。
ならどうすればいいか?
会ったとしても、相手がおれ達と関わりたくないと思わせればいいのだ。
――――――圧倒的な恐怖で。
おれは槍をアイテムボックスへしまい、外套を取り出すと、それで自分の体を包み込む。
バカ殿を含め、周りからは「何だ何だ」「何をしているんだ」と声が聞こえる。
おれは観客達から姿をかくした状態で、転職の指輪を使い、武道家へと転職を開始した。
転職後、包み込んでいた外套をファサッと翻すように剥ぎ取り、そのままアイテムボックスへとしまうと、おれはまた再び、この間に立ち上がっていたバカ殿を目掛けて歩き出す。
「ひ、ひぃ!く、来るな!―――来るな!」
と叫びながら、腰が引けちまっているバカ殿へ、視線が途切れる一瞬のスキを付いて肉薄すると、そのままヤツの鳩尾へ掌打を放つ。
「ぐふぇ!」と、くの字に曲がったところへ、間髪入れずに、掌打した手をそのまま上にかち上げ、ヤツの顎を撃ち抜く。
ヨロヨロと2歩後退したバカ殿へ、おれも合わせて歩みを進め、右上空からヤツの左鎖骨を目掛けて、おもいっきり振りかぶった肘を叩きつける。
1回。「グッッッ!」。ヨロけて離れた分近づき、
2回。「ガハッッ!」。今度はその場に蹲ったので、
3回。「バキィ!」「グギャァァァ!!」
ヤツのVITも中々のもんだ。
おれの貧弱なSTRだと3発もかかっちまったぜ。
「―――ひ、ひぃぃぃ!!」と悲鳴を上げて、今度はおれの反対へ逃げようと、きびすを返したので、おれはヤツの右足を手前に足払いし、足が伸びきったところで、ヤツの膝目掛けておれの踵で思いっきり踏み抜いた。
「グハァ!」と叫ぶ声と共に、無事に膝が砕けた音を聞きながら、それでも残った片足と片手で、這いつくばって逃げようとしているバカ殿の前へ回り込み、顔面を上に蹴り上げ、打ち上がって剥き出しになった喉元へ、渾身の突きを入れる。
「グッッッッッッ!!」と声にならない声を喉から発しながら、吹き飛ぶバカ殿へ、再びゆっくり歩みを進める。
クグもった声で、後ろへ這いずっているバカ殿の左側へ回り、顔面へ横蹴りを放ち吹き飛ばす。
うつ伏せになったバカ殿は、まだおれから逃げようとするので、今度は右側から蹴りを放ち、反対方向へ吹き飛ばす。
おれはバカ殿のおおよそのHPを確認したがら、瀕死になるまでこの作業を続けた。
―――とうとう動けず、空を見上げる形で動かなくなったので、おれはヤツの右肩を踏み、地面に固定した状態で、涙と鼻水にまみれ、悲壮を浮かべるヤツの顔を目掛け、右拳を腰に当てて構えを取る。
「だから、泣くんじゃねぇって言ったろ?みっともねえ。―――それじゃあ……また……来世でな」
そして、最後に武道家のスキル、『正拳突き』を発動させた。
「ドッッコン!!」
耳が劈く音と共に、バカ殿の左横の地面へ叩き込まれた拳は、舞台の地面を割り、拳大に陥没していた。
バカ殿を確認すると、泡娘ヨロシクな気絶をしていた。
「―――そ、それまで!!」
すこしの静寂の後、審判が号令を掛け、決闘は終了した。
瞬間、爆発的な歓声がそこら中を駆け巡りおれの体がビリビリと震える。
おそらくレポートや書類などであろう、ものすごい量の紙吹雪が空を舞っていた。
これ後で泣くんじゃねぇ?大丈夫?
ハラハラと試合を見守っていた近衛騎士は、瀕死の状態で気絶したバカ殿を見て、試合終了と共に「殿下ーーーー!!!!」と駆け寄った……りはせず、こちらを向いてサムズアップしていた。
その目からは涙が溢れ、黒く濁っていた瞳に光が戻っていた。
おれも同士へ手を上げ応え、目で「おかえり」と言ってやる。
――――――ふぅ。
沸き上がる大歓声の中、おれは空を見上げて深いため息をつく。8回ほど。
まぁ、ここまでは予定通り順調に終わったぁ。
さぁ、問題はここからだぁ。
あぁ、最難関クエストよりも感じるこの重い緊張感。
はぁ、………相手せずには終わらないぃ。
なぁ、もうそっちを見るのも億劫なんだがぁ……。
わぁ、Sランクボスを相手にするより足が震えてらぁ。
やぁ、そこの完全武装(花嫁衣装)のお嬢さん。
あんなパフォーマンス(バカ皇子への虐待)をしなくても………もう、すでに……おれは、お前と関わりたくないと、思ってるよ…………。
――――――圧倒的な恐怖で………。




