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廃カス課金プレイヤーがチート知識で神職『リミットブレイカー』になるまで  作者: なんくるないさ~
第二章 アルカノ魔法国編

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2-15 決闘なんかより、もっともっと必要なこと



あれから、ケイコの脳内に吹き荒れるカオスな混乱デバフを解くため、おれは合理的な理由と本来の目的を必死に説明したが、説明すればするほど何の効果も満たさず、得意の拡大解釈を脳内にインストールした彼女のイカれた頭の中でどうデータ変換されたのか理解に苦しむほどの最悪なバグが発生し、「――浮気なんて私は絶対に許せませんわッ!」と本気の一撃を込めて振り下ろされる剣を、おれはアクロバティックに躱し続け、通りを歩く群衆は、それが何のパフォーマンスか分からぬまま拍手喝采し、足元へチャリンチャリンとお捻りの硬貨を投げつけてくるカオスの中、最終的に精神力をゴリゴリ削られたおれが折れる他なく、「……バカ皇子とお前を賭けて戦うんだ。そしておれが勝つ」と、そんな恥ずかしすぎるセリフをバカらしく宣言すると、ケイコはようやくピタリと動きを止め、「そ、そんな……私のために戦うなんて……っ」と、どこかの古典的恋愛シミュレーションゲームで聞いたようなヒロインのテンプレ台詞を吐き、ようやく落ち着きを取り戻した時は群衆からのさらに多くのコインが宙を飛び交い、皆から祝拍されたと勘違いして余計にデレデレ度が増したケイコはおれの右腕にこれでもかとくっつきやがり、そのまま宿までの生き地獄のような道のりを進む羽目になった。


宿へ滑り込むなり、おれはスタコラシスターズに風呂でどうにかしてあのデバフを剥ぎ取ってきてくれと懇願し、彼女を引き渡した後、一人部屋にて30分ほど虚空を見つめながら溜め息をつき続けるという精神安定を済ませ、おれもようやく宿の風呂へと向かって湯船に浸かり、文字通り魂を口から抜きながら、溺死寸前まで湯の中に気絶するように沈み込む。


――――――つ、疲れた……。



這う這うの体で宿の部屋に戻ると、スタコラシスターズによる物理的な湯治が効いたのか、少しだけデバフの取れたケイコが座っていた。


おれは部屋の隅で疲弊している泡娘へ、無言で完璧なサムズアップを送る。


「しかし、何故このタイミングであのような場所に皇子殿下がおられたのでしょうか?」


状態異常がひとまず落ち着き、至極真っ当な思考を取り戻したケイコが素朴な疑問を投げかけてくる。


「ちょうど、あいつが十六歳になったタイミングと被っちまったんだろうな」


おれは濡れた髪をタオルで拭きながら、ベッドの縁に腰掛けた。


この国では、十六歳の成人を迎えた者から魔法学園への入学資格が与えられる。


それまでは、それぞれが各地の私塾や学舎に出向いて基礎学習に励み、学園の過酷な入学試験に対する周到な対策を取っているはずなのだ。


あの残念ハイスペックなバカ殿も例に漏れず、ちょうどその年齢を迎え、試験を受けにやってきたのだろう。


「そうだったのですね。……しかし、どうされるのですか? 噂では、実力は同世代の中でも間違いなく最高峰の方なのでしょう?」


「ああ。しかもあいつは、入学前だっていうのにすでに初級魔法、下手したら中級魔法まで実戦レベルで使えるはずだ」


「そ、そんな……! まだ魔法学園へ入学もしていないのに、ですか?」


ケイコが驚愕に目を見開く。


「ああ。それを可能にしているのが、あいつの持つチートアイテム『星詠みの魔導書(アストラル・グリモワール)』による恩恵だ」


おれは一息つき、前提となるゲームのバックグラウンドを彼女たちに説明し始めた。



本来であれば、学園の厳重な図書館にある固有の魔導書を読み解き、その真髄を完全理解した上で、魔力操作が一定の水準を満たし、さらに学園の目の肥えた講師陣に認められた者だけが、【魔術士(ウィザード)】に転職できる仕様になっている。


しかし、あいつが肌身離さず持っているあのぶっ壊れレアアイテムは、学園の図書館にしかない貴重な魔導書の代わりをいつでもどこでも務める上に、さらにはすべての魔法の使用MPが1/2になるという狂ったパッシブ性能を持っている。まさに公式チートアイテムだ。


あいつはこの国の皇子という立場上、この学園を卒業する義務があるが、システム的なシステムログを覗けば、入学前の段階でもう『魔術士』への転職条件を完璧に満たしている。


もちろん、この学園は単なる転職所ではなく、ちゃんとした最高峰の学問としての授業もあるので、おれ達みたいな「ただ転職条件を高速で満たすためだけ」に潜り込もうとする者は本来、極めて稀なのだ。


学園の卒業生という肩書きは、この国にとってエリートへの直行便が確定されたようなものだからな。


ただそれにしても、入学前の段階で既にゴリゴリに魔法を実戦運用できるのは、数いる入学者の中でもあいつだけだろう。



おれの解説を聞き終えると、ケイコはさらに深刻になりながら、おれへと疑問を投げ掛ける。


「経緯は理解出来ました。では、どのように対決へ対応されるのでしょうか? 相手は初手から容赦なく魔法も使用して来るのですよね?」


「ん? いや、勝つのは確定してるからそこはどうでもいいんだよ。ただ、勝った後の方が面倒臭くなりそうなんだよな」


「……えっ? そ、そうなのですね……っ」


勝つのは確定、というおれの無駄に自信に満ちた言葉に、ケイコが再び両手を頬に当て、顔面をぽうっと赤く染め始める。


しまった。また厄介な発作が出始めた。

おれは慌てて話を逸らすことにした。


「……ゲホン! おれ達は魔術士以外にも、【召喚士(サモナー)】への転職条件を満たす必要があるから、何が何でもこの魔法学園に通うのは必須なんだ。しかし、そうなるとあのバカ殿とはこれからも同じ校舎で、嫌でも鉢合わせするタイミングがあるだろう。だから、決闘でただ叩きのめすんじゃなく、どうやっておれ達とはもう二度と関わらせないようにフラグを折るか、そっちを考える方が最優先課題となる」


バカ殿という単語が引き金になったのだろう。部屋の隅で体育座りをしていた地震娘が、恐怖と嫌悪感からか低音の唸り声を上げ、四つん這いになりかけていた。


床が微かにガタガタと鳴り始める。



「でもどうすんのよ? 対策もないまま決闘を迎えちゃったら、そのバカ殿がストーカー化するっていう悪夢が現実になるんでしょ?」


出掛けた泡を手で拭きながら、今度は泡娘が問いかけてくる。


「まぁ、それまでに脳内データベースを高速スワイプして考えるしかないんだが……」


「そういえば、その決闘って具体的にいつなのでしょうか?」


髪をいじりながらケイコが尋ねてきたので、おれは仕様をそのまま口にする。


「ん? 明日の入学試験が終わった直後だ」


「――――――はぁ?」

「――――――えっ?」

「――――――キシャアアアア!!」


ハモるような絶叫と野生の咆哮が部屋に響き渡り、地震娘の振動で宿の骨組みがきしんだ。


だが、おれの疲労はもう限界値だ。


まぁ、それまでにどうするか考えるさ。


とりあえず今日は信じられないくらい疲れたから、もう一歩も動かずに寝たい。


おれはそれ以上の思考を完全にシャットアウトし、自分の部家へ戻った後、泥のようにベッドへ倒れ込んだ。



ケイコの「間に合うかしら」という謎の呟きに気付かないまま………。




―――そして、迎えた翌朝。


おれはすっきりと起き出して、最低限の支度を整えると、一日の効率的な活動エネルギーを得るために宿の朝飯を食べに行こうと、姦娘たちの部屋の扉をノックして訪れた。


そして扉を開けた瞬間、おれの目の前には、前世において数々のクソゲーをやり込んできた伝説の廃人プレイヤーですら、一秒で攻略することを諦めてコントローラーを床に投げ捨てるレベルの地獄の光景が飛び込んできた。



「あ、あなた。どうですか? 今日は正式にあなたの『妻』になるんですもの。あなたの隣で一番素敵に映りたいのですが……似合っているでしょうか?ウフフフフ」


おれの視線の先では、どこからどうやって調達してきたのか、純白の眩しいウエディングドレスに身を包んだケイコが、おれの方を振り返りながら、嬉しそうにドレスの裾をヒラヒラと優雅に泳がせていた。


顔面は例によって限界まで真っ赤に発光していて表情が見えないまである。


そして部屋の片隅の暗がりでは、お互いにガタガタと激しく震えながら、抱き合って涙を流しているスタコラシスターズが、おれと目が合った瞬間に「無理です」「私たちの力では抑えきれませんでした」と言わんばかりに、左右へ首をブルブルと千切れんばかりに振っていた。



―――この世界で、どんな解呪(ディスペル)もできる高ランクの聖遺物があるのであれば、今すぐぶち込むべきなのは、絶対にバカ殿じゃなくてコイツだ!!!


おれの脳内のシステムログに、今日の決闘イベントよりも最悪のミッションが追加され、死への警告音が大音量で鳴り響いた。



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