1-4 いざ、冒険者ギルドへ
はぁ……。
良かった……。
マジでゲームの仕様通りだ……
ステータスプレートに刻まれた美しい修正値を網膜に焼き付け、おれはようやく全身の緊張から解放された。
ガクガクと震える膝を押さえる。
ったく、異世界の教皇モドキめ、直前でビビらせてくれちゃってからに。
しかし、原作通りのシステムだとしたら、何であの2人はわざわざあんな不審な確認をしてきたんだろうな。
まあ、おれの脳内チャート通りの結果が得られたんだ。
満足、満足。
おれは祈祷という名の「神域への重課金(転職代4回分)」をきっちり支払い、神殿をあとにした。
さて、次にやるべきは「ギルドカード」の作成だな。
これがないと、この街を出入りするたびにクソ高い「入場税」を毟り取られる羽目になる。
前世の記憶が確かなら、確かこの先の大通り沿いに冒険者ギルドの支部があったはずだ。
おれはゲームのマップデータを脳内で再生しながら、神殿から続く大通りを歩み進めた。
通りのあちこちには美味そうな屋台がひしめき合っており、鼻腔をダイレクトに刺激する香ばしい匂いが漂ってくる。
昨日の夜飯が、あの豚箱(独房)で出された「激マズパン(無料)」と「うっすい塩味のスープ(無料)」だけだったおれの胃袋は、匂いにつられて「ぐううぅ」と情けない音を鳴らした。
しかしながら、転職4回分の費用、および昨日勢いで配りまくった「お花の代金(銀貨1枚)」のせいで、おれの懐はかなり心許ない。
これからの軍資金を考えれば、ここは涙を呑んで買い食いを我慢する一手だ。
おれは後ろ髪を引かれまくる思いで、冒険者ギルドを目指した。
10分ほど歩くと、無事に巨大な木造建築のギルドへと到着した。
早速重い扉を押し開けて中に入ると、そこは「これぞファンタジー!」と言わんばかりの、いかにも荒くれ者といった風貌の冒険者たちで溢れかえっていた。
おや? 時間帯が悪かったのかな。
やけに混んでいる。
まあ、ここで引き返すわけにもいかない。
おれは受付がある正面へと歩き始めた。
それにしても凄いなぁ。
あの超極悪ゲームの、本物の冒険者ギルドの中に立っているなんて。
またしても魂の底から感動が込み上げ、辺りをキョロキョロと不審者のように見回しながら進んでいく。
すると案の定、ギルドに併設されている酒場で朝から一杯引っ掛けていた一人の冒険者が、キョロキョロしているおれを不愉快そうに睨みつけてきた。
……おっ、ファンタジーお約束のテンプレ絡まれイベントか!?
望むところだぜ! かかってこいよ!
受付の列に少し並んだ後、ようやくおれの番が回ってきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの向こうで迎えてくれたのは、スタイルが抜群に良い、赤毛ロングの美人なお姉さんだった。
こちとら前世ではボッチゲーム三昧を極め、女性免疫が完全に「ゼロ」の悲しきモンスターである。
お姉さんの眩しさに気圧され、思わず半歩ほど後退りしながらも、なんとか「冒険者登録をしたい」という旨を伝えた。
「かしこまりました。では、こちらに必要事項をご記入くださいね」
お姉さんは微笑みながら、後ろの棚から1枚の羊皮紙を取り出し、おれの前に置いた。
言われるがままにペンを握り、登録用紙に書き込んでいこうとしたのだが――おれはその記入項目のあまりの少なさに、思わず動きを止めてビックリしてしまった。
用意されている項目は、【名前】【年齢】【現在の職業】と、その【熟練度】……これだけ。
えっ? マジで? いいの、これだけで?
持っている「スキル」を隠すのはまぁ理解できるとして、「職業履歴」とその熟練度とか、ギルドの管理データとして必要ないのか?
とりあえず、疑問を噛み殺して記入を済ませ、お姉さんに手渡す。
ちなみに年齢については、この引き継いだアバターの年齢である「17歳」と記入した。決して年齢詐称じゃない。
その後、「では、こちらに手を触れてください」と言われ、カウンターに置かれた怪しげな水晶玉に触れる。これで「魔力登録」を行うんだとかなんとか。
たったこれだけの手順で、無事に登録が完了したらしい。めっちゃ楽チンじゃん、異世界。
「カードの発行まで少々お時間をいただきますので、その間にギルドの制度についてご説明いたしますね」
当然、ゲームと全く同じシステムだとは分かってはいるが、おれは素直に耳を傾けることにした。
重ねて言うが、こちとら女性免疫ゼロの人間だ。
美人の説明を断る度胸など、ハナから持ち合わせていない。
ギルドランクは、最低の「H」から始まり、G、F、E、D、C、B、A、そして最高峰の「S」まで存在する。
当然おれはHランクからのスタート。受注できるギルドの依頼は、自分のランクの「1つ上のランク」まで。
ここらへんは、前世のあらゆるゲームでも採用されている定番の親切設計だ。
ちなみに、おれは実力が上がってもランクは「C」までしか上げないつもりだ。
それ以上に上げると、貴族や国からの面倒くさい「指名依頼(強制イベント)」に巻き込まれてウザいからな。
隠れ強キャラムーブ、これ最高。
ひたすらお姉さんの声に「ふんふん」と鼻を鳴らして相槌を打っていると、説明が終わったようだ。
お姉さんが、出来立てホヤホヤの、おれの名前が刻まれたギルドカードを持って戻ってきた。
「では、これでギルドへの登録は完了となります。何かご不明な点や、ご質問などはございますか?」
なんでも聞いていいのか。それじゃあ、ちょうどさっきから首を傾げていた「神殿での奇妙な出来事」について、ちょっと意見を求めてみよう。
「あの~、ちょっと気になったんですけど。先ほど神殿で初めての転職をしてきたんです。せっかくの機会だからと思って、最初に神殿で転職できる『全ての基本職』に順に転職したいって伝えたら、受付の人もお爺さんも、まるで無駄なことをするバカを見るような目で見てきて……。あれって、なんでなんですかね?」
「えっ!? そ、そんなことをされたんですか……!? 最終的に就くことができる『職業』は、どなた様も1種類だけなのに……。お金がもったいないですよ?」
あれ、やっぱり可哀想な目で見られてしまう。どうやらこれが、この世界の住人の「普通の反応」らしい。
よし、ここは廃プレイヤーとして、理路整然とした効率論で論破(説明)してやろう。
「いや、何故って……転職したら、その職業の『熟練度☆1』に関しては、その瞬間に自動で習得扱いになりますよね?
そうすれば、その職業の☆1のスキルだけじゃなくて、副産物として得られる『ステータス上昇の恩恵』は、別の職に変えてもそのままキャラクターの基礎値に加算されて残るじゃないですか」
「ステータスの……恩恵? ……ですか?」
お姉さんは、まるで宇宙人の言語を聴かされているかのような、とてつもなく奇怪な目でこちらを見てきた。
やばい、このままでは昨日と同様に、ギルドでも「頭の残念な要注意不審者」としてブラックリストに載せられてしまう。
おれは慌てて早口で続きを捲し立てた。
「はい! 例えば【戦士】のルーキーになれば、それだけで『STR』が4も跳ね上がるわけですし! だから、転職条件が必要ない初期の基本職には、最初にまとめて全部に就いてボーナスを回収するのが『育成の当たり前』だと思ったのですが……」
お姉さんのあまりに冷ややかな視線のせいで、熱弁を振るっているおれの方が、徐々に「あれ? おれ間違ったこと言ってる……?」と錯覚しそうになってくる。
妙な冷や汗を背中にかきながら、おれはお姉さんからの回答を待った。
受付のお姉さんは、しばらくの間、何かを必死に噛み砕こうと眉をひそめて考え込んだあと――おれの耳を疑うような言葉を、真顔で口にした。
「……あの、大変失礼ですが。その『ステータスの恩恵』とか……『えすてぃーあーる(STR)』って、一体何のことでしょうか?」
―――――――――ホワッツ???




