2-12 キャラ渋滞
おれは世界の終末でも語るかのような、深く、重いため息をついて姦娘に説明した。
「ただ、絶望的にめんどくさい男なんだ」
まず、あいつの前で【ため息】は厳禁だ。
「はぁ、……」と溢そうものなら、あいつは即座に髪をかき上げ、「フッ、俺の眩しさに息を呑んだか。罪な男だな、俺は」と脳内変換される。
あいつの頭の中には、あらゆる暴言や拒絶を【照れ隠しの愛の告白】へと一瞬で変換する、呪いの特殊フィルターが常時搭載されているんだ。
怒るだけ無駄だし、ツッコミを入れたら負けだ。
全人族の女性は、自分に惚れてしまう生き物だと勘違いしている、【全自動自惚れ限界突破モンスター】なんだから。
あいつの世界線では、すれ違った老婆から這いつくばる赤ん坊まで、すべてのメスが自分のファンクラブ会員になる。
関わると脳の細胞が死ぬぞ。
しかもさらに面倒くさいのは、あいつの極度のナルシシズムにある。
1度クエストであいつと一緒になった時、あいつとの行動は、常に3分前行動を心がけなければならない。
あいつはただのドアを開けて部屋に入るという行為だけに、最低でも3分は費やされる。
マントをファサァッと翻し、夕日の角度を計算し、最も自分が美しく見える角度で静止してから入室するからだ。
それを待っている間、冬場ならば風邪を引いちまうだろう。
クエストでモンスターを狩りに行った時など、もっとひどかった。
あいつは「フッ、俺の見せ場だな」と笑って、一撃でモンスターの首を撥ねた。
強さだけなら間違いなく優秀だが、その後が最悪だった。
「さあ見ろ! 漆黒の血飛沫に映える、俺の計算され尽くした剣撃の美を!」と吠え、返り血を浴びたまま誰もいない空間に向かって一時間も勝利のポーズを決め続けたんだぞ!
早く帰るぞと懇願するおれの言葉なんてまるで無視だ!
いいか?
あいつがどれだけキザに微笑みかけてきても、心の中のシャッターを完全に下ろすんだ。
あいつは、神々が最高の外見と最強の実力を与えた代わりに、中身の知性をすべてナルシシズムに全振りしてしまった、国一番の【残念ハイスペック皇子】なんだ。
絶対に絶対に関わるな。
おれの説明を聞き、姦娘達は、本当にそんなやつがこの世にいるのかと疑う顔をしながら、深く頷いた。
興味を持たれるとまずいので、地震娘の振動でイスがカタカタ鳴るのを手で必死に抑えながら、目で念を押す。
そうこうしている内にテストが始まった。
おれ達はそれぞれ席に付き、テストを受ける。
地震娘、頼むからその鉛筆をカタカタするのを止めてくれ。
テスト終了後、おれ達はバカ殿(皇子)に関わらないよう、すぐに教室を後にする。
―――が、ドアを開けて出ようとした時、皇子の近衛騎士がドアをふさいでいた。
なんだ?なんの用だ?
「失礼いたします。そちらの赤髪のお嬢様、エバスト皇子殿下より、直々に「その場を動かず、俺の麗しい参上を待つがいい」との仰せがございました。
―――非常に申し上げにくいのですが、殿下の気が済むまで、今しばらくこちらでお待ちいただけますでしょうか?」
―――しまった!赤顔娘の異常な程、動物に好かれる魅力が、あいつの中にあるモンスターの本能を刺激してしまったのか!?
まずい、まずい、関わると絶対に録な事にならない事は目に見えている。どうする?
どうやってこの場を逃げ切るか考えている内に、背後にはバカ殿の気配が近くまで来てるのを感じる。
振り返ると、バカ殿は左足の一本足で器用に立ち、右足は不自然に真横へピンと伸ばされ、上半身はなぜか45度右に傾いている。そして左手で自分の顎をクイッと持ち上げ、右手は天空を指差し、目を疑うような奇妙なポーズで静止していた。
―――静止していた。3分間……
そして3分後、バカ殿は、赤顔娘のカリスマによっぽど惹かれたのだろう、おれが今まで1度も聞いた事がないようなセリフで、赤顔娘に向かって話掛けて来た。
「ふ、フッ……! お、驚いたな……いやマジで、マジでリアルに女神が降臨なされたかと思ったで御座るよ!? 嘘、ちょ、待って!? 顔面国宝というか存在が尊すぎて無理、無理寄りの無理なんだが!?
いや失礼、この俺様としたことが取り乱したな!だがしかし! 君のその圧倒的な美の前に、俺の心臓はすでに限界突破しているわけであって! すなわちこれは運命! ディスティニー!
結論から言うと、俺のファンクラブの永久名誉会長(※妻)になってくれないか、デュフッ、いや、なってほしいなーーなんて!!」
――――――追加属性がキャラを超えて来るな!!




