2-6 誰かに感謝される為なんかじゃない、、筈、、、
なんとか村人たちの誤解も解け、彼らは怯えながらも、気絶した野盗どもを縄で手際よく縛り上げる作業を手伝ってくれた。
その後、初老の村長の指示により、事後処理のための衛兵を呼びに、足の速い若い獣人たち数人が街へ向けて出発していく。
おれが今からどうするのか、これからの予定を尋ねると、村長は「朝が来るまで野盗を見張りながらここで夜を明かします。その後は残った見張りをここに置いて、残りの住人で一度村へ帰るつもりです」と疲れた顔で答えた。
おれが村長との会話が終わると、あの檻から真っ先に飛び出してきた少女の母親が、「あの、あの子を……あの子を迎えに行きたいのですが」とおれに切実な表情で訴えかけてきた。
おれは「あ、ちょっと待って」と彼女を制止し、流れるように指輪の指輪でメイン職を切り替え、気配察知を起動する。
姦娘たちは、おれが「1人で行く」と告げた後、「自分たちも何か役に立ちたいので、せめて近くにまで行かせてほしい」と必死に願ってきた為、おれが戦闘を行う予定のおおよその場所と、そこへ至るまでの移動行程をあらかじめ教えておいたのだ。
……索敵完了。
ここから2.5キロメートル手前の山道を、こっちに向かって歩いて来てるな。
おれは母親に「もうすぐここに到着するから、ここで待っていれば大丈夫だよ」と伝えた。
すると、彼女はおれの無骨な手を両手でぎゅっと握り締め、「本当に、本当にありがとうございました……!」と涙を流して何度も感謝を述べてきた。
……いや、そういう最高にヒーロー冥利に尽きる感謝の儀式はさ、さっきのおれが完璧な強者ムーブ(黒歴史)をキメてた瞬間にやってほしかったんだけどな……。
「―――嘘でしょ……。これ、あんたが本当に、たった1人で全部倒した……の?
」
縛られた野盗約100人を見て、マグニチュード9.5レベルの振動を再開した地震娘の横で、ようやく到着した泡娘が開口一番に引きつった声でそう聞いてきた。
おれは「そうだよ」と息を吐きながら軽く返事をし、その視線の先で、森から無事に連れてこられたあの獣人の少女が「お父さん! お母さん!」と泣きながら両親と抱き合っている美しい再会のドラマをじっと見つめていた。
よしよし、いいぞ。この感動の再会シーンを遠くから流し目で見つめながら、フッと満足げに微笑めば……今度こそ完璧なハリウッドヒーロー映画のラストシーンっぽくなるはずだ。
さっきの魔王扱いのバッドエンドでは、どうしても納得がいかなかったのだ。
ふと、親の胸の中で泣いていた少女がおれの視線に気づき、大きな目を丸くしてこちらを見てきたので、おれはここだ!と脳内で確信し、彼らを安心させるための極上のヒーローの笑顔を彼女に返してやった。
にちゃぁ。
少女は息を呑み、小さく「ヒィッ……!」と悲鳴を上げて母親の胸の中へ踞った。
「―――お疲れ様です。ご無事そうで本当に安心いたしました」
後ろから鈴を転がすような声が響いたので振り返ると、赤顔娘がおれを見つめながら、心から安堵したような表情を浮かべていた。
「本当に良かったです。私、たくさん……たくさん、心配したんですよ?」
そう言いながら、上目遣いでこちらの顔をじっと見つめてくる、少し涙目のアイシャ。
普通のギャルゲーやヒーロー映画なら、ここで「心配かけて悪かったな」とか言いながら彼女の頭をポンポンと優しく撫でる王道の甘酸っぱいイベントが発生するのだろうが、その後はどうせ赤顔娘の病気が発生するだけだと100%分かり切っているので、丁重に辞退させていただきます。
彼女はしばらくおれの顔を見続けた後、諦めたのか、ふっと表情を和らげ、「残りの野盗の片付けや、怪我をされている村人たちの手当てはすべて私達に任せて、もうテントに入って休んでくださいね」と言って来たので、おれはそのありがたいお言葉に100%甘えることにした。
アイテムボックスからテントをサクッと設置し、そのままサバイバルマットの上に横になって、深い眠りへとついたのだった。
―――眩しい朝日の光と共に迎えた朝。
おれがテントから這い出ると、マジックバッグから大量の備蓄食料を取り出したのだろう、姦娘たちは村人たちへ温かい朝食を和気藹々と振る舞っていた。
おれの起床に気づいたアイシャが、出来立ての朝食をトレイに載せておれの元へと持ってきてくれたため、おれもその獣人たちの輪の中に入って一緒に飯を食べ始めた。
食後の温かいお茶を飲み終えた後、おれ達は「それじゃあ、おれ達は次の目的地へ向かうから」と村人たちへ別れを告げた。
すると、なんと村人たちが全員総出で街道に並び、盛大なお見送りの体制を取ってくれたのだ。
そして、彼らからの最大限の感謝と称賛の言葉は――何故か、朝食を配って手当てをしただけの姦娘たちに対してメインで熱烈に伝えられていた。
……おい。犬が死に物狂いで骨を折って102人をワンパン壊滅させたのに、美味しいところの成果はすべて鷹の餌にされたんだが。
この世界の評価システム、絶対におかしいだろ……
―――帰り道の道中。
高級馬車のガタゴトという揺れの中、御者席に座る赤顔娘が、ふと客席のおれの方を振り返って静かに微笑んだ。
「本当にありがとうございました。私の無茶な願いを、あんな風に聞き入れてくださって」
おれは窓の外の景色を眺めながら、「いや、別に大したことはしてない」とぶつぶつと返す。
赤顔娘は少し楽しそうにクスリと笑った後、どこか遠くを見つめるような真剣な眼差しでポツリと呟いた。
「……私、もっとあなたのように圧倒的に強くなって、今度こそ自分の力で、皆の命を完璧に守れるようになりたいです」
すると、その言葉に反応した泡娘が「私も! あんたのあの不条理な動き、絶対にマスターしてやるんだから!」と身を乗り出し、地震娘も「うん! 私も頑張ります……っ!」とガタガタ震えながら力強く頷いている。
強くなりたい?おれのように?
ほう、そうか、そうか。
お前ら、そんなに強くなりたいのか。
―――ちょうど良かった。
赤顔娘はともかくとして、お前ら2人をどうやって説得するか道中ずっと頭を悩ませてたんだよな……
おれは廃人の邪悪な暗黒微笑を浮かべながら、姦娘たちを見つめ返した。
「強くなりたいか?」
おれが静かに、凄みのあるトーンで問いかけると、3人はおれを見つめ返し、ゴクリと唾を飲み込んで力強くコクりと頷いた。
「よし! じゃあ、今からこの先にある――【B級のダンジョン】へレベリングに行こーーう!」
強くなりたいんだよね?
ちょうど今からおれ達が次の国へ行くルートの道中にあるんだ。
そこで死なない程度に、おれの廃人習活生として、骨の髄までたくさん強くなろうね。
「「………い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっっっ!!!!」」
夕暮れの山道に、泡娘と地震娘のこれから始まる終わりのない『地獄のような過酷な習活』に対する悲痛な絶叫のデュエットが、盛大に、そして虚しく木霊するのだった。




