2-5 その力は弱きを守る為に
大見得を切ったおれは、鋼の長槍を右肩に担ぎ、何の構えも取らない。
無防備を装ったまま、ただ静かに野盗の集団へ向かってスタスタと歩き出した。
「お、おのれぇ! 舐めるな、殺せぇぇーー!!」
首領の悲鳴のような号令を皮切りに、残る40人の野盗たちが一斉に色めき立ち、剣をギラつかせておれへと肉薄してくる。
はい、わざわざ上段から大振りに剣を振りかぶるバカ、発見。おれの勝ち。
弱点をさらけ出した無防備な二の腕へ、槍の容赦ない超高速の突きをお見舞いする。
まずは4人。
その攻撃のモーション中に、左右から目の前にまで迫ってきた白刃を、槍の頑丈な柄で「ガキィィン!」と強烈に弾き返すと、おれはその反動の勢いをそのまま利用し、長槍の穂先を街道へと深く突き立てる。
長槍を支点にして、おれは空中で大きく一回転し、旋風脚の軌道を描いて、群がってくる野盗たちの顔面を硬い革ブーツでまとめて薙ぎ払った。
床へ吹っ飛んだ野盗たちは、ちょうどおれの方を仰向けで見上げる形で転がっている。
おれは着地と同時に穂先の根元へと瞬時に手を持ち替え、水平切りのようなモーションで鋭く回転し、槍の硬い石突き(柄の末端)を使って、彼らの顎の下を正確に打ち抜いていった。
これで10人。
続けて、おれの背面から死角を突いて迫ってくる刃の気配。
おれは地を蹴って前宙をする形でその斬撃を華麗に飛び越え、空中ですれ違いざまに槍の柄を相手の股間へとピンポイントで叩きつけた。
悶絶してその場に「うへっ」と蹲った野盗の背中を、おれはそのまま踏み台にして高く跳躍。
おれを包囲せんとしていた別の野盗の背後へ出現し、着地と同時に右足を軸にしてその場で2回転、コマのように回りながら、周囲の背中と膝を鋭い横薙ぎで一文字に切り裂く。
14人。
さらに迫り来る複数の鉄剣に対し、おれは槍という武器の真骨頂でもある円運動の旋回を起動する。
襲い来る剣をすべて内側から巻き取るように払い除け、そのままの流れで持ち手を正確に狙い撃ち、手首の腱をピンポイントで切断していく。
剣をボトボトと落として無防備になった野盗たちに対し、槍の柄の底を足の甲へ向けて連続で突き放ち、骨を粉砕していく。
18人。
よし、これでもう全体の半分くらいは処理したか。
……あれ? 追撃が来ないな。向こうで固まってら。
おれはフッと息を整え、恐怖で完全に足を止めて動こうとしない野盗たちへ、右手をクイッと曲げて手招きをして呼んでやった。
「おーい、もっと一斉に、多人数でかかってくださーい」
さらに両手でおいでおいでをしてみるが、野盗たちは完全に蛇に睨まれた蛙のように硬直して動こうとしない。
馬上から指示を出すべき首領の大男すら、目を見開いてワナワナと顎を震わせるばかりで、何も命令を発することができなくなっていた。
―――ったく、仕方ない。じゃあ、こっちから行きますか。
弱いもの苛めみたいになるんで、一方的に殴るだけのゲームはあまり好きじゃないから――、できれば相手の攻撃を受けてカウンターを入れるバトルがしたかったんだが……。
おれが槍をブラブラと下げて歩み寄ると、恐怖を紛らわすように何人かがまとめてヤケクソで襲いかかってきた。
だが、どれも骨組みの見え透いた単調な動きだ。
振り下ろされた剣を、下から上へ掬い上げるように槍の柄で鋭く弾き上げると、がら空きの二の腕が露出する。
おれはその隙間にある腱へと、ミリ単位の狂いもなく正確な連続突きを放っていった。
24人。
剣の間合いと、槍の持つ圧倒的な間合いの決定的な違いが分かっておらず、ただオドオドとおれの様子を伺っているだけの動きの鈍臭いやつには、そのまま剣の間合いの外から、肩口へ突きをピピピンと連続で放ってやる。
29人。
今度は、おれの周りを取り囲むように一斉に距離を詰めてきたので、
おれは待っていまさたとばかりに、槍士のスキル――【足払い】を発動。
鋭い一閃が全員の足をまとめて薙ぎ倒す。
さらに、おれはそのスキル硬直を無くす為、285°まで回転したところでスキルを強制キャンセルし、もう一度全く同じ【足払い】のスキルを最速で連打した。
今度は、床に倒れ込んで足の位置に下がっている連中の「頭(顔面)」へと、全く同じ地を這う軌道で柄をガツンと連続で薙ぎ払っていく。
32人。
残ってる雑魚は一瞬で全滅した。
あとは首領の大男の前に直立不動で身構え、恐怖で剣を構えたまま一歩も動けなくなっている側近の精鋭が数人だ。
こっちから来ないのなら、おれはその方向へ向かって一気にフルスプリントを開始し、距離が詰まる直前、槍の穂先をガツンと地面に突き立て、陸上の棒高跳びの要領で、地面と水平になるほどの超低空&凄まじいスピードで空間を跳ぶ。
軌道の途中で体を回転させることで、槍の大薙ぎを発生させ、肉の壁と化していた側近たちを木っ端微塵にまとめてぶっ飛ばした。
―――残り、あと1人。
おれがその場に静かに着地し、槍の血を振り払って首領の方をじっと見据えると、悪党の親玉はまだ戦う意志を捨てていなかった。
彼は「うわぁぁぁ!」と叫びながら馬に強烈な鞭を入れ、馬車並みの突進スピードでおれへと迫りくる。
馬上という圧倒的な高所の優位から、おれの心臓目がけて鋭い槍の突きを放ってきた。
おれはスッと上体を傾け、自身の槍の柄で敵の突進のベクトルをいなすと同時に、電光石火の早業で『返し突き』を放った。
長槍の穂先が首領の分厚い脇腹を正確に捉え、おれはそのまま腕力に任せて、大男の巨体を馬上から地面へと強引に引きずり下ろした。
ドォン!! と鎧が路面に叩きつけられる。
「がはっ……、……っ」
く、くそ弱ぇ……。
なんか最後の最後だけ、一騎打ちのやり手な雰囲気出すの本当に止めてもらっていいですか?
期待外れもいいところだろ。
おれは内心で激しく毒づきながら、トドメとばかりに槍の柄で首領の顎を少し強めに「ゴンッ!」と叩き付け、完全に意識を刈り取った。
―――よし。完クリだな。
ふぅと息を吐き出し、これだけの数がいるので、野盗たちに縄をかける面倒な作業は、後で村の人たちにも手伝ってもらうとしよう。
とりあえず、まだ意識が残っていて、街道のあちこちで「ぎゃーぎゃー」「助けてくれー!」と泣き叫んでいる負傷者たちの声が、耳障りで煩かったので、おれは1人ずつ確実に眠らせていくことにした。
おれは泣きながら命乞いをしてくる野盗の頭を、容赦なく槍の柄で叩き、払い、気絶させていく。
「おい、何でお前らは許されると思ったの? お前らは今まで、謝ってきた村の人たちを許さずに奪ってきただろ? 因果応報って言葉、知ってる?」
……いや、違うな。前世の映画に登場するヒーローっぽく決めるには、もっとこう、爽やかな笑みを浮かべながら蹂躙した方が、良いのかな?
おれはちょっと演技(キャラ付け)を変えて、クスクスと不敵に笑ってみる。
「クックックッ。まだだ……! まだだぞ悪党ども! まだ槍がもっとお前らの血を欲しているのだ!」
……うーん、これも何かしっくり来ないな。
もっと圧倒的な『強者ムーブ』の覇気を演出しないとダメだ。
おれはさらに声をドスの利いた低音へと切り替える。
「フハハハハッ!地を這って逃げ惑え虫ケラ共が!もっと抗え!さぁ! さぁ!!さぁ!!!」
おれが夜の街道で1人きり、最高にハイなノリで「深夜のヒーローごっこ」を完璧にキメながら、残党を全員気絶させ終えたので、安全確保を伝えるべく、村の人たちを呼びに行こうと後ろを振り返った。
―――のだが。
そこには、いつの間にか様子を見に来た獣人の村人全員が、大通りに直立不動の姿勢で立ち竦み、豆鉄砲を喰らったような顔でこちらを凝視していた。
驚愕のあまり完全に脳の処理が追いつかずに呆けている村長。
ガタガタと生まれたての小鹿のように震えながら、恐怖のあまり自分の身体を両手で強く抱きしめている若い男たち。
おれの凄まじい高笑いを聞いて、怯える我が子の目を大慌てで両手で塞いでいる母親らしき獣人の女性。
一同は、冷や汗を流しながら、この世の終わりでも目撃したかのような恐ろしい様子で、おれの動向をじっと窺っていた。
おや……? 待って。君たち、一体いつからそこにいて、おれの今の名台詞を見てたの?
おれは急に顔から火が出るほどの恥ずかしさ(精神的クリティカルデバフ)に襲われ、大慌てで「あ、いや! もう安心だから! 悪党は全員やっつけたからね!」と伝えるべく、彼らの方へと足早に駆け寄って行った。
すると、次の瞬間――。
「ひぃぃぃぃぃぃっっっっっっ!!!!」
「お許しくださいぃぃ!!」
「命だけはぁぁ!!!」
獣人の村人たちは、おれの一歩に対して文字通りこの世の最大級の悲鳴を上げながら、クモの子を散らすような物凄いスピードで、おれから全力で立ち去ってしていったのだった。
夜の山道に、ポツンと一人、槍を担いだまま取り残されるおれ。
―――あれ? ヒーロー映画ってこんな終わり方だっけ?




