1-25 他人の事を考えるのも、それはそれで楽しいもんですよ
「―――私の、職業履歴と熟練度、ですか?」
ポニちゃんは不思議そうな顔で小首を傾げながらも、おれの意図を測りかねるように、その内なる情報を素直に明かしてくれた。
☆6 剣豪
☆4 槍士
☆5 戦士
☆5 修道士
☆2 斥候
……ほう。なるほどなぁ。
これはなかなかに、エリートな鍛え方をしてるじゃん。
おれは脳内で腕を組み、感心するように彼女の履歴を吟味する。
これだけの前衛職を幅広く網羅し、なおかつ現在のメイン職業が、この世界の最高到達点とされる熟練度☆7の白騎士なのだ。
さすがは現役のAランク冒険者と言うべきか、現地の人間としては間違いなくトップクラスのビルドである。
先ほど手合わせをした際、おれの出力3割の攻撃に対して、彼女が驚異的な反応速度で食らいついてきた理由がこれでよく分かった。
おそらく、彼女は元々の素のステータスとして『AGI』が異常に高いタイプなのだろう。
おれ達のような『プレイヤー』は、システムの仕様上、一律で全ステータスが「1」という完全なゴミ屑状態からスタートする。
だが、このリアル異世界の住人(NPC)たちは、生まれた瞬間から初期パラメータに大きな個体差があるのが、このクソゲー本来の仕様なのだ。
生まれながらに『INT』が異常に高く、魔法の才能だけに特化したゲームキャラなんか前世で見かけたもんだ。
さて。そうなると、おれが彼女に授けるべき、次なる最適解の攻略チャート(育成ルート)は――。
まず、さらなる上位の複合上級職を目指すなら、剣士、槍士、騎士、そして『侍』の4つの職をすべて☆7まで上げてもらう必要がある。
その上で、上位試練である『絶対の誓約の刻印』という鬼畜クエストを達成すれば、前衛最高峰の火力職【狂戦士】の道が開けるはずだ。
このクエストがまた凄まじい内容で、試練の最中に「特定の重要人物へ牙を剥いた瞬間、自分の魂が跡形もなく消滅する」という、呪いレベルの精神的誓約を自らに課さなければならない。
その呪いの強制力のせいで肉体が一時的に『狂化』するのだが、人間の本能がその精神的縛りを強引に破ろうとするため、常に己の狂気と内面で血みどろの戦いを繰り広げ続けるという、精神崩壊寸前の狂気クエストなのだ。
まぁ、これに関しては、ある『特定の裏技』さえ使えば本能の暴走を完全にスルーして手っ取り早く終わらせられるから、そこまで気を張る必要はない。
問題は、前提条件である『侍』という職業が、この大陸では信じられないほどマイナーな点だ。
ゲームのマップで言うなら、大陸の最東端にあるオブリビオン帝国よりも、さらに遥か東の海を渡った向こう側にある『極東の島国』へわざわざ足を運ばなければ転職すらできない。
どこかで「刀」カテゴリの武器さえ1本でも入手できれば、アイテムを媒介にして強引に転職のシステムを起動できるんだが……。
また、彼女の現在のメイン職である白騎士を、次のエキスパートランクである☆8【聖騎士】へと上限突破させるのは、また話が変わってくる。
そのために超えなければならない壁は、全プレイヤーが運営に殺意を抱いた悪名高き突破クエスト――『死海の巡礼』だ。
難易度Aランクダンジョンの最深層、そのさらに奥深くに隠された特殊エリア。
太陽の光が1ミリも届かない、高レベルのアンデッドや悪魔の軍勢が四方八方から無限に湧き出す地下迷宮の中へ、なんと「すべての武器防具を剥ぎ取られた全裸の状態」でぽつんと放り込まれる。
そこから、一切の物理攻撃を封じられたまま、己の純粋な信仰心(精神力)だけで【聖なる光】の結界を発動させ、包囲網を生き延びて生還することがクリア条件となっている。
しかも、この全裸鬼ごっこクエストは、周囲の状況を完全に把握するスキル『気配察知』を持っていないと、暗闇からの一撃を喰らって一瞬で詰む。
となれば、まずは彼女の履歴にある『斥候』を最高の☆10(マスター)まで極めさせたいところだが、斥候職をエキスパートランクの【隠者】にするための上限突破クエスト『全感覚の同調』もまた、本物の地獄だ。
視界を完全に目隠しで遮られた状態で、肌に触れる空気の微細な振動、洞窟内の温度の変化、漂う僅かな匂い、足の裏から伝わる地面のわずかな傾き――それらすべての五感情報だけを頼りにして、なんと「半径10キロメートル以内」の全地形と、そこに配置された全モンスターの座標を、たった1度の『気配察知』だけで完璧に脳内マッピングしなければならない。
これほどの高感度なマッピングを行うには、魔力の演算能力を高めるために、基礎の『INT』を底上げしておくことが絶対条件となる。
そうなると、熟練度を上げる副産物としてINTが大きく上昇する職業、【魔術師】や【召喚士】、あるいは上昇値は少し低いが【占術士】あたりを、先にすべて並行してレベリングしてステータスを重複加算させておくのが、最も効率的なセオリーなのだ。
―――う〜ん。ちょっとこれ、現地人のお姉さんにはタスクが多すぎて大変かなぁ……
おれは腕を組み、脳内データベースの膨大なチャートを高速で整理しながら、小さく唸り声を漏らした。
まあ、実践するかどうかは彼女の自由だ。とりあえず、世界の誰も知らない「☆8への道標」として、伝えるだけ伝えてみよう。
よし、とおれはしばらくの熟練の思考を終え、彼女の進むべき育成ルートを講義してやろうと顔を上げた。
―――のだが。
なぜか、おれとポニちゃんの間のスペースに、泡娘が両手を大袈裟に左右に広げて立ちはだかり、親の仇でも見るような激しい形相でおれを睨みつけていた。
その後ろでは、相方の地震娘がガタガタと生まれたての小鹿のように震えながら、ポニちゃんの華奢な腰に必死になってしがみついている。
当のポニちゃんは、スタコラ娘達の行動に、なんとも気まずそうな顔で苦笑いしながら、こちらの様子をチラチラと窺っていた。
なんだよ、お前ら。
こちとら今、この世界の理を覆すレベルの高尚なレベリング講義をしようとしてるんだぞ。
邪魔をしないでいただきたい。
重度のコミュ障であるおれには、「そこをどいてくれ」とスマートに言葉で交渉する高等な社交スキルなど備わっていなかった。
おれはとりあえず、彼女たちの邪魔な包囲網を速やかに退かせるため、おれはちょっとだけ威嚇しようと、手で獣ポーズを取って「ガオッ」とか言ってみる。
すると、泡娘は白目を剥き、口元から盛大に白い泡をブクブクと噴き出しながら、大理石の床へと文字通り直線的にパタリと倒れ伏した。
――――――じゃあ、最初から出てくるなよ!!




