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廃カス課金プレイヤーがチート知識で神職『リミットブレイカー』になるまで  作者: なんくるないさ~
第一章 始まりの街編

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1-23 寅と馬はいつでもあなたの側にいる



―――う、うみゃい……ッ!!!



塩とは、まさに地上に降臨した白き宝石だ!

素材の持つ潜在的な旨味を限界まで引き出す力であり、荒野を生きる人間の生命の源そのものだ。


胡椒とは、熱狂をもたらす黒き金だ!

挽きたての粒子から爆発的に広がる、五感を鋭く刺激する高貴な香りは、まさに胃袋を支配する魔法の一雫。


人が生きて行くために必要な食事という営みは、けっして、ただ刻んだ血生臭い肉を適当に焚き火で炙っただけの、味がしない上にゴムみたいに噛みきれない物体なんかではなく、ましてや鼻を摘まみながら無理矢理喉奥に押し込み、水で強引に流し込まなければ飲み込めないような、簡易食なんかで代用していいはずがない!


食とは! 人が人として尊厳を保つために欠かすことができない、最も神聖な儀式なのだ。


おれは今、この世界に転移して11日目にして、ようやく本物の「食事」という行為を謳歌している。



ポニちゃんに買ってきてもらった真新しい清潔な服に着替え、ギルド御用達の食堂の片隅で、おれは文字通り咽び泣きながら次々と温かい料理を口に運んでいた。


対面に座る赤髪のポニちゃん――アイシャは、そんなおれの様子を、お盆の上のマスコットでも眺めるかのように面白そうにクスクスと見つめていた。


……何がそんなに楽しいんだろうか?

欲しいの?

あ、いらない?

じゃあいいけど。

え、デザートのタルトも追加していいの? 神かよ




―――へぇ。思ったより広いじゃん


至福のウマ飯タイムを終えたおれ達は、ギルドが管理する一級修練場へと足を踏み入れていた。


前世のゲーム画面越しにも何度も利用した施設ではあったが、現実の肉体でこの場所に立つと、やはり肌を刺すような空気の重みがまるで違う。


広大な石造りの空間では、およそ50人ほどの荒くれ者やベテラン冒険者たちが、それぞれ真剣な表情で大汗を流して武器を振るっていた。



「おっ」とおれは視線を走らせると、訓練場の端の方に、泡娘と、地震娘がいた。


おれが親愛の情を込めてひらひらと手を振ってみると、二人は幽霊でも見たかのような驚愕の表情のまま、持っていた得物をガタガタと震わせて硬直してしまった。


相変わらずおかしな奴らだ。



おれ達は、修練場の中央寄りにぽつんと空いていた、広めのスペースへと進み出た。


「―――武器はどうされますか?」


ポニちゃんが腰の鞘から、尋常ならざる神聖な魔力を放つ、白銀に輝く細身の長剣を引き抜いた。


腕には、彼女の職業である【白騎士(ホワイトナイト)】の象徴たる、美しい流線型の特殊盾がカチリと装備される。


どうやら、手合わせとはいえ一切の手抜きなしの構えだ。


「ああ、自前のがあるのでこれでいいです」


おれはアイテムボックスに手を突っ込み、森で削り出した木刀と、雑貨屋の片隅で安売りされていた鍋の蓋を取り出し、彼女に見せつけるように構えた。


彼女が騎士職なら、おれもあえて同じ騎士職のスキル構成で相手をしてあげるのが、廃人としての礼儀ってもんだ。



「―――ふふ、噂に聞く通り、本当に面白い方ですね」


おれのみすぼらしい装備を見たポニちゃんは、一瞬だけ驚いたように丸く目を見開いたものの、すぐに楽しげに鈴を転がすような笑い声を上げた。


だが、その瞳の奥にある目の光は、少しも揺らいでいない。


むしろ、ギラギラと本気の輝きを増しているように見える。



「ですが、そのような木刀と鍋の蓋では、私のこの『ミスリルの剣』とぶつかれば一撃で両断されてしまいますね。……よろしければ、私もギルドの木剣に変更しましょうか?」


「いや、そのままで大丈夫ですよ」


おれが何の問題もないと平然と告げると、彼女は先程までの笑顔をスッと消し、少し曇ったような、あるいは酷く驚いたような、なんとも複雑な表情でおれを凝視した。


「しかし、それではあなたがあまりにも危険で――」

「危険にはならないから、安心していいよ」


あ、しまった。

重度の女性免疫ゼロの弊害だろうか。

緊張のあまり、おれは彼女の言葉を途中で遮るという、現実世界の恋愛シミュレーションなら一発で好感度が爆死する致命的なマナー違反を犯してしまった。



「―――そうですか。―――分かりました」


ポニちゃんは短くそう言って、すっと視線を伏せた。


ヤバい。話を遮られたせいで、完全に怒らせてしまったかもしれない。

ネットのまとめサイトでも『女の話を途中で遮る男は一番嫌われる』って書いてあったもんなぁ。

おれの隠れ強キャラムーブが始まる前に、人間関係が詰みかけている。



「では――始めても、宜しいでしょうか?」


だが、再びこちらを振り返った彼女の顔には、満開の美しい笑顔が咲いていた。


良かった、良かった! 怒っているように見えたのはおれの被害妄想だったらしい。

やはりエリート騎士様は器が大きい。



「いつでも。どうぞ」


おれが片手を緩めてそう答えた――その、刹那だった。


ドォン!! と爆音を立てて床の大理石が爆ぜた。

次の瞬間には、ポニちゃんの身体は文字通り「一瞬」で距離を詰め、おれの脳脳の真上から、ミスリルの凶刃が超高速で振り下ろされていた。


ふぅん。結構早いね。


だが、おれの脳内CPUはすでに彼女の軌道を完全にトレースしている。


右足を左側へ半歩だけ滑らせ、ミリ単位の隙間でその縦一閃を回避。


しかし、彼女は即座に手首を返した。


おれの首元まで振り下ろされたはずの剣の軌道が、重力を無視して直角に折れ、おれの頸動脈を真横から刈り取るような鋭い横薙ぎへと変化する。


おれは左下へと素早く頭を下げつつ、左足を軸にして円を描くように滑らかにステップし、彼女の背後へと滑り込むようにして、その神速の二撃目を完全に見切って避けた。


背面を取られたと察した瞬間、彼女は右側へ一歩移動しながら、振り返りもせずにおれの胸網目掛けて盲滅法な突きを放ってきた。


おれはそれを、左側へわずか一歩だけシフトして平然とかわす。


「ハァッ!!」


彼女はそのまま独楽のように反転し、今度は盾を前面に押し出す【シールドバッシュ】のスキルを発動。


質量兵器と化した盾が、おれを圧殺せよと追撃をかけてくる。


だが、おれは左手に持った安物の「鍋の蓋」を同じ軌道、同じ位置へと正確に突き出し、全く同じスキル【シールドバッシュ】を完全にぶつけた。


―――ガキィィィィンッッ!!!


修練場に激しい金属音が鼓膜を震わせ、発生した衝撃波が周囲の空気を歪ませた。


鍋の蓋によるピンポイントの『完全防御(パリィ)』だ。


技の相殺、および判定勝ちにより、ポニちゃんの華奢な身体が強制的に数メートル後ろへと弾き返された。


「…………っ!?」


さぁ、仕切り直しだ。


ポニちゃんは、自分の渾身の突進が「鍋の蓋」一枚に完全に弾かれたという現実が理解できないのか、驚愕に目を見開いたまま呆然と立ち尽くしている。


おれはそんな彼女に向けて、右手をクイッと曲げて手招きをしてやった。


キィィンと剣鳴を響かせ、彼女は再び目の前へとトップスピードで肉薄。


そこからは、まさに圧巻の一言だった。


上から、左右から、斜め下方から、時に鋭いフェイントを織り交ぜつつ、白銀の光条と化した幾千もの剣撃が、網の目のようにおれを切り刻まんと殺到する。


だが――おれは、そのミスリルの鋭利な斬撃のすべてを、ただの木刀で、それも一切「刃」を傷つけられることなく受け止め続けていた。


まともに受ければ木刀など一瞬でパスカリと割れる。


だからこそ、おれは剣から伝わる力と刃の鋭さを、木刀の側面で滑らせるように「擦る」ことで、そのすべての斬道を僅かに外側へと逸らし、受け流していく。


どれだけ激しい嵐のような猛攻を放たれても、おれの木刀は一本の傷すらつかない。


すべてを見切られ、完璧にコントロールされているという絶望的な状況を覆そうと、ポニちゃんは剣の柄を両手で握り締め、この日一番の渾身の一撃を振り下ろしてきた。


しかし、おれの鍋の蓋による二度目の『完全防御(パリィ)』が、冷酷にその刃を弾き、彼女の身体を再び無様に後方へと後退させた。



「は、あ……っ、うそ……」


今度こそ、ポニちゃんは完全に唖然とし、得物を持ったまま魂が抜けたように呆けてしまった。


ふと彼女の遥か後方に目をやると、泡娘と地震娘の二人が、涙を流しながらお互いをガタガタと抱き締め合っているのが見えた。



おれは木刀を軽く振り、鍋の蓋をトントンと叩いて構え直した。



―――さぁて。それじゃあ、攻守交代かな。



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