1-16 side テルミナ
助けなきゃって思った。
もちろん、私なんかが相手出来る魔物じゃない。
でも、私は冒険者で、あの人は農家の一般人。
なんでこんなところにとは思ったけど、それよりも先に体が動いていた。
パーティーメンバーのルナも同じ気持ちだったみたい。
示し合わすこともせず、私達は強敵の前に立ちふさがった。
最初に逃げてと叫んだけど、足がすくんでいるのか、農家の人は逃げようとしない。
もう1度叫んでも、何故かうーんとか唸っている。
なにしてるの!
早くしてよ!
じゃないと私達も逃げられないじゃない!
こんな魔物の相手なんか、命がいくつ合っても足りない。
ふと魔物の目を見ると、ギロりと私を睨んでいた。
あ、ダメだ。
さっきまでの勇気はどこへ行ったのか、死を前にして足が震えてきた。
なんでこんなことしちゃったんだろう。
もう逃げることも出来そうにない。
私は、今日ここで死ぬんだ。
そう覚悟を決め、私は目を瞑った。
―――その時。
「お嬢さぁん。お逃げなぁさい」
えっ何?
この場ににつかわしくない、呑気な声。
そう思って目を開けると、私の前にはあの農家の人が立っていた。
ダメ!
そう叫びたくても、声が出ない。
何をしているの、この人?
えっ、木刀?
えっ、、鍋の、、蓋?
――――――はっ!
私は、いや、私とルナは、すごい勘違いをしてしまってたんだ。
魔物の前に立っても、何も動じていないその胆力。
こんなシリアスな場面でも、まるで散歩でもしてるような柔らかな雰囲気。
この人は、農家の一般人なんかじゃなかったんだ。
ただの頭のとち狂った自殺志願者だったんだ。
そうでなければ説明がつかない。
何、あの木の棒は?冗談でしょ?
鍋の蓋?ふざけるんじゃないわよ!
さっきの鼻につくような猫なで声で、さっきから鳥肌と悪寒が止まらないのよ!!
―――えっ!?
この人いったい何をして、、、?
ちょ、挑発スキル!?
うわ!魔物が暴れ出した!
何すんのよ!死ぬなら勝手に1人で死んでよ!
私達を巻き込むな!!
えっ!?何あの動きっっ!?い、いつの間に魔物の後ろに!?
えっ、、あ、、あんな木の棒で、、、魔物が膝を、、、
っっっ!!!???魔物の背中に登ったっっっ!!?
く、鎖を!く、く、首に!!?
何っ!!
何なのあいつ!!
頭のネジ2、3本どこの話じゃないわ!!
邪神からの精神汚染を受けてるに違いないわ!!!!
―――早く逃げなきゃ、、、ル、ルナ、、、
嗚呼、、、
彼女、、、泣きながら笑ってる、、、
目の前の光景が信じられなくて、、、
脳が現実逃避を越えたのね、、、
私は彼女の腕を掴み、一目散にその場を後にした。
――――――や、やっと着いた、、、、
私も理性を失い欠けていたせいで、どこをどう走ったのか覚えていなかった。
そのせいで大きく道を外れてしまい、こんな時間になってしまった。
あの後から、ルナは何を話し掛けても、返事もしてくれなかった。
あんなに明るかった彼女が、まるで嘘だったかのように。
辛かったよね。私は分かるよ。
こっちに座って。
何も食べてないからお腹もすいたでしょ?
今お茶いれるからね。
―――はい。
とりあえずこれ飲んで、1度落ち着こう?
今日は、ナ、ニ、モ、ミ、テ、ナ、カッ、タ。
そう、そう、私の言った事を繰り返して。
ス、ベ、テ、マ、ボ、ロ、シ、ダ。
そうそう。良く出来ました。
大丈夫よ。私達はまだ生きてるんだから。
う、うん。シ、ン、デ、ナ、イ、よ。
良かった。彼女の目に少しだけ光が戻った。
良かった。私達はまだやり直せる。
さぁ後は、この月見草の花びらを持って帰りましょう。
ん?なんか人の気配が、、、
―――ブゥフォゥワァ!!(紅茶を盛大に口から吐いた音?、、、かな?)
私は、そのまま意識を保つ事を、やめた―――。




