1-14 最適効率化
―――時間は経過して、サバイバル3日目の夜。
……よし、今夜もやるか
おれは今、2回目となる深夜の【月見草】ピッキングタイムに備えるため、天然洞窟から出て、涼やかな水飛沫の上がる滝肌の植生ポイントへと向かって岩場を歩いていた。
昨日の夜は、あのまま暗闇の中で体育座りをしたまま不名誉な寝落ちを決めるかと思われた。
しかし、結果から言うとおれは無事に五感を覚醒させ、花びらを入手することに成功したのだ。
おれの覚醒に多大なる貢献を果たしたのが、なんとあの、雑貨屋で購入した「現代日本の肥料の方がマシ」とまで酷評した激クサ簡易食だった。
極限の睡魔に襲われた瞬間、あのパサパサした塊をひょいと鼻の下に持ってくる。
――それだけで、脳のニューロンが一瞬にして全滅するレベルの強烈な異臭が脳髄を直撃し、涙目と共に一発で意識がシャキッと強制覚醒したのだ。
これ、下手に高価な眠気覚まし薬を買うよりも確実に効く。
もはやギルドの受付で「魔の森サバイバル用・気付けアロマ」として高額転売したらどうだろうか。
目的のポイントに到着。
岩の上に腰掛け、昨日ほどは肉体が疲労していないな、と自覚しながら月見草の蕾をじっと眺めた。
開花まではおそらく、あと1時間以上はここでこのままニートのように地道に待機することになるのて、こういうスキマ時間こそ、今日の成果をニヤニヤしながら眺めるに限る。
「ステータスオープン」
アキヒロ
HP : 99/100(+10) MP : 10/10 SP : 4/90(+10)
STR : 14(+2) DEX : 9(+1) VIT : 10(+1)
AG I : 11(+1) INT : 1 MND : 1 LUK : 1
【職業】
戦士☆1(3/10)
【職業履歴】
剣士☆2(0/100) UP、槍士☆1(0/10)、
武道家☆2(44/100)、盗賊☆1(0/10)、
騎士☆1(0/10)
【スキル】
スラッシュ、回転切り NEW、シングルスラスト、ラッシュ、正拳突き、回し蹴り、スティール、解錠、突撃 、挑発
【所持金】
550ゴールド
計画通り、無事に剣士の熟練度を☆2へと引き上げてやったぜ!
半透明のプレートに刻まれた『☆2』の文字を見て、おれは暗闇の中でほくそ笑んだ。
今日行ってきたゴブリン村だが、おれの予想の3倍をさらに超越した密度の緑の小鬼どもがひしめき合っており、おれが足を踏み入れた瞬間、文字通りの圧倒的な物量『緑の津波』でおれをハメ殺しに攻めてきた。
そりゃあ向こうからしてみれば、たった一人の無名の人間が、初期装備の布切れ一枚で、しかもニヤニヤ笑いながら手製の貧弱な木刀をぶら下げて本陣に突っ込んできたのだ。
「舐めやがって!」と思ったのだろう。どいつもこいつも、形相が完全にガチの修羅のそれだった。
まあ、数々のレイドボスを相手に極限のフレーム単位の回避を極めたおれの敵じゃなかったけどな。
何千時間、何万時間という莫大な時間を、このゲームに費やしてきたおれの脳内データには、敵の予備動作、間合いの測り方、三次元的な死角の取り方が、文字通り本能レベルの条件反射として完璧に構築されている。
だからこそ、現実となったこの異世界でも、その超一流の戦闘技術をそのまま100%出力して、複数のゴブリンを相手にほぼノーダメージで完封することができたのだ。
だが、……クソ、一回だけ、背後から回り込んできたゴブリンの錆びたナイフが、おれの服の裾に掠ってHPを1削られちまったな。
まだまだおれの操作精度肉が甘い証拠だ。
反省だな。
戦士の筋トレ習熟も非常に順調だ。
昨日はあのクソ羊との強制20キロデスランのせいで疲れ果て、夜は1セットしか筋トレをこなせなかったが、今日は全力で夜の森を爆走させられるという不条理なイベントがなかった分(最大級の嫌味)、肉体のスタミナに余裕があったので2セットを余裕で消化した。
時間的な猶予さえ作れれば、深夜の空き時間に追加でもう1セットくらいは余裕で回せそうだ。
武道家のレベリングも概ね予定通りだ。
☆2の確定ボーナスを発生させる『回し蹴り』は、燃費が良くてSPをたったの『2』しか消費しない。
このペースで蹴り技フィニッシュを量産していけば、明後日には☆3に到達できそうだ。
モンスターとのエンカウント率を限界まで高めるために、わざわざ危険極まりないゴブリン村へ殴り込みに行ったのは、廃人として大正解のムーブだったな。
剣士が☆2に上がった恩恵で、最大SPのキャパシティが底上げされたのも非常にデカい。
―――よし。
武道家の方にちょっとリソースの余裕が出てきたな。
ならば、明日からはさらにタスクを増やし、初期化状態のまま放置している槍士と騎士の熟練度も同時にまとめて上げてしまうとしよう。
これまではどちらもSP消費が激しいスキルが起点になるため敬遠していたのだが、現在の底上げされたSP総量なら、他職にリソースを少々割いても全く問題はなさそうだ。
基本職槍士の☆1における習熟のコツは、かなり職人芸的なリアル技術が必要となってくる。
【一度、通常攻撃の『突き』をモンスターの肉体にヒットさせた後、相手が動く前に、全く同じ箇所のピンポイントの座標へ、寸分違わずアクティブスキル『シングルスラスト』を完全に重ねて打ち込むこと】。
当然、相手のモンスターだってシステムで固定されたカカシではない。
リアルに動き回るモンスターの、しかも数センチ単位の「突き傷」の穴目がけて、高速の二撃目を針の穴を通すように正確にブチ込むのだ。
尋常ではないレベルの精神集中力と、動体視力が必要不可欠となってくる。
しかも、そのために使う装備が、雑貨屋で購入して、農作業で干し草をザクザク集めるための「鉄製のピッチフォーク」なのだ。
実はこれ、この世界のシステム判定では立派に『槍』のカテゴリとして装備できる。
……が、ちゃんとした戦闘用の長槍と比べれば、その重心の悪さや扱いにくさは言わずもがな。
お金がなかったんだから仕方ないだろ! 木を削って自作したところで、刃がなけりゃシステムに『ただの棍棒』としか認定されないんだよ! 苦肉の策なんだよ!
そして、騎士の☆1レベリングの習コツは、これがまたギャグみたいな内容なのだ。
【アクティブスキル『挑発』を叩き込んでブチ切れ状態にした、生物(人間・亜人以外)の背中に、その場で強引に騎乗すること】。
こんな原生林の中に大人しいお馬さんなんて都合よくパカパカ走っているわけがないので、当然ターゲットは好戦的な野生のモンスターになる。
だが、当然ながら『挑発』を喰らったモンスターは、興奮度と攻撃性がマックスに跳ね上がって大暴れしてくるのだ。
おまけに、システム上の騎乗成功判定を得るためには、その暴れ狂う背中の上で落馬せずに5分間以上耐え続けなければならない。
これ、動きの遅いイモムシモンスター【グリーンキャタピラー】の背中に乗るのが一番ヌルくて楽なハズなんだけどな……
問題は、同じ個体を何度もハッキングしてもカウントされないという点だ。
熟練度を☆2にするためには、最低でも「10匹」の異なるグリーンキャタピラーに遭遇して、その都度5分間のイモムシロデオをこなす必要がある。
こういう時に斥候の『気配察知(索敵)』スキルがあれば爆速で時短できるのだが、無いものはねだっても仕方がない。
道中で出会ったらラッキー、くらいの精神でいよう。
実際、今日のゴブリン村への往復の際には、往路の草むらで1匹しか遭遇しなかった。
明日からは、イモムシの巣窟になっていそうな別の方角の湿地帯でも探しに行ってみるか。
盗賊のレベリングに関しては、武道家を☆3にしてから本格始動だな。
盗賊☆1の習コツは、スキル『スティール』で敵から奪い取ったその武器をその場で装備し、その武器を使って奪った相手の顔面を攻撃するだけ、という、泥棒の極みみたいな仕様だ。
しかし、剣士と同じように「5回その嫌がらせを成功させて、ようやく習熟度が1上がる」ため、レベルアップには累計50回もその泥棒コントを繰り返さなければならない。
SP消費は2なので、現在のMAX状態でも一瞬でガス欠を起こす。
それだけ多くの試行回数を稼ぐ必要があるのなら、やっぱり、初期装備として分かりやすく全員が『棍棒』を装備しているゴブリン村へ通い詰めるのが、最も効率が良い。
―――いや、待てよ? それなら、先に剣士を上げてSPの最大値を増やしてからの方がいいかもな。
実は、剣士☆2の隠しコツである『回転切り』。これは【10体以上の敵に同時にヒットさせる】のが条件なのだが、前世のクソ運営が仕込んだお遊びの隠しボーナスポイントが存在する。
10体を超えて、11匹目に当てれば習熟度『+1』。12匹目に当てればさらに『+1』。
つまり、単純計算で、【たった1回の回転切りの一閃で、20匹以上のモンスターを同時に巻き込んで巻き刈りした場合、本来100回必要な星上げが、わずか10回で完了してしまう】という、大逆転の超ショートカット仕様なのだ!
20匹のモンスターに一斉に囲まれている状態なんて、普通の冒険者から見れば「開幕即死亡確定」の絶望シチュエーションだが……今日のあの狂ったように密集していたゴブリン村の物量なら、普通にあの密集地帯のど真ん中でスキルを発動すれば、一瞬で20匹巻き込みを達成できる環境が整っている。
磨き上げたおれのステップと、正確な範囲見極めがあれば、その難題すらクリアして爆速で剣士を☆3にできるかもしれないな。
―――よし。明日からの脳内方針、確定だ!
【槍士 : フォーク突き】
↓
【騎士 : イモムシロデオ】(可能であれば)
↓
【武道家 : サッカー】
↓
【剣士 : ゴブリン大車輪】
↓
【盗賊 : 武器泥棒】
↓
【戦士 : サーカス筋トレ】
の順で、効率のパズルをカチカチと組み立てて熟練度を上げていこう。
おれが前世の8年半で培った技術と、この世界の壊れたバグ仕様。
そのすべてを総動員して、この10日間で、人間の限界を超えた星の数を稼ぎ出してやるぜ!
おれはニヤリと不敵に笑うと、鼻の下の激クサ簡易食の匂いを思い切り吸い込んで、脳をバーストさせ、午前0時の『月見草開花』へ向けて、キチッと三角座りを構え直すのだった。




