第12話
「ようやく来てくれたか……!」
待ち合わせ場所である街の外の草原に向かうと……店主さんはニコニコと笑みを浮かべながら、俺たちに近づいてきた。
しかし……彼女は俺の隣のラディアを見て、しまったといった顔をする。
「――やぁ、久しぶりだね? 道具屋の店主ちゃん」
「あー……ひ、久しぶりだね、ラディア」
「今回は私の仲間に随分と無茶な事を言ってくれたみたいだね?」
「そ、それはぁ……しょうがないじゃん……! あのラディアが認める職人が作る銃なんて気になるでしょ?」
店主さんは「それに」と付け足すと――
「私だって……友達のためなんだよ……!」
店主さんは視線を横にずらした。
そこには――黒髪に赤い瞳をした少女が居た。
外見からして……大体、18歳くらいに見える。
「えっと……貴方が銃の名手って言われてる人ですか?」
「……ん。周りはそう言ってる」
少女は淡々とした口調だった。
どうやら随分と寡黙な性格らしい。
「……アリア」
すると、彼女は突然、ボソっと何かを呟いた。
「え?」
「アリア。それが私の名前」
「そ、そうなのか……?」
「それで貴方は?」
アリアは面倒くさそうに俺に名前を尋ねる。
「クラインだけど……」
「そっ。じゃあ、クライン、銃を売ってくれるんだよね?」
「俺と射撃の勝負で勝ったら……な?」
「ふん……私が何年、銃を扱ってきたと思ってるの?」
アリアは見下したような目線を向けてきた。
なんだ、この子……!
俺よりも年下に見えるのに……随分と失礼だな。
そう思っていると……アリアの尖った耳が目に入った。
「もしかして……エルフか?」
「そ。私は150年以上、銃を扱ってきたの」
「150年……」
魔銃が開発されたのが、それくらい前だったような……。
じゃあ、この子、ずっと昔から魔銃を使ってきたのか……?
「……ねえ、待って」
ラディアはアリアを強く睨みつけた。
「どうして、エルフが魔銃を使うの? エルフは魔力の扱いに長けているし、精霊との相性も良いから……普通なら精霊魔法を使うと思うんだけど?」
「っ……!? 確かに……」
明らかに、この子はおかしい。
もしや……刺客か?
「っ……ち、違う……! 私は……魔法、使えない」
「どうしてだ?」
「私には……魔力が殆どないの。だから……ほら、エルフなのに髪も真っ黒」
アリアは悲しそうに自身の髪の毛を指差した。
そういえば、エルフの髪は魔力量によって様々な色になるんだっけ……?
金髪が最も魔力が多く……黒髪は最も魔力が少ないことを示す。
「黒色の髪……そっか、本当に魔力が殆ど無いのか。すまない」
「んっ……いいの。勘違いされるのはいつものことだから」
アリアはそっけなく答えた。
「……待って? まだ私は納得してないよ?」
疑り深そうな表情をしながら、ラディアは待ったをかけた。
「黒い髪だって染めているだけかもしれないでしょ? まだ、私は刺客なんじゃないかって疑ってるから」
「ラディア……」
「知ってるかわからないけど……アステール帝国の魔法使いの多くはエルフなの」
「そうなのかっ……!?」
ラディアの言葉を聞いて、俺は再びアリアへ疑いの目線を向けた。
だとしたら……アリアはラディアを追ってきたアステール帝国の魔法使いなのか……?
「――ち、違う……!」
しかし、アリアは慌てて首を横に振った。
「私は、あんな卑劣な奴らと同じじゃない……っ! 神にだって誓える」
「……本当に?」
「絶対……絶対に違う」
アリアの瞳は……真っ直ぐで嘘をついているようには俺には見えなかった。
「なあ、ラディア……一旦、信じてみないか? 刺客かどうかなんて、銃の腕を見れば、わかるだろうし」
「……わかったよ。クラインがそこまで言うなら……一旦、信じる」
渋々といった様子だが、ラディアは首を縦に振ってくれた。
「じゃあ、勝負の内容を決めようか」
「なら……あの山の木に弾を当てられるか、どうかで勝負しない?」
アリアが指差したのは……200mほど先の岩。
かなり強気だな。
普通なら……どんな銃でも50m先でも正確に的に当てるのは難しい。
だというのに200m先か。
「いいよ。受けて立とう」
しかし……俺にとって、この程度は想定内だった。
「ちなみにだが……使う銃はどうする?」
「自前の物でいい。そっちの方が……実力を発揮できる」
アリアは背負っていた銃を取り出した。
それは木製のクラシカルな長銃だった。
「順番はどっちが先でもいいぞ」
「ん。なら、私からやらせてもらおう」
アリアはポケットから包み紙を取り出すと、中から銃弾と魔石を砕いた粉を取り出す。
銃弾と魔石の粉を銃口から銃の中に入れると……次に背負っていた木の細い棒を取り出し、その二つをさらに奥へ押し込んでいく。
最後に包紙を銃口に詰めた。
「……い、いやいやいや! 待った、その銃を使うのか……?」
「……? そうだけど……というか、これが普通じゃないの?」
「え……」
こんなにリロードに時間がかかる方法が普通の方法……?
もしかしてだが……俺の知っている銃のレベルと、一般的な銃のレベルって、かなりの差があるのか?
「で、でも……その方法だと銃弾があんまり回転しないから、遠くには飛ばないんじゃ……」
「ん。そこら辺は魔法で少し補助するの。見てればわかる」
アリアは銃を左手で支え、右手で引き金に手をかける。
そして……
「〈そよ風〉」
彼女は風属性の初級魔法を発動する。
初級魔法……とはいえ、あれは初級の中の初級だ。
彼女の髪がほんの僅かに揺らいだ。
刹那――彼女は引き金を引いた。
――パァッン!
甲高い破裂音が鳴ると同時に銃口から銃弾が飛び出した。
銃弾はあんな木製の銃から放たれたとは思えぬほどの猛スピードで木に迫っていき――見事、木を撃ち抜いた。
木には遠目でもわかるほどの弾痕が出来ていた。
「す、凄いな……あんな銃で、200m先に……」
同じことが出来ると問われれば、答えは――絶対にNOだ。
魔法で補助をしているとはいえ、アリアがやっていることはパチンコを撃って200m先の的に当てるのと殆ど同じだ。
それくらい、あの銃は命中率が低いし……前代未聞のことだった。
「ふふんっ……! ……次、クラインの番だよ?」
「……そうだな。でも……聞いておくが、本当に自前の銃で良いんだな?」
「うん。私に二言はない」
「そうか……」
ならば、申し訳ないが……ここは勝たせてもらおう。
「ラディア。少しだけ銃を借りてもいいか?」
「うん! 勿論!」
ラディアは快く銃を渡してくれた。
こんな凄い腕前を見せられて、こちらも本気を出さないわけにはいかない。
「なに、その銃……? 見たことない……」
「まあ、そうだろうな。なにせ、俺が作った最新の銃なんだし」
俺は銃の上部を開き、弾を一発、押し入れる。
「……? なに、今の……? リロードしたの?」
「ああ。まあ……見てろって」
俺は銃を構え、照準器を覗く。
そして……慎重に木に狙いを定めると――
――引き金を引いた。
次の瞬間――200m先の木が砕け散った。
「え……」
俺の銃と砕け散った木を二度見して、目を見開くアリア。
「悪いな。銃の腕じゃあ、そっちが上かもしれないけど……銃の性能が段違いなんだ」
俺はしたり顔でアリアの方へ視線を向けると……さっきまで居た場所に彼女は居なかった。
代わりに――
「お願いしますお願いしますお願いします! わ、私にその銃……売ってください! なんでもしますから……っ!」
アリアは俺の足元で、涙目で俺にすがっていた。




