第13話
「え、えっと……まずは、頭を上げてくれないか……?」
俺の足にすがるアリアを見下ろしながら、困惑していた。
ここまで大袈裟に反応されるのは……流石に想定外だった。
「わかりました。なんでもします……! だからお願いします、銃、売ってください……」
アリアは正座のまま、涙目になって上目遣いで俺を見上げる。
「わ、わかった。アリアさんの覚悟はわかったから……」
「でも……私、勝負に勝ってないから、売ってくれないんでしょ?」
「う~ん……でも、さっきの腕を見せられたらな……」
結局、二人とも200m先の木に銃弾を命中させたため……勝負の結果は出ていない。
しかし……俺にとっては、これ以上、勝負する理由はなかった。
「元々俺は、本当に君が銃の名手なら銃職人として銃を売るべきだろうって考えていたんだ。それで……俺はさっきの結果を見て、確信したよ。君は銃の名手だ」
「っ……! ほ、本当!?」
「ああ。だから俺は銃を売ろうと思ってる」
「やった……っ!」
アリアは心底嬉しそうに無邪気に飛び跳ねた。
「ラディアも、いいか?」
「うん! 凄い銃の実力を持ってるってことは私もわかったから、認めるよ」
すると、ラディアは申し訳無さそうな表情でアリアに近づく。
「アリアちゃん、さっきは変に疑ってごめんなさい。あんなに凄い銃の腕を持っているのなら……アステール帝国の刺客なわけないよね」
「ん。疑いが晴れたのなら良かった」
アリアは満足げに頷いた。
すると、ラディアは「ところで」と別の話題を切り出す。
「アリアちゃん、さっき……《《なんでも言うことを聞く》》って言ったよね?」
「ん。言った……けど……」
「そっかぁ……じゃあ、一個、お願いがあるんだよね」
「っ……な、なに……?」
ラディアが不穏な笑みを浮かべると、それを見てアリアは一歩、後退る。
一体、何をお願いするつもりなんだ……?
……いや、まさか――
「ねえ、アリアちゃん。当分の間……クラインと私の妹の護衛をしてくれない?」
「……そんなこと?」
「うん。でも……このお願いは無期限だよ? 少なくともクラインの身の安全が完全に確保されるまで」
「身の安全……クライン、誰かに狙われてるの?」
アリアは真剣な面持ちで質問を投げかけてきた。
「うん、実は……少し前に魔法使いたちに襲われちゃってな……。かなりの乱闘になった末になんとか撃退できたんだけど……」
「……多分、それ、魔法使いたちの中で相当の目の敵にされてる」
「そうなのか……?」
「ん。……こんな凄い銃を見たら、当然、魔法使いたちも地位を危ぶんで排除しようとする。あいつらは……そういう奴らだから」
アリアは何かを思い出したのか、眉をひそめながら言った。
アリアも魔法使いたちに何かされた経験があるのだろうか?
「勿論、無期限で護衛する。銃を撃つには銃弾が必要。クラインが死んじゃったら……私が困る」
「そ、そうか……! 凄く助かるよ……」
「任せて。私、こう見えても、それなりに武術も出来るから」
アリアは虚空をシュシュっと殴ると、自信満々に胸を張った。
「あ……でも、申し訳ないんだが、銃を渡すのはもう少し待ってくれないか?」
「……? どうしたの?」
「実は……ラディアに渡したものと同じ性能をした銃を今、持っていなくてな……新しく作らなきゃいけないんだ」
「そうなの……? じゃあ、オーダーメイドってこと?」
「まあ。そうなるな」
「ふぅん……」
アリアはオーダーメイドという言葉が気に入ったのか、わずかに口角を上げた。
「まず、銃を作るために工房を借りて、材料を揃えなきゃいけないから……一週間はかかるな」
「ん。じゃあ、その間、私はクラインを護衛して待ってる」
「良いのか? 助かるよ」
これからの目標が決まったな。
リリスには悪いが一旦、錬金術を教えるのは中断して、アリアの銃を作るのに専念しよう。
「クライン……私に合った最高の銃、作ってね?」
「任せろ。最高傑作を作ってみせるさ」
「ん、お願い」
アリアは素っ気ない口調で言った。
しかし……最初とは違い、その瞳には強い執念のようなものが秘められていた。
「……100年くらいなら、別に護衛するのに」
その呟きは風に溶けて消え、俺に届くことはなかった。
――◇――◇――◇――
「さてと……じゃあ、銃を作りに行くか」
「クライン、どこかに工房の心当たりとかあるの?」
「ああ。実は道具屋の店主さんの知り合いが使われなくなった銃の工房を持っていたらしくてさ。なんとか貸してもらえたよ」
あの店主、案外、顔が広いんだよな……。
変な条件を偶に付けてくるのが難点だが、仲良くしておいて損はないだろうな。
俺は店主から貰った地図を見ながら街を歩くこと数十分、ようやく工房についた。
「ふぅん、随分、街の外れにあるんだ」
「まあ……今の時代じゃあ、銃の需要なんて殆ど無いからな……端に追いやられたんだろうな」
俺が恐る恐る、工房の中に入ると……予想外にも必要な設備は全て揃っていた。
ここの工房の持ち主は随分と銃作りに情熱があったんだろうな。
是非とも会える機会があれば、話してみたいものだ。
「さて……材料は買ってきたし、早速作るか」
「ん。私は少し離れたところで見てる」
「ああ、助かるよ」
まず、俺は鉄のインゴット三つと少量の青色の粉を取り出す。
「鉄はわかるけど……この粉は?」
「これはミスリルインゴットを砕いた粉だよ。これを鉄に混ぜ合わせると、付与魔法がしやすくなるんだ」
「ふぅん……」
炉の中に鉄とミスリルを入れると火を付けて、熱する。
空気を吹き込みつつ、熱し続けると……一時間ほどで鉄もミスリルも完全に液体となった。
この時、真っ赤になった鉄のインゴットにミスリルを混ぜ込む。
「さて……ここから鋳型で作っても良いんだが……」
鋳型だと流石に強度が落ちてしまう。
もし、発砲時に銃が壊れれば……最悪の場合、使用者の命も危うくなる。
そのため、今回も熱して柔らかくなった金属を叩いて形を作ることにしていた。
そうすれば金属内部の隙間が潰れ、密度が高まり、より頑丈な銃身になるからな。
まず、俺は液状になったミスリル合金を、まずは大まかなブロック状の型に流し込んだ。
表面が少し冷えて固まり、真っ赤なインゴットの状態になったところで、すかさずトングで掴み金床へと移す。
「ふぅ……いくか」
気合を入れ直し、重い鍛冶ハンマーを振り下ろす。
その度にカンッ、 カンッ、と工房内に甲高い打撃音が響き渡った。
叩くたびにオレンジ色の火花が散り、それと同時に魔力を帯びた青白い光が一瞬だけ瞬く。
鉄とミスリルが完全に馴染んできている証拠だ。
ある程度、平べったく伸ばしたら、今度は仮の芯となる鉄の棒を鞄から取り出す。
続いて、この鉄の棒に鉄とミスリルの合金を巻き付けつつ、鍛冶ハンマーで叩いて筒の形にしていく。
さらに、その上から鉄とミスリルの合金を螺旋状に隙間なく巻き付ける。
これをもう一度繰り返し、仮の芯としていた鉄の棒を取り出すと……ようやく、銃身が完成した。
銃身には美しく波打つ模様がうっすらと浮かび上がっていた。
「銃身、完成した?」
「形はな。ここから内部を削ったり、引き金とかを付けたりとかだな……。でも、これは流石に明日にするか」
俺はいつの間にか滲んでいた額の汗を拭うと、まだ熱を帯びている銃身を見つめた。
それから、内部を削ったり、付与魔法を使ったりして……一週間が経過した頃。
「……ようやく、出来たぞ……!」
遂にアリア専用の銃が完成した。
それは……最高傑作と言っても過言ではないほどの出来だった。




