第Ex話:受付嬢アネットの受難⑧『栄転そして別れ』
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「――で、だ。なんで銅等級推奨のアンデッド討伐クエストに、B級相当の上級アンデッドがいやがんだ、あぁん!?説明してもらおうじゃねえか!」
バンッ!
カウンターを叩く乾いた音が、ギルドのホールに響き渡った。
目の前には、鬼の形相をしたアリアさん。
その剣幕に、私だけでなく、隣にいた同僚まで縮み上がった。
「も、申し訳ありません!我々としましても、依頼主である領主様からの報告に基づいたものでして…」
私は震える声で弁明するしかなかった。
『放棄された古い墓所の浄化』。
私がこっそり依頼書を貼り替えて誘導した、あの「美味しい」はずのクエスト。
それがまさか、こんな特大の地雷だったなんて。
「その領主とやらは、自分の管理地の墓所に何が湧いてるかも知らねえってのか!おかげでこっちは、死ぬかと思ったんだぞ!?」
アリアさんの怒りはもっともだった。
本来なら銅等級向けの浄化依頼のはずだった。
閉鎖された場所や、特定の地形には属性を帯びた魔素が集まる。
いわゆる、魔素だまりというものだが魔素が溜まって飽和すると魔物として排出される。
これが、魔物の発生現象の一つ、〈ポップ〉だ。
こういったお墓などには闇属性の魔素が溜まりやすく、必然的に死霊系の魔物が現れやすい。
だから、定期的にポップした魔物を排除することで、魔素を散らして浄化する必要があるのだ。
だが……長らくこの墓所には浄化済みという記録だけが残されており、実際には放置されていたらしい。
結果、蓋を開けてみればBランク相当のリッチが潜んでいて……その戦闘の余波で霊廟は半壊。
〈鐵喰い〉の件に続き、またしてもギルドの『事前調査不足』が露呈した形になってしまった。
「ファルメル支部の管理体制はどうなっているんだ!」
周囲の冒険者たちの視線が痛い。
もちろん、直接の調査担当ではない私個人のミスではない。
浄化にかかる費用をケチって虚偽の申請をしていた管理者と、それを定期的な駆除依頼として処理し、調査も行わずに機械的にランクを割り振った職員のミスだ。
でも、依頼を貼り出し、誘導したのは私だ。
もし彼らが全滅していたら?
関係者全員に何らかの罰則か懲戒はあっただろう。
……それも「婚活のため」などという、公私混同極まりない理由で、危険な依頼へ誘導した職員が居たなんてバレれば、私の今後の進退どころかクビになってもおかしくなかった。
どちらにせよ、私の本部返り咲き計画は、ミス無く担当パーティをサポートしきったという実績に賭けたものだ。
なにが原因だとか、責任の所在はもはや関係ない。
今回の『管理不足による事故』の一件に関係者として、アネット・レクベルの名前があがっていること自体が問題なのだ。
(……終わった。私の人生、ここで終わりね……)
私は血の気が引くのを感じながら、ただひたすらに頭を下げるしかなかった。
──
─
その翌日、私の元に二人の男女が訪ねてきた。
「〈鐵喰い〉を倒したという冒険者に会いたいのだが……」
……へっ!?
ついに!〈ジョーカー〉の知名度を聞きつけて、専属依頼が舞い込んできたのか!
『ミス』は功績で取り戻すしかない。
その功績が向こうからやって来たのであれば、笑顔を向けるのは受付嬢として……いや、人として自然なことだ。ええ、当然のことよ。
私は自分のできる最大限の愛想を振り撒くように、満面の笑みを向けた!
そして、そのまま私の顔は固まった。
緋色の髪、燃えるアーモンドアイ。
蒼い髪、銀縁の眼鏡の奥に宿る理知的な眼光。
(……………)
「〈鐵喰い〉……ですか?ああっ!それは、きっと〈ジョーカー〉の皆さんですね♪あ~、でもぉ~今日はお見かけしていませんねぇ~……」
「…そうか。ふむ、どうもありがとう」
「いえいえ〜、またどうぞ〜〜〜♪」
「なぁに?無駄足~?じゃあさ、上に行こ!酒場!!面白そう!!」
「ハァ……見るだけだよ」
(……………………)
…………。
(な、なんで皇族の方がいらっしゃるのよぉおおおおおおおおおおおお!!??)
何したの?アリアさん!?
嘘でしょ!?
おおお、おち、おちちおちつきなさいアネット…お、落ち着くのよ……!
ひっひっふぅ~~…。
何かしたなら、使者か兵が来るはずよ。
私は首都勤務でイシュカ皇女殿下とイレイル皇子殿下の顔を見たことがあったから気づけたけれど、直接、皇族の顔を見たことある人間なんてこのファルメルでは支部長と軍関係者ぐらい……。
だから変装もそこそこに…?
ギルドに通知もなく…?
……ってことは、これはお忍び!
(で、でも…それがなんで〈ジョーカー〉を探す理由になるのよぉ!?)
「…アリアさん…ジーン様」
そう…!二人が危ないわ!
理由はわからないけれど……皇族が〈ジョーカー〉を探してるって……
ジーン様にお伝えしないと…!!
──
─
さらに数日後。
ギルドの執務室に呼び出された私の元へ、予想外の知らせが届いた。
「アネット君!君に知らせがある!」
「クビですか……?」
絶望に沈んでいた私は、どうしても最悪を想定して身構えてしまう。
「クビ……?とんでもない!順を追って話そう」
支部長が、興奮気味に一枚の書類を突きつけてきた。
「まず〈ジョーカー〉の銀等級パーティへの昇格が、正式に承認された!」
「えっ……?」
「領主代行様が、彼らの活躍を激賞されているんだ。『長年放置されていた脅威を取り除いてくれた』とね。霊廟の損壊についても不問、それどころか追加報酬まで渡したそうだ」
怪我の功名、というやつだろうか。
〈鐵喰い〉、グリフォン、リッチ。
度重なる想定外のクエストを文句を言いながらも、ことごとく踏破し、解決してみせた〈ジョーカー〉。
その異常なまでの生存能力と解決力が、ギルド本部からも「規格外の実力派」として高く評価されたのだ。
「そして、だ。アネット君」
支部長が、満面の笑みで私の肩を叩いた。
「こんな優秀なパーティを育成し、支え続けた君の手腕も評価された。……おめでとう。本部への帰任辞令だ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の時が止まった。
本部への、帰任。
長年夢見てきた、花の都エテル・イドリアへの帰還。
雪と筋肉の街からの脱出。
洗練されたシティライフと、エリート紳士たちとの出会い。
「き……きた……!!」
喉の奥から、歓喜の声がせり上がってくる。
やった……やったわ!
ついにやったのよ、私っ!
数々の爆弾処理と胃痛に耐え、ついに栄光の切符を手にしたのよ!
「ありがとうございます!支部長!」
私は涙ぐみながら支部長の手を握った。
これで、私の人生はバラ色…………
……ん?
ちょっと待って。
私が本部へ戻るということは。
ここを、離れるということ。
「……あの、支部長。そうなると……〈ジョーカー〉の皆さんは……?」
「ああ、それなんだが……」
私の受難は、まだ終わることはないのだろうか。
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*本イラストは生成AIを使用しています




