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自由のアリア  作者: カラノニジ
第八章:祈りの果ては虚ろの底
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第69話:第二回お弁当会

 ──

 ─


 まさか、これから調査する危険な鉱山の中でパーティを開くわけにはいかない。

 俺たちは、鉱山入り口の少し手前にある、見晴らしのいい開けた場所で、早めのランチタイムを行うことにした。


 ガロードが腹を空かせてへそを曲げ、案内が滞っても面倒くせぇしな。


 ここでガス抜きをしておかないと、いざ戦闘になった時にストライキを起こされかねない。


「…………」


 ガロードは、シートを広げる予定の場所の周囲を入念に歩き回り、鋭い視線を巡らせている。

 それだけでは飽き足らず、なんと地面に耳を当てて確認し始めた。


(……いや、地面の音なんて聞こえるわけねぇだろ。モグラかテメェは)


 前回の「アイアンアント襲撃によるお弁当会中止」という悲劇が、よほどトラウマになっているらしい。


 その執念深さには、呆れるのを通り越して感心すら覚える。


 安全確認という名の儀式が済むと、大きなレジャーシートが広げられた。


 わーきゃーと騒ぐ声の中、ガロードのマジックポーチから次々と取り出されるのは、〈陽の果て亭〉謹製の特注弁当の山だ。


 大量のおにぎりを筆頭に、ハムやら卵焼きやら何かしらのフライやら、色とりどりの野菜のマリネ、挙げ句にキッシュまで。


 明らかに七人分ではない。



(まあ、あれでもまだポーチに次弾が残ってるんだろうが……)


 さらに、ニーコが用意した箱の蓋が開けられると、食欲をそそる香ばしい匂いと共に、黄金色に揚げられた鳥の唐揚げがぎっしりと姿を現した。



「わぁ、美味しそうですわぁ~!」



「ニーコちゃんの唐揚げ!早く食べたいわ!」



 エステルとシュカが歓声を上げる。

 ガロードも無言のスタンディングオベーションだ。



「実は、こちらのガリオンバードのお肉はジーンさんに捕ってきてもらったんです」



「まあね、ボクにかかれば朝飯前さ……!」



(ふーん…情報収集の傍ら、本業までこなすとは……やっぱり地味に有能なんだよなぁ……)



 さすがに大人七人がシートに座るには手狭だ。

 俺とイルは、精神年齢が子供と変わらねぇ騒がしい連中に場所を譲り、少し離れた平らな岩に腰かけることにした。


「皆様!待ちに待った第二回お弁当会ですわっ!」


 エステルが、おにぎりを片手に高らかに宣言する。


「今回はニーコさんの加入と、ゲストのシュカ様とイル様を迎えて……」


 エステルが音頭を取り、周りが盛り上がっているのを横目に、イルがふっ、と苦笑した。



「まったく、緊張感というものがないね」



「ああ。俺もそう思う、毎日な」



 俺は即答した。こいつらの辞書に「緊張感」という文字が載っていないのは、もはや確定事項だ。


「……アリアンナ」


 イル……いや、イレイルが、周囲の騒ぎにかき消されるほどの小さな声で、俺の本当の名を口にした。

 呼びかけでもなく、ただ意識を向けただけのような声。


「今の方が、楽しいかい?」


 その問いに、俺は一瞬言葉に詰まる。



 貴族としての責務、軍人としての規律、処刑人としての業。


 それらに縛られていた過去と、明日をも知れぬ冒険者としての今。



 俺は、馬鹿騒ぎする仲間たち――。

 まだかまだかとそわそわしているガロード、唐揚げに感動するシュカ、それを口説くジーン、ニコニコしているエステルとニーコ――を見つめ、短く答えた。



「……まぁな」



「それは結構」



 イルは、皮肉でも何でもなく、ただ事実として受け止めたようだ。



 短い沈黙。

 風が、岩場の草を揺らす音だけが聞こえる。



「……なぁ、俺はどうなる…?」



 俺は、視線を仲間たちに向けたまま、核心を突いた。


 この調査が終われば、俺の「猶予」も終わるのか。


 その先にあるのは、良くて強制送還、その後は断頭台か、あるいは一生出られない牢獄か。



「…………」



「……はて、何のことかな?」



 イレイルは、とぼけてみせる。

 だが、その目は笑っていない。


 俺は構わずに続けた。


「……俺はいい。覚悟の上だ。だが、アイツらは関係ないんだ。見て分かるだろ?……ただのアホどもだ」


 反逆の意志なんて欠片も持ってねぇ、アイツらは見逃してくれ。

 俺は、声に出さずに目で訴えた。


 イルは、俺の視線を真っ直ぐに受け止め、そして静かに眼鏡の位置を直した。


「……僕には、皇族としての責務と立場がある。約束はできないね」


 冷徹な拒絶。

 情に流されることも、安請け合いすることもない。


 あらかじめ決まっている台詞を読み上げるように、彼は淡々と返した。

 それが、この男の在り方なのだろう。



 会話は、そこで途切れた。



「それでは皆様!おにぎりをお持ちくださいまし!」



 エステルの号令が響く。

 俺とイレイルの手元にも、〈陽の果て亭〉の特製おにぎりが配られた。



「カンパーイ、ですわっ!」



「「「カンパーイ!!」」」



 青空の下、おにぎりを掲げる七人。


 傍から見れば、ただの仲の良いピクニック集団だ。


 この中に、皇族と逃亡犯が混ざっているなんて、誰が想像できるだろう。



 イレイルは、その奇妙な光景に苦笑し、再び眼鏡の位置をくい、と直すと、スッとおにぎりを差し出してきた。



 俺は無言で、自分のおにぎりを差し出す。



 コツン。



 乾杯の音にしてはあまりに鈍い音を立てて、俺と腹黒皇子のおにぎりが触れ合った。



 それは、一時休戦の合図か、それとも破滅へのカウントダウンの始まりか。



 俺にはまだ、分からなかった。




 そうして俺たちは、岩場に腰掛けたり、シートに座ったりして美味しいお弁当を頬張っていた。


「わぁ!この唐揚げ、美味しい!外はカリカリで中はジューシー!」


 シュカも、ニーコが作った唐揚げをいたく気に入ったようで、もりもりと食べている。

 皇女様のお口に合うか心配だったが、杞憂だったようだ。



「ええっ、どうやって作るのこれ?ねぇ、教えて?」



「あ、はい…えっと、まずは下味をつけるんですけど、生姜とお酒と、あと隠し味に…」



 ニーコが嬉しそうに説明するのを、シュカは「へぇー!」「うんうん!」と真剣に頷きながら聞いている。


 そして一通り聞き終わると、


「覚えた?イル?」


 と、当然のように隣で静かにおにぎりを食べていたイルに確認した。


(……覚える気ねぇのかよ!)


 俺は内心で突っ込んだが、イルは慣れたもので「ああ、分かったよ」と軽く頷いた。


 この姉弟の関係性、本当にどうなってんだ。



「ふふん、料理もいいけど、余興といこうじゃないか」


 腹も軽く満ちたところで、ジーンが立ち上がった。


「もしかしたら、〈ウロカクシ〉もボクの〈ミラージュ〉のように、光と水の複合魔法を使っているのやもしれないね!さあ、ご覧あれ!」


 ジーンが指を鳴らすと、彼の姿が周囲の風景に溶け込むように消滅した。


「おー!消えたわ!やるじゃないジーン!ちょっとだけ見直したわ!」


 シュカがきゃっきゃと手を叩いて喜ぶ。


「ふふ、魔法も華麗だけど、ボクの真骨頂は弓の方さ」


 虚空から響くジーンの声。


 確かに、視覚的な認識阻害魔法は光属性や闇属性の応用が多い。

 〈ウロカクシ〉も、その手合いの可能性は高いだろう。


 そんな余興を眺めていると、ニーコが小皿に取り分けた料理をこちらまで持ってきてくれた。



「アリアさん、イルさんも、どうぞ」



「お、サンキューな」



「ありがとう」



 俺たちは礼を言い、小皿をつつく。


 安定して〈陽の果て亭〉の飯は旨い。

 そして何と言っても、ニーコの唐揚げだ。


「……これは、美味しいですね」


 イルが一口食べ、静かに目を細める。


 皇子様の高貴な舌も満足しているようだ。

 肉自体はここらじゃ、ありふれた食材として出回っているガリオンバードだ。

 だが、下味の付け方や揚げ加減に、一口では分からないほどの工夫が施されているのが分かる。


 マジックポーチさまさまで、まだ温かいのも嬉しい。


「ふふ、早起きした甲斐がありました」


 ニーコがはにかむように微笑む。


 その笑顔を見ていると、これから死地へ向かう緊張感が少しだけ和らぐ。


 ……これが最後の晩餐になるかもと思えば、その味もひとしおだ。


読んでくれてありがとうございます。

ご意見、感想、誤字報告助かります。


X(旧Twitter):https://x.com/karanoniji

告知、設定メモなどを投稿する予定です。

イラストなどあげていますので、こちらもよろしくお願いします。

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