第Ex話:受付嬢アネットの受難その⑦『秘密の依頼はXYZ』
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「……すごい」
私は、買取カウンターに積み上げられた素材の山を見て、呆然と呟いた。
白い剛毛に覆われたエブラオッカの毛皮。
硬質なロックワームの甲殻。
そして、上質なアイスウルフの魔石。
どれも、群れで行動したり、地中に潜んでいたりと、討伐には手間の掛かる魔物ばかりだ。
それを、彼ら〈ジョーカー〉は、ここ数日毎日のように持ち込んでくるのだ。
「えへへっ、今日も大漁ですわーっ!」
「こ、こちらの袋もお願いしますっ…」
エステルちゃんがニコニコと笑い、ニーコちゃんがおずおずと追加の袋を差し出す。
ガロードさんは、食料の入るスペースが減ったからか、少し不服そうにしているけれど……その成果は圧倒的だった。
「これだけの数を短期間で……一体どうやって?」
私が尋ねるとアリアさんがニヤリと笑った。
「企業秘密だ。ま、効率のいい『釣り場』を見つけただけさ」
釣り場?魔物って釣るものなの……?
よく分からないけれど、彼らが波に乗っているのは間違いない。
この調子なら銅等級パーティとしての実績は十分。
あと必要なのは――そう、『箔』がつくような大きな依頼をこなすことだ。
(あと一押し。あと一押しなのよ……!)
そんな私の祈りが通じたのか。
ある日の午後、領主代行から一枚の依頼書の修正が届いた。
『放棄された古い墓所の浄化』。
内容は、ファルメル北部の森にある旧墓所に発生したアンデッドの掃討。
誰も受ける者がいないため、依頼主が焦れて報酬額を吊り上げの要望だ。
私は元の依頼書を見て「ああ、なるほど……」と一人納得する。
誰も受けない理由は明白。
貴族様からの依頼であるのにも関わらず、報酬が渋いからだ。
5,500ガルドというのは、傍目にはそれなりの金額に思える。
しかし、冒険者は依頼を総合的な旨みで吟味しなくてはならない。
報酬と危険度だけではない。
期間、場所、移動にも、戦闘にもお金はかかるし、どんな相手か、自分に合うか、どんな準備が必要か……。
リスクとリターンを常に計算しているのが彼ら――冒険者という職業だ。
(結局、それが出来ない人は、遅かれ早かれ大怪我するか、収支が取れなくて引退しちゃうのよね……)
今回でいえば、低級のアンデットしか出ないであろう依頼。
遺体に化け、奇襲性のあるスケルトンや精神系の魔法を使うレイス。
警戒と対応を考えるとソロで挑むにはリスクが高い。
この時点で報酬の折半が確定する。
その上、これらの魔物からは素材確保による追加の収入は期待できない。
そして極めつけは唯一の収入源である魔石すらも闇属性で需要が少ない……。
魔力含有量のわりには安く買い叩かれるのは目に見えている。
それでも鉄等級なら受ける者もいただろうが、貴族様の見栄か銅等級以上を指定している。
銅等級なら総合的にはもっと実入りのある、マシな依頼があるのが常だ。
霊廟内を傷つけたなどと、後で文句をつけられても面倒だ。
高額報酬が望めないのなら、マイナスばかりが目立つ貴族様の依頼など誰も受けたくはない。
大看板から旨い依頼が無くなって尚、残っていたのにはそういった背景がある。
『墓所の浄化』なんて、地味で人気がない。
だからこそ、ここまで報酬が上がったのだ。
依頼主もそれがわかったのか、この依頼書の報酬欄に書かれていた、元の報酬5,500ガルドが二重線で消され、その横に赤字で『13,500ガルド』と書き直されている。
よっぽど上から急かされているのか知らないが、この金額の上がり方は、もはや投げやりと言ってもいいほどだ。
だけど。
(これだわ……!)
私は、その依頼書を震える手で持った。
銅等級指定だけど、内容はあくまで鉄等級相当。
危険度は低く、報酬は破格。
下請けとはいえ、貴族様にも関わる依頼!
誰も受けなかった未解決依頼というのは、それだけで貢献度として査定しやすい!
つまり、〈ジョーカー〉を押し上げたい私にとっても、金欠に喘ぐアリアさんたちにとっても、これ以上の案件はない!
(でも、これを直接「どうぞ」って渡すわけにはいかないわよね……)
特定パーティへの露骨な肩入れは、他の冒険者のやっかみを買う。
あくまで、「偶然見つけた」という形にしなければ。
私は下手な口笛を吹きながらタイミングを見計らった。
いつものようにホールの奥の席で、お茶会を開いている〈ジョーカー〉の面々の一挙手一投足に注目する。
動きがあるまでは、修正作業を行うフリをし、掲示までの時間を調整する……完璧な作戦だわ。
(いつものように……って何であの人たち毎回ギルドでお茶会してるのかしら……)
いつの間にやら、その異様な光景を見慣れてしまっていることに苦笑する。
やがてホールの奥で、アリアさんが席を立ち、掲示板の方へ歩いてくるのが見えた。
彼女の目は、獲物を探す猛禽類のように鋭く、そして金欲に飢えている。
(今よ!)
私は、書類整理をするふりをして掲示板の前へ移動する。
そして、アリアさんが掲示板の前に立つ、ほんの数秒前。
サッ!と、一番目立つ位置に、その『墓所の浄化』依頼を貼り付けた。
「……ん?」
アリアさんが足を止める。
彼女の鋭い視線が、貼り出されたばかりの羊皮紙に吸い寄せられる。
そして、その視線が『13,500ガルド』の数字に釘付けになったのを、私は横目で確認した。
「……いちまん、さんぜんごひゃく……!?」
アリアさんの口元が、ニヤリと歪む。
彼女は周囲を牽制するように素早くその依頼書をひっぺがすと、意気揚々と仲間たちの待つテーブルへと戻っていった。
(やった……!完璧よ!)
私はカウンターの下で、小さくガッツポーズをした。
計画通り!
これで彼らは、高額報酬をゲットしてホクホク顔。
ギルドとしても、長年放置されていた墓所の件が片付いて万々歳。
そして私の評価もうなぎ登りで、首都への切符が……!
「ふふ、行ってらっしゃい、アリアさん。私の未来のために……」
私は、意気揚々と出発準備を始める彼らの背中を見ながら、勝利の微笑みを浮かべていた。
まさか、その単なる掃除クエストの先にとんでもない厄介ごとが待ち構えているなんて、この時の私は――そして依頼を出した領主代行でさえも……夢にも思っていなかったのだ。
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*本イラストは生成AIを使用しています




