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自由のアリア  作者: カラノニジ
第五章:天を墜とすは折れた翼
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第41話:焼き鳥パーティ

 俺は頭を振り、目の前の現実に意識を戻す。

 解体作業の再開だ。


 まずはグリフォンの羽根がいくつか。

 特に、長くて丈夫な風切り羽根は価値が高いはずだ。


 だが、あの〈竜火酒〉の爆炎で焼失してしまった部分も多い。


 皮も少量……いや、あの火炎の中、これだけ残っただけでも儲けものと考えるべきか。

 嘴とかぎ爪は、戦闘でついた傷もあるが、どれほどの価値がつくのか…。


(肉のブロックは…ガロードが絶対に売るのを拒否するだろうから、勘定には入れないでおくか)


 だが、なんと言っても、これだ。


 俺は、ガロードが抉り出した風の魔石を慎重に手に取る。

 片手には収まらない、ずっしりとした重み。


 未加工だというのに、まるで最高級の宝玉と見まごうほど、透き通った翠色の輝きを放っている。


 これだけの逸品なら、魔力含有量以上の価値がありそうだ。



(まぁ、マノンの姉貴に頼んだ武具の〈刻〉に使うから、これも売却はできねぇがな…)



「きれいですわね…」



 隣で覗き込んでいたエステルも、その不思議な輝きにうっとりと息を呑んでいるようだ。

 その横で、ジーンは珍しく会話に割り込まず、神妙な顔つきで、回収したグリフォンの風切り羽根の一枚を手に取っている。



(なんだ…?いつものコイツなら、「エステル、君の瞳の方がキレイさ」とか、吐き気のするようなセリフを言ってくるはずなんだがな)



「アリアちゃん、今回の協力報酬についてなんだけど」



 ジーンが、真剣な声で切り出してきた。

 俺は報酬という言葉に、反射的にびくりと身構える。



「ガルドはいらないから、代わりにこの風切り羽根を一枚貰えないかな……?」



「んっ?…あ、ああ、そりゃ、構わねえけど。一枚でいいのか?」



 魔石は渡せないが、今回のあいつの活躍を考えれば、もっと要求されても断るつもりはなかったんだが……。



「ああ、かまわないよ。狩猟証明が欲しいだけだからね」



「……狩猟証明?はは~ん…あのキャンキャンうるせぇ村娘たちに自慢しようってか?ぶれねーな、おまえはよ」



「ふふっ、そんなところさ」



 ジーンは悪びれもせず、いつものキザな笑みを浮かべ、作業に戻った。



「…?」



 あらかた素材を回収して、俺はふぅと大きく息をついた。


「買っておいてよかったぜ、〈マジックバッグ〉!」


 道中に狩った雑魚魔物の素材も、今回の本命であるグリフォンの素材も、…それから、ガロードが解体した、山のようなオックブルの肉も全部収納できるんだ。これがあるとないとでは大違いだ。


 これだけの物量を飲み込んでも、バッグ自体の重量はほとんど変わらないってんだから、本当にすごい技術だよな。

 これがなけりゃ、嵩張らない魔石以外は、ほとんど諦めることになっていただろう。

 俺は、エステルが背負うバッグをポスポスと満足げに叩きながら、頭の中で皮算用を始めてホクホク顔になる。


「ほらよ、気付けだ」


 ポーションベルトから一番安い治癒ポーションを何本か取り出し、全員に投げ渡す。


 ここから数日の帰路、最低限の回復はしておかねぇと身体が持たねぇからな。

 各々、怪我のひどい部分は、俺が魔法で応急処置したが、本格的な治療は街に帰ってからだ。


 闇属性の固有特性である〈死〉による治癒。

 矛盾しているように思うが要は傷んだ細胞を殺して過剰再生によって新しい細胞に入れ替えているようなもんだ。

 細胞そのものを修復したり再結合している光属性やら水属性やら地属性とは若干プロセスが異なる。

 速効性と重傷にも対応できる反面、常用にはリスクもある。


 グッ、グッと拳に力を込めながら、腕の傷を確認する。


(…よし、ちゃんとくっついてるな。そういや、ジーンは水属性と光属性っていう、いかにも回復魔法向けの組み合わせだったか)



「おい、ジーン。そういやお前は回復魔法は使えねぇのか?」



 俺が尋ねると、ジーンは芝居がかった仕草で両手を広げてみせた。



「ふっ、あいにく回復魔法は扱えなくてね。まあ、このボクの全身から溢れる癒しの波動が、君の傷を癒す可能性はあるかもしれないけれど、試してみるかい?」



「いらん」



(ま、回復魔法は適性の属性があったとしても、使えるかどうかはさらに素養と専門の知識が重要だからな)



 治癒士は、ただ回復魔法が使えるだけじゃ務まらねぇ。

 俺の闇属性の回復魔法も軍での教育あってのものだ。


 戦闘中でも、どんな状態でもかけられるように……。

 自分の骨を折って痛みに耐えながら……。


 思い出しただけで身震いする。



 そういう意味では、あのニーコって女は異常だ。

 腕が折れた状態であんなにも的確に自分にヒールをかけていたんだからな……。


 それに、他人よりも怪我した自分にかける方が得意だってんだから、普通じゃねぇのは確かだ。



「よし、マノン姐さんに魔石を渡すために、カマド村へ戻るぞ」



 俺たちは傷の応急処置を終え、荷物をまとめると、長かったような短かったような遠征の旅程を折り返し始めた。


 道中、ガロードとエステルが、焼き鳥パーティに手頃な開けた場所を見つけるたびに足を止め、「ここでやりましょう!」と目を輝かせるのを、俺が「まだだ!」と引きずっていく。


 ……そんな、やり取りを何度繰り返したことか。


 ──

 ─


 時刻は夕方。

 ようやくタリア平原を出て、そろそろ今夜のキャンプ予定地だ。


 陽が落ち、あたりが深い藍色に染まる頃、ようやく俺たちはキャンプの設営を終えた。

 ジーンが手際よく薪を組み上げ、俺が魔法で着火する。

 昼間に狩ったばかりのグリフォンとオックブルの肉を、串焼きにする準備を始める。


 ……といっても、塩と携帯用のスパイスを軽く振りかけるだけの、シンプルな味付けだ。

 適当なサイズに切った肉と、これまた道中で見つけた食えそうな野菜やらキノコを、交互に鉄の串に刺していく。

 単純な作業だが、こういう時に地味な器用さの差ってのが出るもんだ。


(……チッ)


 作業の巧さでいうと、ジーン、ガロード、俺、そして論外のエステルの順か。


 ぐぬぬ……。


 このバカどもに負けるのは癪だが、今まで「食えればいい」と、調理なんて鍋にぶち込むか丸焼きにするくらいしかしてこなかったツケが回ってきたらしい。


 エステルに至っては、初手で肉ごと自分の手をブッ刺しかけたので、即座に串を取り上げた。


 上手いと言っても、ジーンもガロードもそれなりで、本職の料理人には及ばない。


 だが、こういうのは雰囲気も大事だ。

 ところどころ歪なサイズ感の串焼きが、焚き火のそばに置かれた大皿に次々と並べられていく。


(……おお、なかなか壮観じゃねーか。やっぱり自分で苦労して串打ちしたものは、妙な愛着が湧いてくる、つーか……)


 俺は、その中でも比較的マシな出来だと思える一本を手に取って眺めた。


 すると、隣からエステルが目を輝かせて声をかけてきた。



「まあ、アリア様!その串焼きは、まるで『命乞いをするゴブリン』を模したようですわね!とってもお上手ですわ!」



「ごっ…!?」



(……ゴブリン…!?例えるにしても、もっとマシなもんはなかったのか、このアホは……!)



 チラッとジーンとガロードの方を見る。


 二人とも、スッと、実にわざとらしく視線を逸らしやがった。


(えっ……そんなにか!?そりゃあ、ちょっと歪かもしれんが、コイツは割と上手く刺さった方だと……)


 内心で地味にショックを受けつつ、俺は思わず悪態をつく。


「食う前からマズくするようなこと言うな!」


 だが、エステルは「え?褒めておりますのよ?」と、心底不思議そうに小首を傾げやがった。


 どんな感性してんだよ…もういい。コイツに何を言っても無駄だ。


(……焼けば一緒なんだよっ!)


 やがて、肉の焼ける香ばしい匂いが、俺たちの空腹を限界まで刺激し始めた。



「よし、焼けた!食うぞ!グリフォン討伐を祝って!」


 俺の号令を待っていたかのように、全員の手が串焼きへと伸びる。

 一番早かったのは、言うまでもなくガロードだ。


 奴は既に、一番デカい肉が刺さった串を両手に掴み、獣のように猛然と肉にかぶりついている。



(……熱くねぇのか、お前は)



 俺も、自分が作った不格好な串焼きを一本手に取り、恐る恐る口に運ぶ。


「はふ……」


(……ん)


 ジュワッ、と熱い肉汁が口の中に溢れ出す。


 グリフォンの肉は、鶏肉に似ているが、もっと歯ごたえがあって、噛めば噛むほど濃厚な旨味が出てくる。


 元が半鳥半獣なだけはある…。


 肉も双方の特徴を持っているようだ。


 シンプルな塩とスパイスだけの味付けが、逆に肉本来の味を引き立てていて……。



(……美味い。クソッ、ムカつくが……美味いじゃねぇか)



 こういう、自分たちで狩った獲物を、自分たちの手で調理して、焚き火を囲んで食う。


 ……なるほどな。こういうのも、悪くねぇのかもしれん。


「まぁ!なんということでしょう!このグリフォンさんのお肉、歯ごたえがありながらも、噛むほどにお肉の甘みがじゅわ~っと!まるで、わたくしが昔、お屋敷…じゃなくて、お家でいただいた、『天空鶏のコンフィ』のようですわ!」



(てんくうどりのこんふぃ…?なんだそりゃ。知るか)



「おっと、エステルちゃん。そっちもいいが、このボクが完璧な火加減で焼き上げた、こちらの部位も試してみるといい。君のその、薔薇色の唇にこそふさわしい、極上の一品さ」



 ジーンが、焼き加減が絶妙な串をエステルに差し出す。

 エステルは「まぁ!ありがとうございます、ジーン様!」と嬉しそうに受け取っている。


 ……いつもの茶番が始まったか。


 俺は、そんなアホ二人と、ひたすら無言で食い続けるガロードを横目に、黙々と二本目の串に手を伸ばした。


読んでくれてありがとうございます。

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