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自由のアリア  作者: カラノニジ
第五章:天を墜とすは折れた翼
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第38話:空の王者

挿絵(By みてみん)

 

 俺の獰猛な笑みに呼応するように、グリフォンは姿勢を低くし、苦痛と怒りの入り混じった威嚇の声を上げた。


(よし、奇襲は成功。空の王者を地面に縛り付けた。ここまでは上々だ!)


 戦況はこちらが優勢。このまま押し切るッ!!


 俺が追撃のタイミングを計るより早く、ガロードが動いた。

 無言のまま、幅広の長剣を構え、最短距離でグリフォンへと突っ込む。

 それに対し、グリフォンは獅子のそれのように強靭な四肢で大地を蹴り、巨大な前足をガロードめがけて叩きつけた!


 ガロードはそれを長剣で正面から受け止める。だが、Bランク魔物の膂力は伊達ではない。

 ミシリ、と嫌な音を立ててガロードの膝が地面についた。



(クソッ、重ぇな! さすがはBランクか!)



「オラッ! 〈シャドウバインド〉!」



 影のロープが、ガロードを抑えつけていたグリフォンの頸を締め上げながら、横から引き下げる。

 地面に頭を叩きつけるつもりだったのだが、圧倒的な体幹を前にそれは叶わなかった。

 それでも、体勢を崩すことには成功し、その隙にガロードはスルリと転がるように退避する。


 ブチ……ブチ……!

 地面から伸びる影のロープは、グリフォンの大きな羽ばたきによって、引きちぎられる。


「くっ……!」


 反動でグリフォンの上体が持ち上がる。


 その瞬間、シュパンッ! と乾いた音が響き、グリフォンの首筋に、深々と鋼鉄の矢が突き刺さった。


(〈ミラージュ〉か! あの野郎、いつの間に回り込んでやがった!)


 音もなく姿を現したジーンが、矢継ぎ早に二の矢を放つ。

 しかし、グリフォンが苦痛に身を捩ったことで、射線がずれ、矢は翼へと引き込まれる。


 先の遠距離射撃とは違う。

 マノン特製の鋼鉄矢は、この距離であれば奴が纏う風の防護をものともせず、その分厚い筋肉を容易く貫く。


「グッロロロロロ……ッ!」


 獣の咆哮というより、断末魔に近い苦悶の声を上げ、グリフォンが突き刺さった矢を引き抜かんとばかりに翼を薙いだ。

 凄まじい暴風が巻き起こり、地面の土や小石を巻き上げながら、近くにいたジーンを容赦なく吹き飛ばす。

 巻き上げられた礫のいくつかは鋭利な刃となって、ジーンの革鎧を裂き、その肌に赤い線を走らせた。


(チッ、派手にやられやがって……! だが、これで奴の翼はズタボロだ!)



 このままこちらが張り付いていれば、そう簡単には飛び立てないはずだ。

 己の翼によって生じた死角からガロードが潜り込み、渾身の一刀がグリフォンの胴体に深々と刻まれる。


「ギュィィイイア!!!」


 たまらずグリフォンが悲鳴を上げる。それでも闘争心が萎えないのは上位者の自負だろうか?

 おびただしい血液を吹き出しながらも、身を捩り、横薙ぎの暴風でガロードを弾き飛ばす。


 好機は逃さない。

 燃え盛る二振りの剣を構え、一気に距離を詰める。


「次は、こっちだ鳥公!!」


 再び火剣が、もはや無惨に傷ついたグリフォンの翼を切り裂く。

 傷口から噴き出すはずの血は、炎によって瞬時に焼き固められるが、残った羽毛に僅かに火が燃え移り、グリフォンはさらに身を捩って苦しむ。


 俺たちは順繰りに、休む暇を与えずに攻撃を続け、グリフォンの飛行を阻止している。

 それぞれが勝手に動いているものの、結果としては連携らしい動きが成立している。


(いける――!! このまま押し切るぞ!)


 俺が切り返しの二撃目を叩き込もうと、さらに一歩踏み込んだ。


 ――その刹那だった。


「グロロロロロ……!!」


 今までとは明らかに違う、グリフォンの異様な動きに、俺の本能が警鐘を鳴らす。


 グリフォンは苦しげに身を捩りながらも、傷ついた翼を、まるで空気を鷲掴みにするかのように、通常とは真逆の軌道で内側へと大きく、そして異常な速度で羽ばたかせた。


(な、なんだ、この動きは!? クソッ、何か来るぞ……!)


 俺がそう直感した瞬間、周囲の空気が、まるで巨大な肺に吸い込まれるかのように、グリフォンの両翼の間へと、猛烈な勢いで吸い寄せられていくのを感じた。

 地面に落ちていた枯れ葉や小石、砂塵が、渦を巻いて奴の周囲に舞い上がる。


「うぐ、カヒュ……!?」


 直後、俺の肺から、強制的に空気が根こそぎ引きずり出されるような、強烈な圧迫感が襲った。

 息を吸おうとしても、吸うべき空気が喉の周りに存在しない。

 声にならない悲鳴が、喉の奥でひゅうと潰れる。


(なんだ!? 息が……!)


 視界の端で、グリフォンの強靭な後ろ足が迫ってくるのが見えたが、酸欠で麻痺した体は反応できない。


(まずいっ……!)


 衝撃とともに、俺の体は軽々と吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。

 ようやく呼吸が戻り、堰を切ったように激しく咳き込む。



「……ッ、……げほぉっ、がはっ!」



(なんだ!? 今のは一体……)



「大丈夫かい!? アリアちゃん?!」



 ジーンが駆け寄ってくる。

 その肩や腕には、先ほどの暴風で負った傷が走り、血が滲んでいる。


「くそっ、なんだ今のはっ!?」


 肺から空気が吸い出されたみてぇな……いや、違う。

 この周辺一帯から、一瞬、空気そのものがなくなったような感覚だった。


(ぐっ……まずい……!! 三人で畳み掛けてやっと地面に張り付けてるってのに俺とジーンが攻撃の手を休めちまったら……!!)


 その時、ガロードが動いた。

 奴の前に、周囲の空気を猛烈に吸い込み圧縮する、見慣れた透明な球体が現れる。


(〈バアルスフィア〉か!?)


 キュィイィ……ぱすん……。


 だが、極限まで圧縮される前に、その空気の塊はまるで陽炎のように揺らめき、霧散してしまった。


(チッ、やられたか!)


 風を操るグリフォンにとって、大気の流れを乱すことなど容易いのだろう。

 そう簡単に、あの大技を使わせてはくれないらしい。


 今度は逆に、グリフォンが翼を一度だけ力強く内側に羽ばたかせた。

 ガロードの頭上に、先ほど俺が味わった真空状態とは真逆の、高密度に圧縮された不可視の空気塊が形成され、彼を押し潰さんとばかりに襲いかかる!


「……ッ!?」


 ガロードも即座に、風を盾のように展開する防御魔法〈エアシールド〉で対抗する。

 高密度の風同士がぶつかり合い、空気が軋むような凄まじい音が周囲に響き渡った。


「うおっ……!?」


 まるで突風。ぶつかり合った余波だけでこの威力だ。

 一体、どれ程の圧力がガロードを襲っているのか。

 ガロードは歯を食いしばり、地面に深く足を踏ん張って必死に盾を維持しようとするが、Bランク魔物の圧倒的なパワーを前に、地力の差は明らかだ。

 ミシミシ、と風の盾に亀裂が走り、やがて甲高い音を立てて砕け散った!


 〈エアシールド〉が威力を大きく削ぐことには成功したものの、残った衝撃がガロードを地面に叩きつける。

 奴は片膝をつき、ふらつきながらも剣を杖代わりにどうにか立ち上がった。


 だが、その片目は急激な空気圧の変化に耐えきれなかったのか、真っ赤に充血し、内出血を起こしている。


(これがBランクの魔物……!)


 奇襲に成功し、これだけこちらに有利な状況を作り出したというのに、いとも容易く、戦況をひっくり返してきやがる。

 こちらの一手がズレただけで、即座に三人を各個撃破してくるとは。


 あの〈鐵喰い〉と相対した時にも感じた絶望感と恐怖。


 そしてそれを上回る高揚感。


(やべぇ……)


 痛みを堪えつつも僅かに歪む顔。

 決して闘争心を切らさないようにと必死に睨みつける目。

 ほんの少しの畏怖。


(そんな場合じゃねぇってのに……)


 そんな俺の複雑な心情とは裏腹に、俺の口角だけは不思議と吊り上がっていた。


 手負いとなったグリフォンは、これ以上の戦闘は不毛と判断したのだろう。


 だが、駆け出したその動きには、明確な目的があった。

 獲物への、異常なまでの執着。

 一度狩ると定めた己の獲物を、巣に持ち帰らずにはいられないらしい。


「くそっ、逃がすかよっ! 〈シャドウバイ……っ!?」


 拘束しようと踏み込んだ俺の足が、一瞬だけ鉛のように重くなる。


 まただ! 一瞬の真空状態!


 肺が圧迫され、詠唱が強制的に中断される。

 足が止まりそうになる。


 その隙に、グリフォンは『二代目ウシさん』を、その巨大な前足でがっしと掴み上げた。


 動けない。

 どころか、さっきより拘束時間が長い。


 肺を握り潰されるような苦痛。

 気を失いそうだ……ッ!!



(く、そ……逃げられ……)




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*本イラストは生成AIを使用しています

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