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自由のアリア  作者: カラノニジ
第三章:赤熱する鋼鉄(ハート)と穿つ狩人
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第Ex話:受付嬢アネットの受難その③『鉄の味、蜜の味、鉛の味』

※三章読了を想定した番外編です。初めての方は第1話からどうぞ。


挿絵(By みてみん)

 ──────────────────


 運命の女神は、私を見捨てていなかった。

 そう確信したのは、冒険者ギルドの扉が開き、泥と魔物の体液にまみれた二人が帰還した瞬間だった。

 ゴロンとカウンターの上に転がる大きな魔石と、金属質な甲殻片。


(帰ってきた! 生きて帰ってきたわ!)


 フィリスに逃げられ、半ば脅迫に近い形でアリアに押し付けた〈沈黙〉のガロード。

 もし彼らが失敗していれば、私の首(と婚期)が飛ぶところだった。だが、彼らはやってのけたのだ。

 持ち帰られた巨大な魔石と素材。鑑定士が震える声で告げた結果は、私の予想を遥かに超えていた。

 先にガロードが報酬を受け取りに来たが、今回はアリアがクエストの受領者だ。だからアリアが来なければ手続きは勝手に進められない。


「それでしたら、アリア様は〈白羊の夢〉という宿に泊まっていると連絡がありましたので、そちらに向かってみてはいかがでしょう?」


 それを聞いたガロードは無表情……いや……露骨に嫌そうな顔をしている。


「是非是非! 是非とも! そうすれば早く手続きできますから♡」


 私は逸る気持ちを押さえつけながらガロードに提案する。

 心底めんどくさそうに口角を僅かに下げ、無言のままカウンターを後にした。


 相変わらず何を考えているのかわからないが、そんなことはどうでもいい。


 早く早く! 私は一刻も早くこの喜びを恩人たちに共有したいのだ。



 そして……!



「お待ちしておりました! アリア様、ガロード様!」


 私はカウンター越しに、昨日とは打って変わった満面の笑みで二人を出迎えた。

 内心でガッツポーズを繰り返しながら。


「魔石及びお持ち帰りになった素材を鑑定いたしました結果、やはりロックドレイクを基とした変異体で間違いないかと」


 私はファイルを広げ、事務的な口調を保ちながら説明を続ける。

 声が上ずりそうになるのを必死で抑え込んだ。


「魔石の魔力容量を計測しましたところ、B-ランク相当と判定されました。これほどの強敵を、しかも変異体であることを考えれば、お二方での討伐は、ギルドとしても賞賛に値する功績ですわ」


 B-ランク相当の変異体。

 これは単なる討伐ではない。ギルドでも目を見張るような『発見』であり、それを二人で達成するというのは『偉業』だ。



(そして、それを斡旋したのは、他ならぬこの私、アネット・レクベル!)



「よってこの功績を持ってガロード様を銀等級へ昇格いたします! おめでとうございます!」



 私は予め用意していた銀のプレートを差し出した。

 これで支部長からの至上命令『ガロードの銀等級昇格』は達成。

 しかも、ただの実績作りではない。誰も文句の言えない特大の功績付きだ。



(見たか、本部の人事部! これで私を呼び戻さないなんて言わせないわよ!)



「さて、今回の依頼に関する報酬ですが、基本報酬が10,000ガルド。そしてアリア様には、先日お受けいただいた……ガロード様の同行任務に対する特別報酬、及び危険手当として、合わせて2,000ガルドが加算されます。まずはこちらの依頼達成報酬をお受け取りください」




 報酬金の詰まった重い袋をカウンターに置く。

 アリアの視線が鋭く光る。彼女もまた、この報酬には満足しているようだった。


(ふふ……あなた方の『偉業』が正式に認められれば追加報酬もきっと支払われるはずですよ!)


 まあ、こちらは確定するまで話すこともできないのだが。

 とはいえ、素材の査定額も破格だ。魔石だけで14,000ガルド。


「こちらの素材の扱いはどうされますか? この場で全てギルドが買い取ることも可能です」


 アリアは隣のガロードに視線を送るが、案の定、あの男は無関心に干し肉を齧っているだけだ。

 そして、彼女は決断した。



「よし。魔石は売る。14,000ガルドだ。甲殻と顎の素材は返却してくれ。こっちは持ち帰る」



「これで、鑑定料は無料だな?」



「はい、かしこまりました。魔石の代金14,000を半分に分け、各人7,000ガルドをプレートに記帳しておきますね。素材はこちらに」



 手続きを終え、酒場の方へ向かう二人の背中を見送りながら、私はカウンターの下で小さく拳を握りしめた。

 勝った。私の人生設計は、再び輝き出した――!



 ――翌日。

 その輝きは、さらに増すことになった。

 アリアが再びカウンターにやってきたのだ。

 ガロードを連れて。そして――


「……エステル・リーゼ?」


 提出されたパーティ登録用紙を見て、私は瞬きをした。

 アリアとガロードの後ろに、昨日の精算の際にも同席していた見慣れぬ少女が立っている。

 冒険者ギルドにはあまりにも似つかわしくない格好。

 プラチナブロンドの巻き髪に、世間知らずそうなキラキラした瞳。どこぞの貴族のご令嬢が、お忍びで冒険者ごっこをしに来たかのような風貌だ。


(というか寒くないのかしら……)


 見ればこの極寒イドリアの地にはふさわしくない薄手の生地。

 明らかに実用性が無視されている。


(……なるほど、これはコスプレというやつね……!)


 本来なら、厳密な身元確認を行うべき案件かもしれない。


 だが。


(この子が……ガロードさんを引き取ってくれるパーティの一員になるなら……!)



 アリア一人にガロードを押し付けるのは、正直、心が痛かった……少しだけ。


 しかし、メンバーが増えるなら話は別だ。

 負担は分散される。

 パーティとしての安定感も増す。


 何より、ここで私が「身元確認を」などと余計なことを言って、機嫌を損ねて登録を取りやめられたら?


 せっかくの『ガロード受け入れ先』が消滅してしまう!


 私は、書類から目を逸らした。


 見なかったことにした。


 いいえ……実際、パーティの申請など名簿の追記だけで真面目に身分や書類確認している職員はいない。


 むしろ、そんな煩雑な手続きは冒険者という荒くれたちにとっては余計な手間であり、そんな手続きを強要することが実利を上回ってしまうと制度自体が崩壊しかねないのだ。


 この子は、私に首都への切符を運んでくれる幸運の女神なのだ。



 そう信じることにした。



「…………パ、パーティ名〈ジョーカー〉、リーダー、アリア様。メンバー、エステル・リーゼ様、ガロード・プラレス様。……以上で、正式に登録を受理いたします……」


 受理印を押す手が、少しだけ震えた。

 本当にこれでいいのか? あの〈沈黙〉に加えて、この怪しいコスプレお嬢様。

 爆弾処理班のアリアに、さらなる爆薬を積み込んでいないか?



「………あの、……『よろしいんですか?』」



『よろしいですか?』……間違いないですか? ではなくて

『よろしいんですか?』……間違ってないですか?

 と思わず本音が漏れる。


 アリアは、どこか吹っ切れたような、あるいは諦めきったような顔で答えた。


「ああ、問題ない」


 その言葉を聞いた瞬間、私は自分の保身を優先した。

 本人がいいと言っているのだ。私が止める理由はない。


「それでは、〈ジョーカー〉は正式なパーティとして認証されました。こちらが〈ジョーカー〉のパーティプレートです」


 私は明灰色のプレートを差し出した。

 これで、ガロードはソロの銅等級から銀等級にランクアップしただけでなく、正規パーティの一員となった。

 実績、パーティ結成、銀等級昇格。

 完璧だ。私の評価はうなぎ上り間違いなし。

 首都エテル・イドリアの優雅なカフェテラスで、エリート冒険者とティータイムを楽しむ未来が、もう目の前まで――!



 ──

 ─



 数日後。



 その未来は、一枚の通達によって粉々に打ち砕かれた。

 本部からの封蝋が押された、重々しい羊皮紙。

 私は震える手でそれを開封し、中身を読み上げた。




『〈鐵喰い〉に関する情報の秘匿、及び公的な功績発表の凍結について』




「…………は?」




 思考が停止した。

 書類には、淡々とした文面でこう記されていた。

 今回の変異体〈鐵喰い〉の件については、上層部の判断により情報を統制する。

 魔石の競売は非公開で処理。討伐の功績は記録するが、対外的な発表は一切禁ずる。


 つまり。


 国の産業を脅かす、『新種の強力な魔物を討伐した英雄的パーティ』という宣伝文句は使えない。

 ガロードの銀等級昇格は取り消されないものの、『特例中の特例』としての華々しいデビューではなく、単なる『事務的な処理』として扱われるということだ。


 私の『優秀な人材を発掘し、歴史的偉業をサポートした敏腕受付嬢』というシナリオは?


 支部評価の劇的な向上は?


 そして、私の首都への栄転は?



「そ、そんな……嘘でしょ……?」



 執務室の窓の外、ファルメルの雪景色が、いつもより寒々しく見えた。

 掴みかけた幸せが、指の間から砂のように零れ落ちていく。


 私の手元に残ったのは、功績を公表できない問題児パーティ〈ジョーカー〉の担当という、重たい事実だけ。



読んでくれてありがとうございます。

ご意見、感想、誤字報告助かります。


X(旧Twitter):https://x.com/karanoniji

告知、設定メモなどを投稿する予定です。

イラストなどあげていますので、こちらもよろしくお願いします。


*本イラストは生成AIを使用しています

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