第19話:鍛冶屋探し
ここから第三章です。
ひとまず、新たに立ち上げたパーティ〈ジョーカー〉にエステルを捩じ込むことができた。だが、俺の曲剣と装備はボロボロだ。
これから金等級に向けて戦力を高め、依頼をこなしていくつもりなら〈鐵喰い〉の素材を装備に変えてぇ。
(……となると、次は鍛冶屋探しだな)
パーティ登録の手続きが無事に終わったことに内心で安堵しつつも、俺はすぐに次の行動へと意識を向けた。
ギルドの受付でおすすめの鍛冶屋を何ヵ所かピックアップしてもらったが、なにぶん未知の素材だ。
本当にこいつが武器に使えんのか、そして費用は一体どれくらいかかるんだ……?
……一件ずつ順に立ち寄って、プロの見解ってやつを聞いてみねぇことには始まらない。
鉱石処理場の近くでは、出荷前の〈魔導列車〉の貨物車に大量の黒鉄鉱石と魔石が積み込まれている。
見た目以上に収まってる辺り、あの貨車にも空間拡張魔法が施されているのだろう。
流石は国の最先端技術……。
「まぁ……大きな馬車ですわねっ! 見たところ馬は居ないようですけれど……それとも、もしや……ドラゴンに牽かせるんですの!? こんなに大きいんですものっ! そうなのでしょう? アリア様っ!? わたくし餌をあげてみたいですわっ!!……それにしても、あんなに沢山の石を運んでドラゴンのお家でも建てるのでしょうか……?」
エステルが目をぱちくりさせながら「わ~♡キャー♡」と歓声をあげる。
「ああ、お前は初めて見んのか……コイツは馬車じゃねぇよ。んでもって残念ながら『竜車』でもねぇ。〈魔導列車〉つって、魔石と純魔結晶で動く……貨物輸送用の車だ」
俺も詳しくは知らない。乗ったこともねぇしな。
「それから運んでんのは石じゃなくて黒鉄鉱石だ。溶かして鉄になる」
「まぁ! すごいですわねっ! イドリア帝国! 石を鉄に変えるなんて……! 流石は技術の最先端ですわっ!! 未来ですわっ!!」
なんか微妙にずれている気もするが、まあ良い。
それにしてもエステルじゃないが、あれほどの量の貨物を一気に運びながら馬車よりも何倍も速く各地に届けられるというのだから、凄まじい馬力だ。
「見えた、あそこだ。ほら、とっとといくぞ」
列車の警備に睨まれねえ内にとっとと離れるに越したことはない。
指を差した先、煤で薄汚れたデカい看板には〈鉄細工・鉄心〉と書かれている。
「あっ……待ってくださいまし~! ほら、ガロード様もいきますわよ!」
エステルが俺のあとを小走りで追ってくる。
ガロードはなにやら干し芋のようなものを齧りながらマイペースに歩いていたが、エステルに引かれるままに早歩きになる。
キィと蝶番の音が鳴る。
中は鍛冶工場と店が併設されているらしく、壁から樽にまで様々な形の武器やら防具やらが取り揃えられている。
「ん? おう、冒険者か。整備かい? それとも新調か?」
カウンターの奥で黒鉄鎧を叩いて修復していたハゲの店主が声をかけてくる。
スキンヘッドにビールっ腹。
だが、日々あの重そうな金槌を振り下ろしているのだろう。腕は丸太みたいに太い。
「ああ、一式新調してぇんだが……ちょっと特殊な持ち込みなんだ」
「ほぉ?……見せてみな」
ハゲ店主は作業を止めて布切れで手を拭いながらカウンターへやってくる。
「コイツなんだが……」
ゴトリと〈鐵喰い〉の顎の欠片を木のカウンターに置く。
「んお? こいつぁ……うーむ、ちょっと良いか?」
店主は手にとって舐めるように観察したあと金槌でコンコンと叩く。
「残念だが、ウチじゃ取り扱えねぇな……こりゃ魔法金属だ」
「魔法金属ぅ?」
「ああ、こりゃ溶かすのも一苦労だろうが、叩いて伸ばすのにも時間がかかりすぎる。成型まで考えたら今受けてる仕事を全部キャンセルしなくちゃなんねぇ」
「そ、そんなに硬いのか……」
(……確かに、俺の〈エンチャント〉ですら、顎にはほとんど傷がつけられなかったからな……。倒したあとは〈魔素結合〉が解けたから分割できただけで……)
「ああ、まぁ……どうしてもっていうならできなくはねぇ。だが、武器か? 防具か? 仮に一式整えるなら……数ヶ月待ちってとこだな。もちろんその間の補填費用も掛かる。惜しいがウチでは取り扱えないってのが答えだ」
くそっ、いくら硬くても、加工できねぇなら宝の持ち腐れだ。
数ヶ月も鍛冶職人の手を塞ぐとなれば、費用もバカにならないだろう。
「そうか……他所でも同じか?」
藁にもすがる思いで尋ねてみるが、返答はツレないものだった。
「さぁな、でもそいつを溶かせるだけの炉を持ってる店は限られるだろうぜ」
ファルメルでは期待薄か……。
(やはり、あのクソジジイ――オロンに心当たりはねぇか問い合わせてみるしかねぇか……)
「わかった、邪魔したな。加工を頼むことになったら、また来る」
「力になってやれねぇで悪いが……なにか方法が見つかることを祈ってるぜ」
このハゲ店主。見た目によらず良いやつっぽいな。
展示の武器を握って遊んでいるエステルとガロードを引っ掴んで〈鉄細工・鉄心〉をあとにする。
「残念でしたわね……元気を出してくださいまし! アリア様! 加工できなくとも、その石はすごく硬そうですわ! そのまま、投げつけるだけでも大ダメージが、ががが……!?」
うるさいエステルのほっぺたをつねりあげて黙らせる。
「まだ諦めてねぇよ。ツテはある」
問題は、隣で頬をさすって「ひどいですわ~!」とぷんすか怒っている、このアホをどうするかだ。置いていくと、いつまた壁とお友達になるか分かったもんじゃない。
(……仕方ねぇ。コイツも連れて行くか。一人で宿に置いておくよりは、目の届くところに置いといた方が、まだマシだろう。幸い、〈ジョーカー〉としてパーティ登録したから、エステルもギルド関連の施設や、街の門の出入りくらいは問題なくできるはずだ。昨日までは考えられなかったことだがな……)
俺は溜息をつき、エステルに声をかける。
「おい、エステル。出かけるぞ。お前も来い」
「まぁ! どちらへ? 素敵なお店でお茶でもいたしますの?」
「鉱山だ」
「こうざん? 山登りですの?」
「いいから来い。ただし、絶対に余計なことは喋るなよ。お前の身分は『ただのエステル』だ。忘れるな」
俺は強く念を押した。エステルは「はいっ! 承知いたしましたわ!」と、やけに元気よく返事をした。
(……それにしても、そんな服装で鉱山に入れるか、アホ)
俺はエステルとガロードを連れて、来た道を戻って商業区へ向かった。
そして〈綾裁飾店〉という大衆向けの服屋に入る。
その中でも一番安……ゴホン。
丈夫そうな、そこらの村娘が着ているような簡素な服一式をエステルに買い与える。
防寒性もあって丈夫。そして地味。
これ以上があるか? 少なくとも今の格好よりは幾分マシだ。
「これに着替えろ。鉱山に行くんだ、動きやすい格好じゃねぇと話にならん」
「まぁ! なんて素朴で実用的なデザイン! でも、なんだか新鮮で可愛らしいですわ! ありがとうございます、アリア様!」
エステルは素直に喜び、すぐに着替えた。
……だが。
「まぁまぁ、お嬢さん、とっても似合ってるねぇ……」
「うふふ、ありがとうございますわ、おばあさま♡どうでしょうか? アリア様! ガロード様!」
「……まぁ、いいんじゃねーの?」
(チッ……安物の服に着替えても、顔の作りの良さだけは隠せねぇな。なんか、余計に目立って腹立つぜ……)
もちろんガロードは興味なさそうだが。
服装の問題も解決し、俺たちは再びあのブラックロックマウンテンの坑道入口へと向かった。
途中で、木の枝やら石ころを見つける度に、急に走り出すエステルを追いかけ連れ戻しながら先へ進む。
「あっ! あんなところに素敵な……」
「ちっ……〈シャドウバインド〉!!」
俺の影が伸び、ロープ状になってエステルをグルグル巻きに捕らえると逆さまに吊り上げる。
「コラァ!! エステル!! テメェ、何回言わせんだ!!」
ぜぇ……ぜぇ……。エステル放し飼い用のロープでも買うか……?
最初から繋いでおけばロープを手繰るだけで済む。
うん……マジに検討しよう……。
徒歩で半刻ほどの道のり。それがこんなに疲れるとは……。
(いや、前回も気疲れしたけどよ……)
ガロードを睨みつけるがアイツはどこ吹く風で干し肉を齧っている。
(はぁ……)
坑道の入口は、以前来た時よりも活気があり、多くの鉱夫たちが忙しそうに働いていた。どうやら、あの騒ぎの後始末も終わり、調査自体は継続して行われているものの採掘作業は完全に再開されているようだった。
俺は近くで休憩していた鉱夫に声をかけた。
「おい、アンタ。オロンっていう、赤くて長い髭のドワーフを知ってるか?」
「ああ、オロン親方かい? 知ってるぞ。親方なら、今日は第六坑道の方で、鉱脈の調査をしてるはずだ。ちいと遠いがな」
(第六坑道……か。面倒だな)
すると、俺たちの話を聞いていたのか、別の鉱夫が「おお、あんたたち、親方に用事かい? それなら丁度よかった。俺たちが今から第六坑道の方へ資材を運ぶからよ、このトロッコの後ろに乗ってくか?」と親切に声をかけてくれた。
(トロッコ? 歩くよりはマシか)
「ああ、助かる。頼む」
俺が礼を言うと、鉱夫は「おう、こっちだ!」と手招きし、レールの上に置かれた、見るからに古くて小さなトロッコへと案内してくれた。
トロッコは、大人三人が乗ればもうぎゅうぎゅう詰めといったサイズだ。俺とガロード、そしてエステルが乗り込むと、肩が触れ合うほど窮屈だった。
「しっかり掴まってな!」
鉱夫がそう声をかけ、ゴツいレバーを力任せに押し込むと、ガタンッ! と大きな音と衝撃と共に、トロッコがゆっくりと動き出した。
ガラガラ、ゴロゴロ……ゴットン、ゴットン……。
乗り心地は、控えめに言っても最悪だった。狭い坑道を、壁にこすりつけそうな勢いで進んでいく。振動も激しく、座っている尻が痛い。
「わぁ! はっやいですわっ! まるで風のようですわね! キャー!」
そんな劣悪な環境にも関わらず、エステルは子供のようにはしゃいでいる。目をキラキラさせて、流れる景色を見ている。……といっても岩壁だが。
(風みたいねぇ……。これで『速い』ってんなら、本物の魔法の乗り物に乗ったら、コイツどうなっちまうんだか……)
俺は隣のガロードを一瞥する。ヤツは壁に寄りかかり、目を閉じている。
寝てるのか? それとも、この状況にうんざりしているのか?
相変わらず、何を考えているかサッパリ分からん。
「こら、エステル! はしゃぐな! 危ねぇだろうが! 手を伸ばしたりしたら、壁にぶつかって、腕が吹き飛ぶぞ!」
俺は隣でキャッキャとはしゃぐアホに、注意する。
全く、どこへ行っても騒々しいし、手のかかるヤツだ……。
ガタゴトと不快な音と振動に揺られながら、俺たちは薄暗い坑道の奥深く、第六坑道へと向かっていった。
ガタンゴトン、ガラガラゴロゴロ……!
数分間、まるで拷問器具にでも乗っているかのような、凄まじい揺れと騒音に耐え抜いた後、ようやくトロッコは速度を落とし、建築中の第六坑道のプラットフォームらしき場所に軋むような音を立てて停止した。
「い、いったたたた……お尻が……お尻が四つに割れてしまいましたわ……うぅ……」
エステルは涙目で、すっかりやつれた顔でそう呻いている。
最初こそキャーキャーはしゃいでいたが、その声は途中から完全に苦痛の悲鳴へと変わっていた。
(……フン、少しは懲りたか。これに比べりゃ、グリフォンにつかまって空を飛ぶ方が快適だったかもしれねぇな)
俺も、硬い木の座席で打ち付けた尻をさすりながら、よろめきつつトロッコを降りた。二度とごめんだぜ、こんな乗り物は。




