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自由のアリア  作者: カラノニジ
第二章:厄災は空からふるふる聖女の涙
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第16話:釣り

次はパーティメンバー。戦力確保だ。


(条件は…腕が立って、口が堅いヤツ。エステルの秘密…この状況を万が一知られても、絶対に外に漏らさないヤツ……)


そんな都合のいい人材が、こんな辺境の街にいるだろうか?


(……信用できるヤツなんて、そう簡単に見つかるわけがねぇ。下手に喋られるくらいなら……いっそのこと、『全く喋らねぇヤツ』の方が、マシかもしれん)


脳裏に浮かぶのは、やはりあの男の顔だ。


(……〈沈黙〉のガロード、か……)


実力は、昨日の戦闘で嫌というほど分かった。

銀等級どころか、やり方次第ではそれ以上かもしれん。

無詠唱魔法、索敵能力、そして〈バアルスフィア〉、〈ダウンバースト〉とかいう規格外の切り札。

他のパーティにも所属していない。


……何より、アイツは喋らない。

エステルの秘密が漏れる心配は、まずないだろう。


だが、同時に、あの致命的なまでの協調性のなさ。

いつ、どこで、何を仕出かすか分からない予測不能な行動。味方ごと吹き飛ばしかねない危険性……。


(まさに爆弾だ。あんな奴をパーティに入れるなんて、正気の沙汰じゃねぇ……。だが、他にアテがあるか?)


「この際、背に腹は代えらんねぇか……」


だが問題は、どうやってあのマイペースな木偶の坊を勧誘するかだ。

普通に「パーティに入ってくれ」と言ったところで、無視されるのがオチだろう。


(アイツが反応を示すとしたら……やっぱり、食い物か?)


ガロードの、あの異常なまでの食欲を思い出す。


串焼きで釣ってみるか…?

バカ言え、金等級を目指すってのに串焼き程度で釣れるかってんだ……。


……。


『おーい、ガロード。パーティを組んでくれたら串焼き10本奢るぞ!』


『………!!』コクコク



(いや、案外…食いつきそうではある……)


自分の頭の中のガロード像に思わず苦笑する。


脳内シミュレーションでは食いついていたが、流石に甘く見積もりすぎだろう。

それに、言うことを聞かせる度にエサを食わせてたら俺の財布が持たない。どうにか金等級という共通の目的に意欲を向けさせないといけねぇ…。

地位も名誉も…金も興味ねぇなら……。


『金等級パーティになれば、面倒な手続きを省いて、世界中の美味いモンが食い放題だぞ』


(……これなら、少しは興味を示すかもしれねぇな)


他国の食いもんなんて俺も知らねぇし、事実とは言えないが嘘でもない。

……よし、この線でいってみるか。


俺は息をつき、次の厄介事…いや、計画の核心へと意識を切り替えた。

俺のウルトラCプランの成否は、あの男を仲間に引き入れられるかどうかにかかっている。


(どうせ、また〈陽の果て亭〉で、アホみたいにメシを食い散らかしてんだろ。行くか……)


頭の中で、ガロード勧誘のシミュレーションを繰り返す。


餌は『世界中の美味いモン』だ。

金等級パーティになれば、普通の冒険者じゃ面倒な手続きを踏んでしか行けねぇような隣国へも、依頼で赴くことができる。

ガルドアの熟成されたチーズや年代物のワイン、アイランの新鮮な海産物、エトノーシアの精霊が育てたとかいう珍しい果物…俺も食ったことはねえし、本当にあるのかも知らないが…そういう話をチラつかせて、アイツの底なしの食欲を刺激する。

これで釣れなきゃ、他に手はねぇ!


……うまくいく保証はないが、ダメ元でもやるしかねぇんだ。


俺は思考を打ち切り、ベッドから立ち上がった。


「見てくださいましっ!アリア様!先程、あちらのお方の帽子が…」

窓の外を眺めながら、聞いてもない報告を先程から延々と続けているエステルに声をかける。


「おい、エステル。俺はちょっと出てくる。お前は、絶対に、この部屋から出るなよ。俺が戻るまで、大人しくしてろ。いいな?下手なことしたら、どうなるか…分かってるな?」

最後の言葉に力を込めると、エステルはビクッと肩を震わせ、「も、もちろんですわっ」っとコクコク必死に頷いた。


(…よし)


俺は、今度こそ、〈沈黙〉のガロードを勧誘するという、新たな、そしておそらくは困難な戦場へと向かうべく、宿の部屋を後にした。



石畳の上を踏み鳴らしながら歩く。

商店なんかはもう店仕舞いの準備に入っている。逆に飯屋なんかはこれからが掻き入れ時か。


(ガロードの勧誘に成功したら、明日はギルドに戻って、パーティ開設の手続きだ。確か、登録費用が…3,000ガルドだったか…?)


思い出して、また頭痛がしてくる。


(クソッ、また出費かよ!宿代、武器の修理に治療費、それにパーティ登録費…マジで金がいくらあっても足りねぇな!今回の報酬だって、あっという間に消えちまうぞ!)


金策の必要性を痛感し、眉間の皺が自然と深くなる。


(ああ、そうだ。パーティ名も決めねぇといけねぇんだったか。クソ面倒くせぇ…)


どうでもいい、と投げやりになりかけた、その時。

ギルドで聞いた、冒険者たちの囁き声を思い出した。


(……そういや、俺のこと、『期待の超新星』だか何だか、勝手に呼んでるヤツらがいたな…)


鼻で笑う。


(…いやいやいや、さすがにそれを自分から名乗るのは…ねぇだろ。寒すぎるわ。恥ずかしすぎて死ねる)


即座に却下。

自分で自分のことを〈超新星〉だなんて、どんな自意識過剰だ。


(なら、何にする?『エステル護送隊』?いや、目的がバレバレだ。『借金返済同盟』?…切実すぎる。『トラブルメーカーズ』?…まぁ、実態はそうかもしれんが…ダメだ、ロクな名前が思いつかねぇ)


俺は頭をガシガシと掻きむしった。


(…まぁ、名前なんざ、後でどうとでもなるか。今はまず、ガロードを引っ張り出すのが先決だ)



夕飯時にはまだやや早いが、〈陽の果て亭〉は相変わらずの賑わいを見せていた。そして、その喧騒の中心に、やはりヤツはいた。

カウンターの一番隅。黙々と、しかし凄まじい勢いで料理を口に運び続ける男…〈沈黙〉のガロード。


だが、今日の様子は、昨日にも増して異常だった。

ヤツの横には、既に昨日見た高さを遥かに超える、空の大皿の塔が築き上げられている!それでもまだ、目の前の巨大な肉塊に猛然とかぶりついているのだ。


(……マジかよ。昨日より明らかに食ってねぇか?あの〈鐵喰い〉との戦闘で消耗した分を全部食って取り返そうってのか?)


胃袋に空間拡張でもかかってんのか?

呑竜ドンゴラなのか…?コイツはよ……。


俺は呆れを通り越して、もはや畏敬の念すら覚えそうになる。


(……ああ、そうだったな。コイツ、食ってる最中は、テコでも動かねぇし、話も聞かねぇんだった)


昨日と同じ轍は踏まねぇ。俺は深く溜息をつき、昨日と同じように、ガロードの隣の空いていたスツールにドカリと腰を下ろした。


(腹も減ったし。コイツが終わるのを待ってる間、こっちも何か食っておくか)


俺は店主に、手頃な煮込み料理とパンを注文した。運ばれてきたそれを、ゆっくりと味わいながら横目でガロードの皿の塔が、さらにその高さを増していくのを眺めていた。


数十分が経っただろうか。

俺は注文した料理をとっくに平らげ、手持ち無沙汰に水をチビチビと飲んでいると、隣でようやく、あのガツガツとした咀嚼音が止んだ。

見ると、ガロードが、最後の骨をカラン、と皿の上に置き、ふぅ、と満足気に息をついている。……いや、相変わらずの無表情か?


目の前の皿の山は、もはや冗談抜きで、小国の城壁に匹敵するほどの高さに達している。軽く見積もっても、成人男性の15人前…いや、もっと食ったかもしれん。


(……コイツの稼ぎ、マジで食いもんだけで全部吹っ飛んでんじゃねぇのか…?哀れになるぜ…)


だが、今は同情している場合じゃない。最大のチャンスだ。


(よし、今だ)


俺は一つ咳払いをして、食後の余韻に浸っている隣の男に、意を決して話しかけた。


「おい、ガロード」


ガロードが、ゆっくりと、無感動な目でこちらに視線を向ける。


「……腹は満たされたか?なら、少し、俺の話を聞け。お前にとって、悪くない…いや、たぶん、最高の提案だ」


俺は身を乗り出し、声を潜め、しかし熱意を最大限に込めて語り始めた。


「単刀直入に言う。俺とパーティを組まねぇか?」


ガロードの眉が、ピクリと、ほんの僅かに動いた……ような気がした。俺は構わず続ける。


「俺は、本気で金等級を目指すつもりだ。簡単な道じゃねぇのは百も承知だ。だがな、もし、俺たちが金等級のパーティになれたら、どうなるか……考えたことはあるか?」


俺が「金等級を目指す」と言った瞬間、ガロードは明らかに興味を失った顔で頬杖をつき、隠そうともせずに大きな欠伸までしやがった。


(……ダメか?やっぱり、こんな無茶な話に乗ってくるわけが……)


自信を失いながらも突き進む。


「国家間の依頼だ。金等級になれば、そういうデカい仕事が回ってくる。そうなれば、このイドリアだけじゃなく、ガルドア、アイラン、エトノーシア……四大国はもちろん、もっと遠くの、未知の国へだって、依頼で行くことができるようになるかもしれねぇ」


俺は、ヤツの最大の関心事であろう方向へ、言葉巧みに誘導する。


「そうなれば……どうだ?ガルドアの何年も熟成された芳醇なチーズと、貴族しか飲めねぇような年代物の赤ワイン。アイランの活きのいい魚介をふんだんに使った豪快な港メシ。エトノーシアの大森林でしか採れないっていう、甘くて瑞々しい幻の果実……」


ありったけの……想像上の美食を並べ立てて、ヤツの食欲を刺激する。

ヤツの無感動な目が、ほんの一瞬、揺らぎ、輝いた!……気がした。


(……!食いついたか!?やっぱり食い物か!)


俺は心の中で狂喜乱舞しながらも、あくまで冷静を装って、さらに畳み掛ける。


「想像してみろ。世界中の、ありとあらゆる『美味いモン』が、お前の目の前に並ぶんだぞ?」


ガロードは黙って俺の話を聞き終えると、スッ……と、無骨な右手を差し出してきた。

握手を求めている……!?


(えっ?嘘?釣れた!マジか!?やった!やっぱり食い物かよ!コイツ……ちょろぉぉぉ……っ!!)


俺は、内心ほくそ笑みながらも、その手を固く、強く握り返した。ズシリとした、確かな手応え。


契約成立。


これで、計画の第一関門は突破だ!


(『金等級パーティ』という目標は、すなわち『世界中の美味いモン』に繋がる。そう思わせておけば、多少の面倒な依頼も、コイツを動かす口実にできるかもしれねぇな……)


そんな黒い計算をしつつ、俺はガロードに告げた。


「よし、決まりだな。契約成立だ。じゃあ、まずはウチの宿に戻るぞ。もう一人のメンバーにも、この話をしねぇとならない」


俺はガロードを促し、〈陽の果て亭〉を後にした。

宿までの帰り道、当然、会話はない。

ただ、俺の隣を、先ほどよりは心なしか足取りが軽い〈沈黙〉の男が歩いている。


そして、宿の部屋へ戻り、俺は扉を開けた。


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