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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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99/111

#99

「家庭教師……ですか?」


 アノンのことが話に出るのは予想していたけれど、私の家庭教師というのは初耳だ。

 私があまりピンと来ていなかったのを感じた神父様が教えてくれる。


「はい。北部では公爵家と教会との関係が良くない為、あまり見かけませんが、南部や東部では貴族家の子息令嬢の家庭教師に貴族出身の司祭を派遣することはよくあるのです。普段は神学や社交のマナーについて教授し、災害や戦争の際には家と教会の連絡を担う役目を果たします。普段から行き来があれば、人に知られたくない時も疑われにくいでしょう」


 かつての私は、婚約までほぼ軟禁状態で家庭教師をつけてもらうこともなく、時折訪ねてきてくれるエルヴィンがこっそり与えてくれたマナーの教本や他領の資料を読んだり、エルヴィン相手に実践してみせたりするのが限界だった。

 教本の情報や男性との最低限のやり取りはそれで何とかなったけれど、その時の流行や女性同士の場のマナーは全く分からなかった。

 初めて社交に出たときは、突飛な行動でお姉さまにも恥をかかせてしまって、それ以降婚約者が決まるまで、私は社交を許されなかった。


 神父様が言うには、教会の司祭は性別問わず女性だけの社交場にも呼び出されることがあるので、貴族令嬢の家庭教師を担うことは一般的なのだとか。


「……アスター家はシュトゥルムの指揮下にあるのだろう? ここでブルーメと表の繋がりが出来ることが今後の足枷になるかもしれない。エルヴィンはどう思う?」


 エルヴィンはお姉さまの問いに少し考えてから問題ないと頷いた。


「確かに既に一定の地位を確立しているアスターを動かしにくくなるのは少々面倒ですが、アスター姓以外にも情報源はあります。北部教会を早いうちに抱き込んだ方が今は良いでしょう。マーガレット様とリリアーネ様に抵抗がないなら、ガイウスの言うとおりにした方が良いかと」

「そうか。……それで、アノンを引き取りたいというのは?」


 確かに事情を知らなければアノンを神父様が引き取りたいということに違和感を覚えるだろう。

 穏やかな表情の神父様と目が合うと、彼はふわりと微笑んだ。


「教会にとって、女神に選ばれた方の御威光はとても大きいものです。リリアーネ様がブルーメ家のご令嬢である以上、直接無理強いが出来る機会はこの先訪れないでしょう」


 お姉さまはこの前の一件以降、私の護衛や屋敷内の警備、騎士団の再編を急いでいる。

 それが終われば神父様の指摘通り、お姉さまの意に沿わない接触は現実的ではなくなるだろう。


「そうなれば次に狙われるのは彼です。教会の事情も既に把握しているなら警戒を怠ることは無いと思いますが、平民である以上教会に所属せず、神職にしか使えない力を使い続けるのは相当に不味い」


 神父様の言葉にお姉さまが不快そうな表情をする。


「……あの聖女殿が漏らしたのか?」

「ええ」


 私たちに誰よりも早く接触してきた中央教会の聖女は、ここであったことをかなり詳細に報告したそう。


「今は半信半疑といったところでしょうが、実際に会えば、大抵の修行者が彼の力に気付くでしょう。今からでも私の弟子とすれば神託を知っている者以外からは守ることが出来ます」


 確かに、私たちは神託の話を知っている前提で動いているけれど、多くの人間は公開されていない神託の存在など、一切知らないはずだ。

 神託が公開されていれば、ブルーメ家に救いを求める民衆が大挙して押し寄せてもおかしくない。

 女神の神託とはそれほどの影響力があるのだ。

 それをしないということは、やはり当分は神託の内容を伏せておきたいのが教会全体の意志なのだろう。


「シュトゥルム家を通して、孤児たちの地位を整えることを検討していることを承知しております。アスターも一応シュトゥルムの分家ですから、貴族に連なる一族としてお嬢様付きの資格はあるはず。アノンの成人後は、新たにブルーメ家担当の司祭としてリリアーネ様や閣下のお側に控えることで、教会としての体面を保ちながら干渉を避けられるのではないかと」


 確かに、ブルーメと教会の融和策だと考えても、何の繋がりもない人間を置くより、身内に近いと言える人間がいてくれた方が機密の保持にも良い。


 黙り込んだお姉さまを見上げて、アノンが口を開く。


「公爵様が許してくださるなら、僕は神父様の養子になりたいと思います。教会の内情はある程度把握していますが、正直リリを守るためにはまだ足りない情報が多い。教会に所属すれば教会の資料は閲覧しやすくなりますし、ブルーメ家でも教会組織全てを敵に回すのは分が悪い」

「私も、アノンに賛成です。神父様とアノンは相性が良さそうですし、エルヴィンが信用している人なら安心できるので」


 ブルーメの為にも、使える力は多く確保した方が良い。

 それが私の信用できる相手になるならなおさらだ。


 続けて私が後押しすると、お姉さまは静かに頷いて、それから神父様に念押しする。


「本人とリリが良いなら、私から反対することはない。ただし、アノンは妹の大事な友人であり、第二の家族だ。教会の勝手な事情で傷つけられるようなことが決してないように」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 9/23

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