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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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98/110

#98

今週は水曜日に投稿しなかったので、

土曜日も更新しております!

 リリアーネが巻き戻ったのは、お前の所為なんだから。

 そう言わんばかりの皮肉気な笑みを浮かべたアノンに、お姉さまは瞑目した。


「そう、か」

「ただ、教会もそう捉えているとは思えません。少なくとも女神に選ばれた以上、教会で保護され平民たちの信仰心を高める役目を果たすべき。そう考える層も一定数いるのではないですか?」


 教会は宗教組織であると同時に、利益を追い求める組織でもあるのだから、都合の良い神輿が欲しいはず。

 そう言ってアノンは神父様に目を向ける。


 神父様は苦笑いで頷いた。


「ええ、嘆かわしいことにその通りです。ここ数十年教会への平民からの寄進額は下がり続けています。女神に直接選ばれたお方に拝謁できるとなれば、貴族や裕福な平民は栄誉を求めいくらでも金を積むでしょう。……とはいえ、リリアーネ様が今の状況で教会に入りたいと思う訳が無いことは皆理解しています。向こう五年、社交に繰り出すまでは問題ないでしょう」

「……それでも、五年が限度なのか」


 天を仰いで呻くようにエルヴィンがこぼすと、神父様も額に手を当てる。


「閣下がリリアーネ様を監禁なさるおつもりでしたらその限りではないかもしれません。ただ、そのくらいになれば当主の付き添いなしで教会に立ち入ることが可能になります。一人で尋ねてこられたと言い繕い、無理やり教会に拉致して、公爵家の虐待をでっちあげれば、リリアーネ様の監督権は教会か王家に移されるでしょう」


 正式な社交界、つまり夜会は成人を迎えた十五歳以降しか出入りすることはできない。

 しかし、貴族の子息令嬢は十歳以降は子ども同士の交流や、昼に行われる保護者同伴の茶会、領内の慈善事業の視察など、大きく政治に関わらない催しには参加が奨励される。

 大人の目が届くような場所で社交の練習をし、将来の仲間や家臣となり得る人物を作る、そういった交流が求められるのだ。


「……そこまでして、奴らはリリアーネを得ようとするのか?」

「今の段階では何とも言えません。ですが、王都の方では年々教会の求心力が下がっているとも、王家の支持率が低下しているとも聞きます。万に一つの可能性にかけて、そのような暴挙にでないとは思えません」


 ……巻き戻る前、王家の評判は引き籠りがちな私の耳にまで聞こえるほど悪かった。

 結婚するまでの私は、初めての恋に浮かれて、そんな評判は一つも気にかけなかったし、私を虐げる使用人たちが私を怖がらせるために教えてきたのだと思っていたけれど。

 今はもう思い出すのも嫌になるかつての夫、第二王子も、私との結婚も王家の悪い評判を私、ひいてはブルーメに擦り付ける算段だったに違いない。


「リリアーネを外に出さなければ?」

「それこそ虐待を疑われるでしょう。病弱だと言い張ることは可能かもしれませんが、どう見ても健康体のリリアーネ様です、屋敷から出ないことも、病弱のふりをし続けることも、体は平気でも心への負担が大きいかと」


 貴族でも平民でも、婚外子に虐待をしたり、必要な教育を受けさせなかったりすることは珍しくない。

 そして、その被害者が逃げ込む先が教会や教会の運営する施設であることもまた一般的である。


 一度、そういった名目で保護されてしまえば、本人が望まない限り、元の家族や関係者は会うことを許されない。

 そして本人の意思を確認し、代理人となるのは教会だ。

 教会が保護した人間を一切外部との接触が経たれる状況においても、それが本人の望みではないと証明することはかなり難しいのである。


 本来は、弱い立場におかれた女子供の為の救済制度だが、私たちの現状においては一番厄介な制度でもある。

 一度教会にそれを仕組まれてしまえば、覆すには私が無理矢理にでも教会を抜け出すしかないが、それもブルーメ家に脅されているのだと主張されればそれまでだ。


 首を横に振った神父様に、お姉さまは悩ましいといった表情をする。

 私はお姉さまの袖を引き、見上げて口を開いた。


「私は、お姉さまに迷惑が掛からずに、一緒にいられるなら、それでも……」


 お姉さまと幸せになると決めた今、私の最優先はお姉さまと共に居ることだから。

 私が外に出ることが出来なくとも、周りにはきっとビリーやアノンたちもいてくれるし、お姉さまがそれで安心してくれるのなら構わない。

 そんな気持ちで笑顔を作ろうとしてみる。


 お姉さまは私の言葉を遮るように、私の両頬に手を添えてはっきりと言い聞かせる。


「リリ、大丈夫よ。そんなことはしないわ。貴女を守りたくて無理をさせてしまうなら、本末転倒というものでしょう?」


 お姉さまは安心させるように微笑んだけれど、私だってお姉さまに負担を強いるようなことはしたくないのだ。


 こほん、と咳ばらいをした神父様に視線が戻る。

 真剣な表情を作り直した神父様とお姉さまが向き合った。


「……本日伺いました大きな理由として、私に二つ、提案をさせていただきたいのです。それを受け入れてくだされば、私と北部教会の信仰心にかけて、少なくともリリアーネ様から出向かない限り教会からの接触は最小限に留めさせることを誓いましょう」

「……言ってみなさい」


「公爵令嬢付きの司祭兼家庭教師として、私を雇っていただけませんか。そして、そこの彼、アノンを私の養子、次のアスターとして引き取らせていただけないでしょうか」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 9/21

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