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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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96/110

#96

 こほん。

 気を取り直したように、神父様は一つ咳ばらいをして話を続ける。


「教会の主要な役職者のほとんどは、敬虔な神職者そのものです。彼らは真剣に神託に従い、神の意志を尊ぶ真っ当な人間ですが、中央教会のいくつかの派閥や、西側の何人かは、立身出世に意欲的な者がおりまして」

「中央の連中は聖職者まで地位に固執するのか」


 お姉さまは公爵位を継いでから、最低限の社交以外は北部にずっと滞在しているため、中央の政情はあまりご存じでない。

 婚約してから処刑までの期間は短かったとはいえ、王族の妃として振舞ったことがある私の方がそういったことには詳しいだろう。


 中央の貴族は地方貴族と違い領地は小さく、そのくせ子沢山なので受け継ぐ地位も領地もない次男坊三男坊が常にあふれている。

 才能がある者やより上位の貴族に伝手がある者は、国の文官や高位貴族の上級使用人、商人や芸術家になる事が可能だが、そうでない者は平民になるか教会に入るかしか選択できない。

 貴族時代より贅沢はできないだろうが、一日三食が担保されるうえ、貴族籍の出身者は中央教会では優遇されるので、人気の就職先なのだ。

 そんな理由で入った者が真面目に神への奉仕が出来るわけもなく、賄賂や実家の身分による圧力が横行している。


 お姉さまの呆れたような声に頷いた神父様は、心底嫌気が差したという表情をしている。


「ええ、情けないことに。先だっての聖女もその派閥の一人というわけです。彼女らの狙いはリリアーネ様を手中に収め、マーガレット様を魔王を召喚する邪教徒として糾弾することにあるのでしょう」

「……そこまでリリアーネの存在は魔王に直結するものなのか?」

「勿論、リリアーネ様のお側にいらっしゃるからと言って、マーガレット様が魔王を呼び出すと確定したわけではありません。魔王の召喚なんてまともな理性が残っていれば行えるはずもありません。人間が狂う時は一瞬ですが、そうなるという保証もそうならないという保証も我らにはありはしないのですから」


 ですが、と言葉を切った神父様は真剣な表情でこちらを真っ直ぐに見つめる。


「それでも僅かな可能性をも疑いたくなるのもまた、人間が持つ思考というもの。魔王などというのは召喚されてからはどうにもできませんから、例えばリリアーネ様が虐げられている、と捉えられる言動があればこれ幸いと中央で保護という名の洗脳教育を受けることになっていたでしょう」


 神父様ははっきりと言いきってから、ふわりと私に微笑みかける。


「そうはならずに済んで本当に良かったです。お二人の仲も良好のようですし、予算や食事を制限されている様子もない」

「私がそのようなことを妹に対してするはずがない」


 少し、機嫌を損ねたような不満げな表情を覗かせたお姉さまに、神父様は、それは勿論そうあってほしいですが、とエルヴィンの方に顔を向けた。


「世の中、閣下のような真っ当な人間は意外と少ないものですよ。頑として存在を認めなかった癖に利益を出す相手だと知った途端に囲い込み、屋敷に軟禁しようとする身内や、政略の為に引き取るだけ引き取ってろくに教育の機会も与えない親族なんて、無限に湧いてくるものです。ねえ、エリー」

「……余計なことを言うな、ガイ」


 話を振られたエルヴィンは苦しそうに呻くような声で、神父様に文句を言う。

 まるで古傷を抉られたような表情に、エルヴィンの過去に私とお姉さまのような関係に関わった問題が起きたのだということを察した。

 エルヴィンが私をずっと気にかけてくれた理由が、きっとそこにあるであろうことも。


 エルヴィンに文句を言われた神父様は呆れた表情で肩をすくめながらため息を吐いた。


「本当に貴方は過保護な人だ。なんでも隠し通せば良いってものじゃないの、この家に関わることはお話しするべきことでしょ」

「分かっている。そろそろ、言うさ」


 心配するような、たしなめるような口調で神父様が諭すと、エルヴィンは気まずげに目を逸らす。

 神父様は疑わし気に見つめていたけれど、お姉さまに改めて向き合う。


「それなら、良いけれど。……すみません、話が逸れましたね。マーガレット閣下、こういった馬鹿げた理由で貴女様を狙う輩、妹君を狙う輩がいるということは心に留めおいてください。今は、これ以上あなたを刺激し、それこそ魔王なぞを召喚されてはかなうまいという方向に誘導しておりますが、話を聞かない馬鹿も多いので」

「……分かった。全てに納得できるわけではないが、一応理解はしよう。それで? リリアーネは結局のところ何をすれば良いのだ?」

お読みいただきありがとうございます。


諸事情により、9/16につきましては更新をお休みさせていただきます。

次回更新予定 9/18

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