#93
「こちらとしてもあの不快な連中に極力関わらずに済むというのならばありがたいが……それで北部教会の業務が怠るということは?」
お姉さまの言葉に対して、神父様は気にする様子もなく首を横に振った。
「ありませんね。中央がどうなるかは知りませんが、地方教会同士の出向人数を増やせば事足りますし、そもそも以前から中央からくる人間は地方教会の人間を見下す方が多く、問題にもなっていましたから」
この国は東西南北の地方と、中央で政治の仕組みも文化もまるで違う。
その中でも繊細かつ華やかな生活を尊ぶのが中央で、素朴で堅実な生活を営むのが北部。
他の地方も中央と比べれば、大分様相が違う文化の形をしているけれど、ある意味対極にある中央と北部は貴族から民まで対立しがち。
中央の人間は一見すると地味にも見える北部を馬鹿にする者もそこそこいる。
平民よりもむしろ貴族の方がこれは酷くて、神職者としての修練をするための出向を受けられるのは貴族出身の者が多いだろうから、その影響もあるのだろう。
王都で田舎者と蔑まれた遠い記憶に、私の眉間に思わずしわが寄るのを見たアノンが、心配そうな顔で手を握ってくる。
「中央の連中も含めて、今後教会の方からブルーメ家に接触する際は必ず北部教会を通すことを約束させました。また、北部教会の担当者もこのガイウス・アスターに一任いただくことを北部神殿長よりご内諾いただいております」
「では、それ以外の者が接触してきた場合は? こちらで処分しても構わないのか?」
「はい。誓約を違えるようであれば、元より神に仕える資格などありません。こちらから恩赦を求めるような真似もさせません」
女神の名のもとにと、あらゆる命を尊び、慈しめと教える教会が、処分に異を唱えないと言い切ったことに私もアノンも驚く。
前回、私が陥れられたときだって、その場にいた僅かな教会関係者は私を擁護しないように、軟禁されていたし、基本的に信徒であればどんな凶悪犯でも一度は助命を望む教会が、はっきりと恩赦を求めないと口にしたのは、それだけこの事態を重く見ているという証拠でもある。
きっぱりと言い切った神父様を見て、お姉さまは見定めるように見つめて、口を開いた。
「……分かった。そこまでの覚悟があるのならば、今回は教会への制裁は中央に対してのみに収めよう。北部や他の教会に対しては一切の責任を問わない」
「ありがとうございます! 北部教会を代表して感謝申し上げます」
ほっとしたように表情を緩めて安堵の息をついた神父様。
最初はあまり緊張しているようにも見えなかったのだけれど、その様子を見ると、先ほどまでどれほど緊張していたのかが窺い知れる。
「ブルーメの当主としての冷静な判断だ、礼を言われることではない。だが、教会にはまだいくつか尋ねたいことがある」
「はい。私どもも是非閣下やリリアーネ様には知りおいていただきたいことがございます。そして確かめたいことも。……人払いは如何なさいますか?」
神父様がちらりとルニエッタ卿を見遣る。
「……アニー、お前は部屋の前の警護を。お前を信用していないわけではないけれど、出来る限り事情を把握している人間で話は進めたいの」
「かしこまりました」
お姉さまが声をかけると、一瞬だけ口を引き結んで、それでも異は唱えずに、ルニエッタ卿は部屋の外へ向かう。
「エルヴィンは……」
「俺は残らせていただいても良いですか? 恐らくマーガレット様が聞きたいことと同じことを、俺も聞きたいと思っていたので」
「分かった」
神父様がエルヴィンやアノンには一切出て行くかと確認を取らなかったのは、これから話されることにも関係があるのだろう。
特にお姉さまが来る前に、神父様がアノンに見せた反応は、特別な何かが起きたかのような反応のしかただった。
そう、まるで、古い知り合いに再び巡り合ったかのような。
養子先の話も、アノンがすんなり受け入れたということは、アノンの想定していた養子先も神父様の所だったということなのだろう。
私がそんなことを考えている間に、改めて私たちの対面座り直した神父様がお姉さまに向かってにこやかに尋ねた。
「それではまず、公爵様のご質問からどうぞ」
お姉さまは、一瞬だけ考えるそぶりを見せ、それから口を開く。
「教会の得た神託とはどんなものなのか、具体的に何を指していると教会は考えている? そして、それは私の妹に何をさせようとしている?」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 9/9




