↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/110

#91

「失礼します」


 いつもより少し硬めの表情で室内に入って来たエルヴィンの後ろに目を向ける。

 面識があるからと迎えに行っていたエルヴィンが伴ってきたのは、どう見ても神父ではなく、修道女の格好をした女性。

 ソルフェリノピンクの瞳と一瞬視線が交錯する。


 神父様は?


 私たちが呼びだした相手は、シスターではなく、司祭の男性のはず。

 私たちの疑問を代表するようにルニエッタ卿がエルヴィンに向かって尋ねる。


「シュトゥルム卿、本日は神父様が来る予定では? そちらのご婦人はどう見てもシスターですが」


 エルヴィンは苦虫を嚙み潰したような表情になると、彼の後ろに隠れていたシスターを自分の前に突き出す。


「あー、お気持ちは分かるが、これが目的の人物で間違いない。リリアーネ様、ご紹介します。北部神殿所属の司祭ガイウス・アスターです。失礼のない服装で来いと念を押したのですが……」


 改めて見ても、正真正銘女性であるルニエッタ卿よりも若干華奢な体つきと少し低めの身長は女性にしか見えない。

 石竹色の優しいピンクの髪も、肩より長く伸ばされ、二つ結びに分けられているのが分かる。


 言葉尻を濁したエルヴィンに向かって、神父様? が突っかかていた。

 頬を膨らまして拗ねるその声を聴いても、女性の平均より多少低いくらいで、言われなければ男性だとは分からないだろう。


「シスター服だって神にお仕えするための正式な服ですけどぉ? 失礼だなんてそんなこと言わないでね、エリー」

「お前は男なのだから、司祭服を着ろ! せめて初対面くらいは猫を被ってくれ、ガイ。後、姫様の前でエリーは止めろ」

「嫌よエリー。確かに私は男だけれど、こちらの方が似合っているでしょ? やっと私もシュトゥルムと公爵家の役に立てるのだもの、我らの愛しい主様方にありのままの私を見てほしいと思うのは当然のことでは無くって? あと、紹介するときは兎も角、私を呼ぶならステラちゃんと呼んで!」

「分かったから、ガイ、早く姫様に挨拶しろ」


 しばらくの間、エルヴィンと言い合っていた彼だったけれど、コホンと軽く咳ばらいをして私に向き合うと、さっと跪いて首を垂れる。

その動きの滑らかさは騎士たちのそれと遜色ない、洗練された動きだった。


「んもう、またガイって呼ぶし。……お見苦しいところをお見せいたしました。北部神殿にて司祭を務めておりますガイウス・ステラ・アスターと申します。この度は中央教会の聖女ともあろう者が神託で定められし貴きお方に対して行った無礼のお詫びと、卑賎な私如きに拝謁を賜る機会を頂けましたこと、光栄にございます。北部教会一同、中央の暴挙を止めることが出来なかった罰は如何様にもお受けする所存にございます」


 その真摯な謝罪に私も思わず襟を正して向き合う。


「頭を上げてください。ブルーメ公爵家が次女、リリアーネ・ブルーメと申します。北部教会と中央教会は実質別系統の組織でもあると聞いていますし、北部教会の神職者が民の為に尽くしてくださる方々だということはよく分かっておりますから、お姉さまがおっしゃらない限り、私から北部教会に対して罰を求めることはしません」

「ありがとうございます。私どもでお役に立てることがあれば、是非その機会に償わせていただくことにします」


 礼を述べて立ち上がった神父様は私に向かってにこりと笑いかけた。


「シュトゥルム卿、閣下はご同席なさる予定だったのでは?」

「ああ、リリアーネ様には先に会わせた方が良さそうだと思ってな。マーガレット様も本題に入る前には合流なさる」

「というかこの神父様は本当に大丈夫なのですか?」

「一応あれで北部教会のまとめ役もしてるから、まあ……」


 エルヴィンとルニエッタ卿が会話をする横で、アノンはただ、じっと神父様を見つめていた。


「……」

「あら、こちらの坊やは?」


 その問いに答えようと口を開きかけて、アノンに制される。

 アノンはおもむろにソファから立ち上がると、神父様に握手を求めるように手を出した。


「神父様、とりあえず、僕のことを『見て』もらえる?」

「……構いませんよ」


 何かを察したらしい神父様の顔に緊張感が僅かに走り、二人を握手を交わす。

 数秒後、握手を解いた瞬間に、神父様の体がぐらりと傾きかけた。


「神父様⁉」

「ガイ⁉」

「大丈夫です! 少し、『見え』過ぎただけですので。なる、ほど」


 ルニエッタ卿やエルヴィンが駆け寄って支えようとしたのを制して、自力で体制を立て直した神父様は、屈んでアノンと目線を合わせる。


「アノン、『また』私の養子になりませんか?」

「はぁ⁉ ガイ、お前養子っていきなり」

「急だって別に良いでしょ? 見込みがありそうな子を育てることもアスターの意味よ」


 驚いて叫んだエルヴィンを振り返りもせずに、神父様はアノンのことを真剣な顔で見つめ続けた。

 アノンも予定していたことのように動揺を見せず、ただ、神父様の次の言葉を待つように見つめ返す。


「ああ、勿論貴方の望む通り、お嬢様のお側でお仕えして構わないわ。私の手伝いを頼むこともあるだろうけれど、その代わり、貴方の地位は北部教会とアスターの力で守って見せるから」


 その言葉を聞いて、アノンは満面の笑みを浮かべて言った。


「はい。『また』よろしくお願いします、ステラ」

お読みいただきありがとうございます。

ガイウスは男です! ただ女性の格好が似合いすぎるだけなので、あんまり気にしないでください!


次回更新予定 9/4

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。