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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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90/110

#90

何とか間に合いました!

(sideリリアーネ)

「養子?」

「うん。僕たちの立場はまだリリのおまけで連れてこられた孤児に過ぎないからね。公爵令嬢の周りにいるのが平民、しかも孤児ばかりだと、ブルーメ家全体の格にも関わる。ここの人たちは公爵様が良しとすることに異は唱えないだろうけど、外に出たときに不要なトラブルを招く可能性は否定できない。生まれは変えられなくとも、爵位がつくだけでも違うからってシュトゥルム卿がね」


 応接室のソファで二人並んで座りながら、アノンの話を聞く。

 エルヴィンから頼まれてそれぞれと面談する時間を作ったものの、私にはその内容は確定してから報告するからと言われただけだったので、予想外の話だ。


 半分は正当な公爵家当主の血を引いている私であっても反発があるくらいだ。

 ましてや、いまだ身分は平民の孤児にしか過ぎない皆への当たりは私に直接言えない分も含めて激しくなるであろうことは明白。

 実害が出る前に、何とかしてくれようとしたのだろう。


 私もお姉さまもそういった家臣たちの心情まで全てを把握できるわけではないから、エルヴィンが色々と調査しつつ調整もしてくれることは助かっている。


「そうなのね。けれど、養子先はどうするの? 私への反応を考えると、その」

「御心配には及びませんよ」


 本来任務中に口を挟むことが差し出がましいのは承知しておりますが、と本日の護衛担当として後ろに控えていた騎士が口を開く。

 騎士としての芯の強さと女性特有の華を同時に含んだベルベットの声の主は、私に向かって安心させるように微笑んだ。


「ルニエッタ卿」

「シュトゥルム卿が選んだ家は慈善事業に注力していて孤児にも偏見のない家なので問題ありません。それにあくまで貴族籍を与えることが主な目的なのでこちらにも頻繁に通えますよ」


 私の護衛騎士の役も与えられたルニエッタ卿には、今は週に二回ほどと、お姉さまが同席できない来客の時の護衛を頼んでいる。

 既に隊長職であるルニエッタ卿を、現状引き籠ってばかりの私の護衛にし続けることももったいない気がしたのだ。

 今日は、外部からの客人が来る予定なので、護衛騎士向きの服というよりは正装に近い騎士服を纏っているので、その立ち姿は美しい絵画のそれと同じだった。


「それなら、大丈夫ですかね」

「ああ、ちなみにですが我がルニエッタ家にも御縁を頂きまして、やんちゃ坊主二人を引き取らせていただくことになりました」

「! リュットとテッドを? ルニエッタ卿のお家でですか?」


 双子が離れ離れにならずに済みそうなことに安心するも、まだ若そうなルニエッタ卿の家で引き取っても問題がないのかと不安がよぎる。

 後継ぎ問題は勿論、あのやんちゃな子供二人を一度に引き取り育てるというのは、共に育った身からしてもなかなか大変なことではないかと思ったのだ。


 しかし、その疑問はあっさりとルニエッタ卿の返答で杞憂に終わる。


「私には姫様より三つ年上の倅がいるのですが、夫寄りの性格の所為か、文官になる心算のようで。私は怪我でこれ以上子を望めないのですが、良い騎士になりそうな子を二人も迎えられたことは僥倖でした」


 彼らも強くなりたいから鍛えてくれないかと自ら言い出せるだけの想いはあるようですし、鍛錬がとても楽しみです、そう言って口元を緩めるルニエッタ卿を見て、彼女になら安心して託せると確信する。


「ビリーとネラはシュトゥルム卿が、メルはブルーメ傍系の中でも文化面に造詣が深いブルムストーレ伯爵家でお世話になるんだって」


 アノンが補足するように残りの三人の行き先を教えてくれる。

 エルヴィンがビリーを気に入っていそうなことは何となく察していたけれど、一番幼いネラも一緒に引き取ってくれることになったのは意外だ。


 ブルムストーレ家はほとんど面識のないブルーメの分家だけれど、税制の記録などを引き受けていた家だ。

 現在は確か老いた当主夫婦だけで継ぐ者がいないはずなので、その点だけは気になる。


「それでアノンは? どこへ行くの?」

「ああ、うん。それなんだけど、僕は養子の件は一旦断ったんだ」


 さらりと言われた言葉に驚く。

 エルヴィンの提案の利点を一番理解しているのは、私と同じように二度目を歩むアノンのはずだからだ。


「え?」

「シュトゥルム卿や打診してくれた家に問題は無いんだけど。実は既に目を付けているところがあってね。断られることはないだろうけど、その人に断られてからお願いするってことにしたんだ」

「それって……」


 もしかして、一度目に関わりを持った誰かと、もう一度家族になりたいということなのだろうか。

 問いかけようと口を開きかけたところで応接室の扉がノックされる。


 コンコンコン。


「リリアーネ様、北部神殿よりガイウス・アスター神父様がご到着されました」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 9/2

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