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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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89/110

#89

大幅に遅れております……

 仲間も主も救えなかったこの罪悪感がなくなるなら。

 自分の存在一つで、守れなかった友人の息子の気が済むのなら。


 自分は死んでも構わなかった、ふっと表情を緩め、そう笑う姿に心底腹が立ち、思わず怒鳴る。


「殺されても良いだなんて無責任だ。リリがどれだけお前の死に傷付いたと思ってるんだ⁉ 誰にも愛されなかった彼女に希望だけ魅せるなんて残酷なことをしやがって‼」


 側にいることも、その姿を視界に入れることさえも、赦されなかったあの頃の自分には、優しいあの子の苦しみの全ては理解できないけれど。


 再会して以降、姉の次にその安否を気にかけているのはこの男だ。

 それは、逆もまた然りで、傍目から見ても、リリのことをとても大切にしていることははっきり分かっていた。

 だからこそ、自身を憎む者の感情を優先して、慕ってくれるリリのことを置き去りにするような選択をしたことが、ただただ耐えられなかった。


「俺は、間違ったのか?」


 リリの境遇を知ってから、幾度となく抑えても溢れ出した十数年物の叫びは、正面からのただ真っ直ぐな問いかけで勢いを失う。

 問いの形をしながらも、言葉の主はすでにその答えを理解しているようだった。


「……少なくとも、おま、貴方の選択を許せない人間がここにいる」

「そうか。……そうだな、お前の知る未来で俺が選んだのは、間違いなく政界ではなかったんだろうな」


 どこか憑き物が落ちたようにも見える情けない顔をした男は、納得したように頷いて、僕に向かって頭を下げる。


「すまなかった。俺が楽な道を選んだばっかりに、姫様やお前が、経験しなくとも良い道を歩まされてしまったのなら、非は、すべて俺にある」

「別に、僕に謝る必要は。貴方だけの所為ではないし、今の貴方はもう、死ぬつもりがないんだから、僕のただの八つ当たりでしょう? それに、こんな話信用したとしても、未来の自分にまで責任を持つのは不可能だ」


 あまりにも、はっきりと謝られてしまうと、こちらもばつが悪くなる。

 勢いのままに怒鳴ってしまったけれど、僕と違って記憶もないこの男は、今起こってもいない未来の出来事に対して、直接関係のない僕に謝るなどという馬鹿みたいに真摯な対応をしたのだ。


「確かに俺はもう、ユリウスにだって殺されてやるつもりは微塵もない。マーガレット様と、リリアーネ様が幸せになるまで、必ず見届ける。だが、たとえ無かったことになるとしても、自分よりずっと小さいお前やリリアーネ様を苦しめたならせめて謝罪の一つでもするべきだろう」

「一応誠意は受け取っておく。けど、リリには謝らないでくれる? 僕と違って、貴方が諦めたことも、二度同じ真似をしようと思っていたことも、あの子は気付いていないから」

「分かった、姫様にはこれまで通り接することにするよ」


 リリはきっと気付かないだろうし、気付かないでいてほしい。

 この男が今回も、自分が死ぬことで友人の息子であるユリウス・カルストの溜飲を下げようとしていたことに気付いていたのは、たぶん僕だけ。

 それは、僕とこの人がどこか似た者同士だからだろう。


「……どういう手段かは分からんが、姫様と第二王子を引き合わせたのは俺だな?」


 僕が話したことから、過去の自分がどういう行動を起こしたのか察したことに少しだけ驚く。

 だが、何かを思い当たっているようだということは、既に今回も視野に入れていた行為なのだろう。


「それは、今回もするつもりだったの?」

「マーガレット様がリリアーネ様をどう扱うか分からなかったからな。血が繋がった人間であっても、それが半分であれば、平気で虐げる奴や、政略の駒としてしか扱わない奴が大半だ。マーガレット様がそうした下劣な人間でないことは分かっているが、距離が縮められないままならどの道リリアーネ様が辛い立場に置かれるのは分かりきっていたからな。かといって、公爵家の血を引くお方を下手な家には嫁がせたくないし、年齢と立場の安定性を踏まえると、第二王子が一番適任だったんだ」

「確かに今の段階だとそうだったんだろうけど、王家はこの先今以上に不安定になるから、二度とリリに近づけさせないで」

「当たり前だ。そもそも今のマーガレット様はリリアーネ様を手放すとは思えないからな。無理に相手を探す必要もない」

「なら、良い」


 今更、同じ相手を勧められたとしてリリも断るだろうけれど、善意から勧められたことを断ることがリリの重荷になることは分かりきっている。

 話が出ないならその方が良い。


「そうだ。もう一つの本題を話そうか。これはお前以外の孤児院組にも提案したことなんだが……」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 8/31(今から行けるか⁉……)

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