#80
毎回遅れてすみません……
(sideマーガレット)
「閣下、屋敷の制圧が完了しました。国境伯及びご家族も保護しております」
クラウスが私の天幕にやってきて報告する。
私は天幕の中で持ってきた書類を広げながら彼の話を聞いていた。
北部国境の反乱は、犠牲を出すこともなくあっさりと鎮圧できた。
とはいっても、一般兵のほとんどは主が人質となっていたせいで従わされていただけであり、自発的に反乱に加わった者は能力不足で上に行けずに逆恨みしたような連中ばかり。
当然大した実力もないのだから、公爵家直属の騎士たちに適うはずもない。
警戒しなくてはならなかったのは、むしろ身内で、エルヴィンの件がある以上、迂闊に疑いをかけることも、全面的に全員を信用することも難しかったが、出立前にエルヴィンが紹介してくれた諜報員を動かして、何とか戦いが始まる前に三人の内通者を捕まえた。
幸いだったのは若手の騎士になりたての者たちばかりだったことで、長い間公爵家に仕えている者にはひとまずは裏切られていなかったことだろうか。
「ご苦労。伯の様子は? 体調に問題は?」
「医療班によると、食事が制限されていたようで少々栄養失調の気があるそうですが、意識ははっきりしています。娘婿の方はどうやら薬漬けにされていたようで、まず解毒から始めなければならないと。申し訳ありません、奴らがこちらに勘づいた時点で仕掛けておくべきでした」
挽回の機会をと、クラウスが提案した作戦は伯を監禁した首謀者たちの根城に睡眠ガスを充満させるというもの。
伯の下でも修行していたことがあるクラウスは、この地域特有の植物を使った民間の睡眠薬の情報を持っており、それを気化させたガスを使うことで敵を無力化できないかと提案してきたのだ。
都合の良いことに、エルヴィンの手の者はこの手の薬物にも詳しい人員で、無色無臭に限りなく近い気体を生成することが出来た。
あとは目立たないところにガスの入れ物を仕込み、私の魔法で屋敷を覆ってしまえば中に睡眠ガスが充満し、中の者は意識がもうろうとする。
万全を期して、仕掛けを作ったおかげでガスの効き目は充分だったものの、目ざとい幾人かには抜け出されてしまった。
気付けた者は追っ手を放ったが、恐らくより重要な人物は先んじて抜け出しているだろう。
「クラウスの所為ではない。準備も終わっていない状態で仕掛けていれば、こちらの犠牲も出たかもしれなかった。こちらにけが人が出なかったことをまずは喜びなさい。折角の初指揮でこれだけの成果を出せたことを」
「しかし、案を出したとはいえ、要となる魔法や工作については閣下やエルヴィン様の部下に任せきりになってしまいました。」
「仕方ない、お前には魔力がほとんどないのだから。私の得意分野まで奪われては困る」
慰めではなく事実を告げているだけなのだが、クあy示唆を顔ににじませたクラウスが拳を下でぎゅっと握った。
「……次は閣下のお手を煩わせずに済む方法を考えます」
「期待しておく。……それで、伯に確認はできたか?」
「はい。やはり、伯が王都やエルヴィン様に手紙を出したという事実はないようです。夫人がおっしゃるには、夫人の部屋からも伯の書いた手紙などを接収していたようですから、筆跡を真似て書かせた手紙ではないかと」
伯からエルヴィンに手紙が届くこと自体はおかしくないが、王都の貴族に反乱の報告など、中央に付け込まれることを何よりも危惧している彼がするはずない。
その予想はしっかりと当っていたようで、クラウスは大量の手紙の書き損じを見せてくる。
書かれている内容は正しく、王都からの使者が私に見せたものと同じ内容だったが、後に進めば進むほど、綺麗な手本のような字から、伯の癖のある力強い字へと変わっていく。
なるほど、随分と手間暇をかけてくれたらしい。
「道理で伯の字ではあっても言い回しが迂遠だったわけね。クラウス、エルヴィンに伝えて手紙を書いたものを探させて。もしこちらに引き込めたり保護できそうならそれも頼むと」
「かしこまりました。……閣下、後は私が指揮しておきますので本日は休まれてはいかがですか? 公爵邸にお戻りになるのであれば、私が情報をまとめておきますので、明朝、伯にお会いして出立なされば良いかと」
私の表情に疲れでも見えたのだろうか、クラウスの気遣いに私は素直にうなずいた。
「分かった。ではここの指揮はお前に預ける。伯が持ち直すまではこの町の治安維持も仕切ってやりなさい」
「はい、ではおやすみなさいませ」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 8/10




