#79
短い! で、ギリ!
「それで、仮にリリアーネ様が『女神の慈悲』を経験した方だとして、貴方はどうするつもりですか」
「本人やマーガレット様次第ですが、とりあえず兵士から使用人まで裏に余計なものが付いていないか調査し直します。北部辺境で反乱を起こし、それを隠れ蓑に何をしでかそうとしていたのかは分かりませんが、中央のやつらは一線を越えましたからね。徹底的にやりましょう」
俺個人が狙いならなあなあにしてやったって良かったが、俺を排除した後に何をするのかなんて、大体分かりきっている。
大方、リリアーネ様を懐柔してマーガレット様に意見させるか、マーガレット様を消してリリアーネ様を操るか……どちらにしても碌な結末は望めない。
公爵になったばかりのマーガレット様を守るために、余計な危険を増やしかねない裏の者を動かすのは控えていたが、それが裏目に出ている以上、迅速に部下を動かさなければならない。
マーガレット様の出立前に動かせた人員以外にも召集をかけることを決意する。
「分かりました。貴方が負担していた業務はこちらで引き受けますから、貴方の本分を果たしなさい。マーガレット様には向こうの事案が解決したならすぐにご相談しましょう」
「そうですね。マーガレット様の方にも何人か俺の部下を入れているので何かあればそちらからも知らせが来るはず。俺たちは俺たちの出来る範囲のことをしていきましょう」
「ええ。……それで、ユリウスはどうですか?」
痛みをこらえるかのような表情で執事長が俺に尋ねる。
「どう、とは?」
「ユリウスは裁かれねばなりません。間違った私怨に取りつかれ、主を傷つけかねない行為に手を出すような人間は、ブルーメの臣として存在してはならない。罪人にはそれ相応の報いを、受けさせなければなりません」
誰よりも長く公爵家に仕えてきた彼の瞳は鋭く研ぎ澄まされた刃にも似た緊迫感がある。
自分が育てたともいえる相手だからこそ、ユリウスの裏切りには人一倍思うところがあるのだろう。
彼の怒りを取りなさねば、ユリウスが息の根を止められるのではないかと思わせるほどの雰囲気に思わず身構える。
しかし、予想に反して、執事長はふっと気を緩めると、なんと俺に向かって頭を下げた。
「し、執事長?」
戸惑う俺に構わずに頭を下げたまま、執事長は口を開く。
「ユリウスやミディがエルヴィンを見当違いに恨んでいることは、ずっと知っていました。貴方がそれを許しているのを良いことに、私は彼らに小手先の技術ばかりを仕込んで、もっとも大事な人を見る目を養わせることが出来ませんでした」
「いや、それは、人ともまだ子供だったのですから、あなたの所為ではないでしょう。俺も敢えて疑惑を煽ってみせましたし」
「それでも、私がしっかりと否定しておけば、あるいはもっと公爵家に仕えることの心持を仕込んでおけば……」
「そればっかりはどうしようもない話でしょう。貴方に語られたところで、却って当時の彼らには人間不信を助長させることにしかならなかったでしょうし」
頭を下げ続けたままの執事長の顔をそっと上げさせて、笑いかける。
「リリアーネ様が、俺の新しい姫様が無事だったから。今はそれで良いんです。執事長にはこれからも頑張って働いていただかないと。ユリウスもミディも姫様がきっと守ってくれますよ」
「リリアーネ様が?」
「姫様は、誰も見捨てられないんです。俺たちだけなら、きっとこのままユリウスもミディも見捨ててしまえるけれど、大事な妹からおねだりされたらマーガレット様は命の一つ二つくらい見逃してしまうでしょう?」
リリアーネ様は、一度懐に入れた人間をぎりぎりまで見捨てられないだろう。
かつてリーリエ様がそう選択したように、自分の命で好転する事態があれば、死も辞さない。
そんな嫌な確信がある。
いずれは決断しなければならない時が来るとしても、まだ、今は。
本音を言ってしまえば、姫様に手を出した時点で八つ裂きにでもしてやるところだが、姫様のお願いという免罪符がある内は、大事な友人の忘れ形見を手にかけずにすみそうだ。
「そう、ですか」
「まあ、それでも職場に復帰できるかは怪しいですし、その分俺たちで埋めないと」
執事長と別れ、再び姫様の部屋へと向かいながら、胸中で一つだけ、誓いを呟く。
今度こそ俺が、ブルーメも姫様も守ってみせる。
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