#73
「いやあ、これは困ったなぁ」
頭をポリポリと掻いたエルヴィンに溜息を吐いた初老の男性。
「それはこちらの台詞ですよ、エルヴィン。何故、地下牢にいるはずのあなたがお嬢様と一緒にいて、ユリウスがお嬢様の部屋のソファでのびているのですか?」
お姉さまから留守を預けられたうちのもう一人、ミディの祖父でもある執事長だ。
アノンの浄化を受けて気を失ったユリウスをとりあえずで長ソファに寝かせたところに訪ねてきた爺やは、裏切りの疑いをかけられて地下にいるはずのエルヴィンがいることにまず目を見張り、続いて気を失ってソファに横たわっているユリウスの姿を視界に収めるとさらに怪訝な顔をする。
エルヴィンに対して、ユリウスのような敵対心や警戒心は見られなかったけれど、ただひたすら状況に困惑しているように見える。
私が先手必勝とばかりに謝ると、それを庇うようにミディが追いかけて言葉を発した。
「ごめんなさい、爺や。でも、これ以上事態が悪化する前に何とかしたかったんです」
「おじい様、いえ、執事長、お嬢様は悪くありません! お嬢様はただ私のような者の心まで思い遣ってくださっただけで……」
ミディの今にも泣きそうな表情を見て、落ち着くように諭しながらも、爺やは起こる様子を見せなかった。
しかし、エルヴィンに向かって問い詰めるように目を細める。
「落ち着きなさい、ミディ。お嬢様も、私はお嬢様を責めるつもりは一切ございませんから安心してください。……エルヴィン、説明はできますね?」
爺やの問いにしっかりと頷いたエルヴィンは、しかし、気を失ったままのユリウスを指さして言う。
「そりゃあ、もちろん。どの道執事長には報告せざるを得ないくらい不味い事態ではありますからね。ああ、でもその前に、こいつを部屋まで運んでやってからでもいいですか? 流石に、姫様の近くには置いておきたくない。なあ、拘束は必要だと思うか?」
「まあ、部屋にかぎをかけるくらいはしておけば? 二日は目を覚まさないだろうし、どうせ目が覚めても暴れてどうにかできるような技術は無いんでしょ?」
アノンはエルヴィンの問いに少し面倒そうな顔をしながらも淡々と答えた。
その大人びた答え方を初めて聞いた爺やが僅かに目の色を変えていたことには気付かなかった。
「そうか。じゃあ、俺は目立たないよう裏からこいつを運びますが、姫様たちはもうそろそろ休んだ方が良いと思いますよ。夕食まではまだ少し時間がありますが、お嬢様たちくらいの年齢なら、体力は疾うに尽きてるはずですから」
突然のエルヴィンの言葉に私は思わず反論する。
「え? でも、まだ全然平気だし、執事長にも説明しなきゃ」
大体、ユリウスを止めたからって問題が解決したわけではないし、一刻も早く解決できるならその方が良い。
そう思ったけれど、エルヴィンは頑として譲らず、ビリーもアノンも異論がなさそうだった。
爺やも私たちの顔を見ると、エルヴィンの意見に賛成する。
「説明なら俺が出来ます。姫様も坊主たちもまだ小さいんだから休養は大人の倍は取らなきゃいけません。そもそも、大の大人だってしないようなことばかりしているんですから、体力も気力も保てている今が一番危険なんです。執事長も、俺でひとまず満足してくださいますね?」
「ええ。お嬢様もお友達も食事をご用意しますから、とりあえず一度おくつろぎになってお待ちください。ミディ、お前も私が食事を持ってきたら一度下がりなさい。そんな顔色でお仕えすれば主を心配させるだけだ。使用人がそれではいけない」
「分かりました、執事長」
ユリウスを担いだエルヴィンと、爺やが部屋から出て行くと、突如アノンがソファに倒れ込む。
「……僕、ちょっとだけ寝るから、食事が来たら起こして……」
「アノン⁉」
いきなり意識を失ったことに驚いて駆け寄るも、アノンはくぅくぅと可愛らしい寝息をたてて寝ているだけだった。
ビリーがアノンにブランケットをかけながら苦笑する。
「落ち着け、アノンは寝ただけだから。さっきからよほど気を張っていたのか口調もいつもより荒かったし、とっくに限界だったんだろ。俺たちも少し寝よう。ミディさん、執事長さんが来たら起こしてもらえますか?」
「はい、もちろん」
軽くミディと言葉を交わしたビリーは私のこともソファに座らせ、膝にブランケットをかける。
「び、ビリーまで……。私は寝ないよ?」
「はいはい、じゃあせめてブランケットでもかけな。おやすみ」
そんな風に私を軽くあしらうと、ビリーは頭からブランケットを被り一瞬で就寝する。
二人のその規則正しい寝息に誘われてか、寝るまいと意識していた私の体からも次第に力が抜けていった。
おきなきゃ、けど、わた、しも、ねちゃう……。
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次回更新予定 7/24




