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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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72/84

#72

いつも遅れて本当にすみません……

(sideリリアーネ)

 ……来た。

 私は、廊下から荒々しい勢いの足音が近づいてきたことに気付き、ミディに目配せをする。

 ミディは不安そうな顔をしながらも、いらだった様子で来訪を告げたユリウスに応対する。

 二言三言交わすと、ミディの制止する声と共にユリウスが無理やり押し入ってきた。


「リリアーネお嬢様?」

「しょ、少々お待ちください、カルスト卿!」

「ミディ、火急の用件だ。通してくれ」

「む、無理です! きゃぁっ」


 ミディが咄嗟に前に出した腕を薙ぎ払って、いつもの静謐さの欠片もない挙動で踏み込んできたユリウスが異常な形相であるのはもう誰から見ても明らかだった。


「ユリウス、私は少し待ってもらうようにミディに伝えたはずですよ?」

「シュトゥルムが脱走しました。お嬢様が匿っているのならば早く出していただきたいのですが」

「私がエルヴィンの無実を信じているからと疑っているのですか?」

「当然でしょう。お嬢様も疑われていることがお嫌でしたらお部屋を調べさせていただいても?」

「カルスト卿⁉」

「構いません」

「お嬢様!」


 売り言葉に買い言葉で応酬するようなやり取りも、戸惑うミディも、全てはこちらの想定した流れの通り。

 普段であれば、この多少のわざとらしさにも気付くだろうというのがミディとユリウスの見解だったけれど、若干血走った眼をしたユリウスが違和感を覚える様子は今のところ見られなかった。


 応接室をくまなく調べたユリウスは、やがて私の背後にある寝室の扉へ目を向ける。


「……見つかりませんね」

「当たり前でしょう」

「そうですか。ならば、寝室を調べさせていただいても?」

「なっ、主家のお嬢様の寝室に立ち入ろうとするなんて、流石に無礼ですよ!」

「うるさい、一刻を争う事態なんだ、引っ込んでいろ! なっ、うぉっ⁉」


 常識的に考えても貴族令嬢の寝室に入ろうとするのは余程の間柄でなければ許されない行為。

 それでも制止を振り切り、扉を開けて一歩踏み入ったユリウスを襲ったのは、害獣捕獲用の簡易網だった。

 網上になった視界に驚きの声を上げた隙に、ドアの影で待機していたビリーがユリウスの足元を蹴り上げ、倒れ込んだところをエルヴィンが抑え込む。

 ユリウスはエルヴィンを認識した瞬間、それまで以上に暴れ始めたけれど、エルヴィンの抑え方が上手いのか、エルヴィンは一切動かされる様子はなかった。


「な、なんだ、おい、あっ⁉」

「よう、ユリウス。お前が来るのを待ってたぜ」

「シュトゥルムぅぅ、きさまぁぁあ!」


 じたばたと暴れる様は、状況を考えなければ少し滑稽に見えたのだろうけれど、私の目から見たそれは、明らかに薬物の中毒者のような見境のない状態に感じられた。


「これは僕が没収させてもらう。どの道あと数回使えば壊れていただろうけど、君の精神の方がそれまで持ちそうもないしね。……さっきの様子なら後数日は持つと思ったのに、やっぱりサンプル数が少ないのは問題だなぁ」


 暴れたことで胸ポケットからはみ出しかけていた懐中時計をアノンが回収して複雑そうな顔をした。

 アノンも恐らく、こういった呪いが絡んだ場の経験は多くないのだろう。


「はい、後は安全だからメルたちはまた寝室から出なければ遊んでて良いぞ。……大丈夫、だよな?」


 危険だからと寝室の更に奥に避難させていた他の子たちに指示を出したビリーがこちらに戻ってきて、寝室への扉を閉めてくれた。

 不安そうな色を覗かせて、エルヴィンに安全を確認すると、エルヴィンは顔色一つ変えずに頷いた。


「ああ、どうやら人間を辞めるまではいってなさそうだしな。俺なら余裕で抑えておける。さっき合図はしたから俺の協力者が縄も持ってきてくれるはずだ。ミディ、お前は見ているのが辛ければ休んでもいいんだぞ? いくら呪いの影響とはいえ兄貴分のこんな姿は見たくないだろ?」

「……いえ、お気遣いはありがたいですが、私も他人事ではありませんから」

「そうか」

「シュトゥルム……いつの間に、ミディを懐柔したっ⁉ 私は、お前を絶対に許さなっ⁉」


 ミディとエルヴィンがぎこちなくも会話を交わす様子をみたユリウスが再び叫ぼうと声を上げた瞬間、白い光がユリウスに向かい、ユリウスは悲鳴を上げて気を失う。

 ミディは咄嗟に悲鳴を上げてユリウスに駆け寄った。


「はい、浄化」

「がぁっ⁉」

「ユリウス兄様っ! あ、失礼しました!」


 アノンがかけた浄化は、ミディにかけたそれよりも大分雑に見えたけれど、効果は確かなようで、顔色が既に少し改善しているようにすら見える。


「大丈夫、気を失ってるだけだ。……あまり勝手なことをするのは止してくれ。俺が咄嗟に気を緩めたりして逃げられたらどうする」

「そんなことさせるわけないけど、次は気を付けるよ」


 エルヴィンにじろりと睨まれたアノンだったけれど、どこ吹く風といった風で全く意に介する様子を見せなかった。


「ええと、とりあえず、ユリウスをどこかに寝かせてあげましょう?」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 7/22 (全然話が進まないです(´;ω;`))

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