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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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71/84

#71

間に合いました?

 あくまで心配の体を崩さないが、内心私のことを怪しんでいるのだろう。

 壮年の騎士の位置取りは咄嗟に私が暴れようとも対処できるようになっている。


 私が睨みつけたことに少しだけ怯えている、若い方だけならば何とでもなったが、ここまで警戒されていると「これ」を使うのにも負担がかかる。

 私は無意識に懐中時計に手を伸ばし、黒い宝石の縁をなぞる。


 ダスゲイルは所詮、ただの手駒に過ぎない。

 ダスゲイルの裏にいる、とある人物が、私に手を組む見返りにと贈ってきたこの呪具を使うには、いくつかの制約と、制限がある。

 そのうちの一つが、一度に影響与えられる人間は一人であること、そして、呪具を使用しているところを誰にも目撃されないことだ。


 呪具の存在を認識している、いないに関わらず、第三者に目撃されてはならないというこの条件を満たすことは案外難しく、不用意に使用すると、ペナルティとして酷い吐き気と頭痛に襲われる。

 ただでさえ、今は調子が悪いというのに、これ以上の無理をすることも出来ない。


 私は内心の苛立ちをぐっとしまい込んで、努めて冷静な顔を作り、これ以上の追求を避けるように告げる。


「そうか、私も少し熱くなりすぎてしまったようだな。少し休みたいから出て行ってくれ」

「処罰はなさらずともよろしいので?」

「ああ。私も少し過敏になってしまったが、シュトゥルム、卿を慕う君たちの気持ちも分からなくはない。今回の件は閣下がお戻りになってから処罰を決めても遅くない」


 ……そのころに、お前たちがまだ生きているかは分からんがな。

 心の中でそう付け加え、後で彼らを始末するようにダスゲイルに連絡を入れることを決める。

 あの男は愚かではあるが、中央との貴重な繋ぎでもある。

 ダスゲイルに言ったことは裏でその上の耳にも入り、短期間で効果が出ることは既に何度か経験している。


 公爵家の家臣として有名なシュトゥルムを、直接始末したり、かどわかすことは不可能だったが、平民に近い家柄の騎士二人ならば問題なく消せるだろう。


 部屋を出て行こうとする二人の男を見ながら、頭の中でそう算段を張り巡らせていると、壮年の騎士は振り向いて言った。


「……忠告だけはしておきましょう。誰が主であるかだけは、違えない方が良い」

「ああ、忠告痛みいる」


 もう遅い。

 既に、私にとって主が誰かなどはどうだって良いのだ。

 両親と、ミディの親の仇を、エルヴィン・シュトゥルムを討つと決めたときから、私の最優先はそれなのだ。

 自分の感情すら、主の為に犠牲にする立派な家臣には、私はなれなかったのだ。


 騎士たちの気配がすっかり消えたことを確認してから、私はデスクの引き出しに書類をしまい、鍵をかけて部屋を出る。


 二人のあの様子では、騎士たちを利用するのは限界があるだろう。

 証拠までそろえて裏切り者として作り上げてやったというのに、そんな奴を逃がしてヘラヘラとしやがって。


 私と同様にシュトゥルムに憎悪を抱いている者も、閣下が反乱の鎮圧に連れて行ってしまった所為で、動かせる駒も少ない。

 余計な哀れみでミディを手放してしまったことも今は後悔する一方だ。

 あのとき二人きりになったタイミングでかけ直していれば、リリアーネお嬢様を誘き出すことも出来ただろうし、使える手段も多かったはずだ。


 手段を択ばないと決めたのに、この期に及んで妹のような存在だからと躊躇し、ダスゲイルに不信感を抱かない程度に抑えたこともそうだが、二回目をかけてしまえば、精神に異常をきたすからなどと事情を察知した者をみすみす逃がすだなんて馬鹿でしかない。


 いや、今はもうそんなことに構っている場合ではない。

 余計な騒ぎが起きる前にシュトゥルムを捕獲しなくては。


 逃げてさえしまえばいくらでも弁明の機会があるとでも思ったのだろうが、いくらシュトゥルムを信用したい閣下でも、この非常事態で公爵邸を不在にする中、疑いをかけられた身で脱走した奴を信用はしないだろう。

 勿論、逃がした不始末は先ほどの二人に責任を負わせればいい。


 反乱を起こした者たちの中にも、ダスゲイル経由で忍び込ませた者が主犯格はシュトゥルムであると証言してくれるはずだ。

 閣下が帰ってくる頃には自責の念に堪えかねて罪を認め、命を絶ったシュトゥルムの遺体が待っている。

 そして私は、長年裏切っていた罪人に罰を下した北部の忠臣として、両親の名をあげるのだ。


 シュトゥルムが勝手に公爵邸の外に出るとは考えにくい。

 あれは、ブルーメの血そのものには忠誠心がある男。

 それに該当する少女がいるこの邸から迂闊に出て行くとは思えない。

 リリアーネお嬢様もあれを随分とお気に召して五月蠅かった。

 となれば、牢から出たその足で、庇護を求めて彼女のもとを訪れていても全くおかしくはない。


 閣下以外にブルーメがいるというのもなかなか厄介なものである。

 今回の件を上手く利用して中央に売り飛ばす計画もは止めてしまった方が良さそうだ。

 そんなことを考えながら、リリアーネお嬢様の部屋の前で声をかける。


「リリアーネお嬢様、ご在室ですか?」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 7/20

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