#69
短いです。難産……
「ユリウスが呪いをかける道具を持っているというなら、まずそれを取り上げた方が良いんじゃないかしら。少なくとも、思考を誘導して味方を増やすことは阻止できるのだし」
私の言葉にアノンが頷いて、ミディに尋ねる。
「そうだね。いくら軽微な呪いであっても、人をゆがめる力は術者にも負担が大きい。使い続ければ最悪廃人にすらなる。彼の為にも早く取り上げた方が良い。使っている道具を手放すタイミングは思いつく?」
「いいえ、恐らく呪いをかける道具は彼の持つ懐中時計だと思いますが、それを身に着けていない場面はまずないと思います。私に勘づかれたことを察しているようなので警戒も増しているかと」
首を横に振ったミディの言葉にアノンは紙束を握ったまま考え込む。
ビリーが口を開いた。
「とりあえず、エルヴィンのおっさんにも共有しないか? どの道、おっさんには接触しに来るだろうし、上手く気を逸らしてもらえば俺が盗むことも出来ると思う。おっさんの前だと冷静じゃいられないみたいだったし」
「ビリーが危険な真似をすることになるのは避けたいのだけど。そうね、エルヴィンが何か思いついてくれるかもしれないし、相談してみた方が良いかも。ビリー、申し訳ないけどエルヴィンの所へ行ってもらっても良い?」
「ああ、その必要はありませんよ姫様。お見苦しい格好で申し訳ありません」
「⁉ エルヴィン……」
背後から声がしたかと思うと、どこからともなく出現したのはエルヴィンだった。
いきなりのことに、その場にいた全員が目を見開いているのにも構わず、エルヴィンはにこやかな顔でこちらにウインクまでしてくる。
「いやあ、久しぶり過ぎて忘れてましたけど、姫様の使う部屋にもいわゆる抜け道、秘密通路ってのがありまして。地下牢を抜け出したついでにまだ使える状態か確かめようと。あ、寝室への通路は使ってないので安心してくださいね」
久しぶりに見たエルヴィンは心なしかやつれ、服装が若干乱れてはいるものの、大きく体調を崩したという風も見えず、口調もいつも通りの軽快なものだった。
「お、おっさん、抜け出せたのかよ⁉ てか出てきていいのか⁉」
「ん? ああ、まあ、閣下にはいつでも出てきて良いって言われてるし、二時間以内に戻れば大体ばれない。ユリウスは執務室に籠るって言ってたみたいだしな」
ビリーの言葉にあっけらかんと返すと、エルヴィンは私に向かって跪く。
いつもの優しいだけの温かい眼差しではない、真剣な、そしてどこか覚悟を迫るような色を持った瞳で、私に問いかけてくる。
「姫様、ユリウス・カルストは、俺を貶めるために手を染めてはならない領域にまで手を出しております。それはもう、ご存知ですね」
「……ええ」
「本来であれば、精査の上で裁判にかけ、極刑といったところですが」
さらりと口に出されたその言葉に、ミディの顔がさっと青ざめたのが見える。
ビリーのつばを飲み込むような表情、感情の読めない無表情のアノン。
エルヴィンはミディの方にちらりと目線をやるとすぐに私に目線を戻す。
「……姫様はどうなさりたいですか?」
「私が、決めても良いの?」
「閣下からは、これ以上の裏切りが起きないならば、姫様のお望みどおりにする許可は頂きました。裏切りの全容を白日の下に曝し清算することも、事件を影で処理し闇に葬り去ることも、ユリウスや他の者の生死も、全て貴女の判断次第です」
エルヴィンが私に向ける視線のそれは、主に相応しいものかどうかを見定めているようだった。
きっと、私は今、大きな分かれ道の前に立っている。
縋るような目で私を見つめるミディ。
心配そうな顔で見守るビリー。
俯いて表情を見せないアノン。
「本当に、良いのね? 私が全部決めちゃっても。ミディがユリウスを慕っているように、貴方もユリウスのことは大事なんじゃないの? ユリウスの学費や生活費、ご両親の遺産や執事長だけでなく、貴方が支援していたのでしょう?」
それは、いつか、今じゃない世界で彼が話してくれた秘密の一つだった。
今の私が知るはずもないその話に、少しだけ瞳の奥を揺らすも、エルヴィンの声色は変わらない。
「ユリウスが両親と同じようにブルーメに仕える道を選んだ結果ですから。そこに俺の意思は権利を持てませんよ」
全てを明らかにするのか、全てを隠し通すのか。
どれを選ぶことが、私たちにとって一番正しい選択なのか。
いくつもの可能性が頭の中で回り、回った。
いつの間にか乾いた口の中を潤すように、紅茶を一口だけ飲んで口を開く。
「私は__」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 7/15




