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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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68/84

#68

またしても間に合いませんでしたorz

(sideリリアーネ)

 私の部屋に戻ってきたミディは、変に元気な様子だったけれど、目元が少しだけ腫れていることを私はあえて指摘はしなかった。

 ビリーが少しだけ心配げな表情でミディを見ていたことからも、彼女が目にしたことが彼女にとってあまり喜ばしいものではないということは察せられた。


 ミディは、昏い目をしながらも、その瞳に確かな決意を宿して、私にユリウスの執務室で見聞きしたことを報告してくれた。

 ダスゲイル子爵ではなく、ユリウス本人が呪いを使った張本人ではないかという話は、私にとっては予想できない話ではなかったけれど、それでも、お姉さまが側近にまで選んだ人間が裏切りと呼べる行為を行っていることにショックを感じないことは不可能だった。


「……そう。ミディが言うなら間違いないわね。ユリウスが裏切っているなら、それを何とかして証明しないと」


 ダスゲイル子爵が訪ねてきたことは、証拠としては弱い。

 確かに今は来客を出来る限り断るように言われているが、来客であるダスゲイル子爵の方が粘った所為だと言われてしまえばそれまでだ。


「カルスト卿本人にも、微弱な呪いの反応があったから、精神的にもだいぶ負担がかかっているんじゃないかな? 精神力が強いからか暴走まではいっていないけど、少しイラついているようだったし」


 アノンが少しだけ硬い口調でユリウスの状態について考察を述べる。


「カルスト卿にも、呪いが?」


 一瞬だけ、操られているだけかもしれないという淡い希望を覗かせたミディが、それでもあの暴走からはユリウスのことを兄様と呼んでいたところをカルスト卿、と口にしたことに私は少しだけ驚いた。


 ビリーとアノンを私が家族だと思っているように、ミディにとってユリウスは大事な家族だと思っていたから。

 けれど、彼女の苦しそうな表情と一瞬の期待が、彼への想いを完全には捨てられないことを示していた。

 訣別の為に呼び名を変えた彼女に私は言及しないことにする。


 アノンがミディの期待に首を横に振る。


「ミディさんのものよりもかなり弱いし、意思を左右させるようなものというよりは、自信を付けさせる……覚悟を決めるためのものって感じがするんだ。罪悪感までは失ってなさそうで良かったよ」


 罪悪感すらないようじゃ、救いようもないからまだマシだ。

 その言葉を聞いて、ミディはぐっと手に力を入れて拳を握り締めた。


「カルスト卿は、私にかけた呪いが解かれたことも、私が裏切りに気付いたことも、私が彼に付く気がないことも、全て気付いたんです。それでも、一切引き下がる心算は無いと思います。……次、邪魔をしようとすれば、きっと私相手でも容赦なく排除しにかかるでしょう。そういう方です」


 何を告げても、彼女を傷つけるとしか思えない空気を振り払うように、ビリーが声を上げ、紙束をこちらに差し出す。


「ダスゲイル子爵からカルスト卿に渡った書類の中身は、記憶できる限り記憶してきた。原本は流石に無理だったけど、容疑の証拠に使われる日付と場所だけは間違いないはず。一先ず、これをエルヴィンのおっさんに共有した方が良いんじゃないか?」

「……ビリー、よくこれだけの情報を覚えてきたね?」「ま、昔取った杵柄ってとこだ」

「きね、づ?……」


 独特な言い回しをしたビリーに私やアノンが疑問符を浮かべると、ビリーは誤魔化すように先を促す。


「ほら、早く確認してくれ。次の行動を出来るだけ急いだ方が良い。捏造された事実は公爵様がいれば何とかなるだろうけど、おっさんの身の安全は一度脅かされるだけでも不安なんだからさ」

「……思ったより杜撰な資料だね? これじゃ、公爵様には一発で捏造ってバレるんじゃない?」

「そうなの?」


 アノンが私に紙束を差し出す。

 私も彼に倣って読んでみたけれど、そもそも私は一度もこういった公文書を読むような仕事は与えられなかったので、これがどのくらい杜撰であるかは分からなかった。

 紙束の中から数か所を刺しながら、アノンはこの書類の違和感を述べる。


「うん、情報の正誤以前に、北部の公式書類には用途ごとに大体の型があって統一的なのが特徴だからね。書類通りにこのメモが再現されているなら、調査書の流れは、その型に当てはまっていない。明らかに未経験者が書いた調査書だ。こんなんじゃ証拠能力も碌にないよ」


 これなら、あまり心配しなくても良いかな?

 アノンのその言葉に、ミディは首を横に振って否定する。


「カルスト卿は、渡された資料をそのまま使うことはないと思います。恐らく、資料を基に自分で報告書を作る心算ではないかと。法律があの人の専門ですから、上手く罪になるような誘導も可能でしょう」


 ユリウスは、優秀なお姉さまが側近に選ぶくらいには優秀な人間だ。

 確かに、子爵の情報をそのまま使うよりも、自分で都合よく使えるように情報を調整してもおかしくない。


「そうなったら少し厄介ね。言葉で取り繕えば、真実なんていくらでも隠し通せてしまうものだもの」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 7/13

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