表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/84

#64

また間に合いませんでした……

「……出来ません」


 ユリウスは硬い表情で、絞り出すように答える。

 てっきり、ミディの時みたいに激昂するのではないかと思っていたけれど、ユリウスの態度は案外冷静なもので、些か拍子抜けしてしまうくらいだった。


 私は、理由を理解していない子どもが駄々をこねるように唇を尖らせてみる。

 精神的には十年プラスで生きているから、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちを振り払うように上目遣いもやってみた。

 倍恥ずかしい。


 そんな私の態度にも、声を荒げず、しかし確実にいらいらした口調でユリウスは答える。


「どうしてですか? お姉さまは私がしたいことは何だってして構わないと言っていましたよ。エルヴィンに会うことも構わないと」

「確かに閣下にはお嬢様のお望みはできる限り叶えるように言われています。しかし、それはお嬢様の安全が確保されている限りです。地下牢は現在シュトゥルム以外は収監していないとはいえ、危険な場所であり、お嬢様のような方の目に入れるべきではないものもあります。裏切り者とはいえ長く公爵家に勤めていた奴ならば抜け道を用意していてもおかしくはありません」


 やはり簡単には通してくれないか。

 まあ、それくらいは予想していた。


 エルヴィンと本当に連絡が取れないままだったら違ったかもしれないけれど、彼の許可がなくとも行こうと思えばいつだって行けるから。

 今回の目的は、あくまで許可を得ることではなく、情報の探りを入れ、ユリウスが公爵家を裏切っているのかどうかを調べることである。


「分かりました。それなら、私じゃない人でも構いません。私はあくまでエルヴィンの無事を確かめたいだけなので」

「……私が、彼に何かするとでも?」


 私の嫌味に気づいたユリウスが眉を顰めるのを私は笑顔で言い返す。

 本来の目的ではないとはいえ、こうもすげなく断られるのは少しだけイラっとしたからだ。


 ユリウスは気まずげに一瞬押し黙ったけれど、特に何か弁明をするわけでもなく、態度も変わらない。


「何かするんですか? 私はただエルヴィンがちゃんと食事を食べているか心配なだけですが」

「……やはり許可できません」

「そうですか。……忙しいところを呼び出してごめんなさい。もう下がって構いません」


 私が負けたことにして、退出を促すと、ユリウスは即座に部屋を出ようと動き出す。


 ミディに任せた客人が不安なのだろう。

 彼が実質の管理者とはいえ、出入りを基本禁止にすると命じられた状況下で、役職も持たない者を邸内に入れるのはバレたらまずい。

 まあ、私が知っている時点で手遅れだけど。


「では、失礼いた」

「待って!」


 それに待ったをかけたのは、先ほどまで後ろで他の子たちと遊んでいたアノンだ。

 アノンは、ユリウスの元まで駆けよると、彼の手に、あるものを握らせる。


「はい、お兄さんにもこれあげるよ。神のご加護がありますように」

「!」


 それは、白い花冠。

 とはいっても、本物の花は勝手に外から取ってこれる状況ではないので、ミディが用意してくれた布と紐を使って作られた花冠だ。

 モチーフは、どこの神殿にも植えられている浄化力を秘めた、通称女神の花だ。


 アノンがどこで身に着けたのか分からないその縫製技術を持って、本物かと見間違うほどのクオリティに仕上がったそれはアノンによって、見た目の清らかさだけではない、本物と浄化能力も込められている。

 もし、ユリウスが操られていたり、思考誘導をかけられているのであれば、この冠に反応して暴走が始まるだろうと言うのが私たちの予測だった。


「とても綺麗でしょう? まるで本物の女神の花みたいだけれど、アノンが布で作ったのよ。ユリウスも是非もらってあげて?」

「……お気持ちだけで、結構です。失礼いたします」


 ユリウスは花冠を握らせてからしばらくの間それをじっと見つめていたが、すっとアノンに渡すと、今度こそ部屋を出て行ってしまった。


「……やっぱり、ユリウスは自らの意思で裏切ったのね。あれで感情の暴走もしないのなら、術もきっとかけられてはいないでしょうし」


 彼を慕っているミディには申し訳ないけれど、私だって家族を守るためには罪を犯した人間はちゃんと咎めなければいけない。

 何事もけじめをつけねばならないのだ。


 私がはあと溜息を吐いたところに、アノンが囁いてくる。


「……そうとも限らないかも」

「え?」

「ほら、これ」


  疑問符が浮かんだ私に向かってアノンが差しだしたのは、先ほどユリウスに返された花冠。

 最初は意図が読めなかったけれど、すぐにある個所に目が留まり、思わず声が出る。


「あ」

「少しだけだけど、彼が握って部分だけ黒ずんでいるでしょう?」


 純白の白い絹でできた花の中、彼が握ったであろう跡のほんの僅かな部分が、薄汚れた灰色に変色している。

 なんとなく、肌で感じるこの感覚はあの時ミディに感じたものと確かによく似ていた。


「多分、ミディさんにかけられていたものよりも、もっとずっと弱い術がかけられたんだと思うよ。ただ、これだと決心がついたことを後押しする程度の効果しかないからのろいじゃなくておまじないに近いけど」

「それは」


 呪いの意図で使われた術でも、本人の意思の強化しかできないのであれば、やはりユリウスが裏切ったことになってしまう。

 そう思い顔を思わずしかめる。


 アノンは軽く肩をすくめて、仕方ないと言った風に首を横に振る。


「まあ、このまま死人が出なければ情状酌量の余地はありそうじゃない? あとは明らかに捏造されているだろう報告書とやらをどう使おうとするかじゃないかな? まあ、そっちはビリーとミディさんがなんとかしてるでしょ。僕たちも次の行動に移ろう」


 私もその言葉には頷いて立ち上がる。

 これくらいでショックを受けている場合ではない。

 今やるべきことを確実にこなさなければ、守れるものも守れないから。


「ええ。大捕り物の時間ね!」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定(守れていない)7/3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ