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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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63/63

#63

間に合いませんでしたorz

「……ダスゲイル子爵ですね! 分かりました、しっかりと受け取っておきます」

「ああ、頼む」


 ミディはにこやかな表情を崩さずに頷いたけれど、すぐに小首をかしげる。


「それにしても、ユリウス兄様がダスゲイル家と親交がおありだとは思いませんでした。あの方は閣下からは特に役職を与えられてはおられないですし」


 ユリウス兄様も、中央と繋がりの強いダスゲイル家を警戒しているものだとばかり思っていました、と呟いたミディから視線を逸らしたユリウスは、一瞬言葉に詰まりながら答えた。

 その表情はそれ以上の深入りを拒んでいるようにも見える。


「……ああ、以前夜会で少し、な」

「へえ……。って、お話している場合ではありませんでした! 早くお嬢様のところへ、私も兄様の執務室へ参ります。それでは!」


 適当に相槌を打ったかと思うと、脱兎の如き勢いでその場を離脱したミディの様子に首を傾げながらも、ユリウスも動き出す。


「? はあ、行くか……」


______

 ユリウスはほどなくして、私の部屋に着き、その扉を開けた。


「リリアーネお嬢様、私をお呼びと伺い、参上しましたが……なんですか、これは?」


 私の座るソファの後ろ側では、昼寝を終えたばかりの子どもたちが工作をして遊んでいた。

 メルが指示するのに従って、リュットとテッドが手元で何かを弄っている。

 アノンとネラは白い粘土らしきものを二人でこねている。


 目の前に広がっている光景に唖然とした表情のユリウスに向かって私は何事もないように返答する。


「あ、待っていたんですよユリウス。何って、ユリウスもお姉さまからビリーたちがしばらくこちらに住むことは聞いたでしょう?」

「いえ、それは……それもそうですが、今お聞きしたいのはそれではなく!」


 困惑した表情のユリウスが勢いよく指さしたのは、子どもたちの後ろの装飾品。


 昨日まで、公爵家所有の由緒正しい絵画や、年代物の花瓶が飾られていたそこには、神殿に飾られている、真っ白な花瓶と白いレースだけで編まれたタペストリーが飾られている。

 ついでに言ってしまうと、私が今座っているソファも、テーブルも、テーブルの上の茶器も、私たちの服も全部白。

 この室内だけ見れば、神殿の修道士の部屋と言っても通りそうな装いだ。


 ユリウスは、酷く動揺した表情で声を荒げた。

 そのこめかみに汗が伝っているように見えるのは、私の気のせいだけではないだろう。

 急な部屋の変化以外の要素が彼を焦らせていることを、私はひそかに確信した。


「どうしてこの部屋の装飾が教会式の装いになっているのかということです!」

「お姉さまが戻るまで外出もできませんし、お部屋の内装を日替わりで変えようかという話になって。今日のテーマは神殿風らしいですよ。メルが図書室で見つけた本の挿絵を参考にしたんです。結構うまくできたと思いませんか?」


 自分の犯したことを重く受け止めてくれたミディに協力を仰ぎ、私は二つのことを頼んだ。


 一つはユリウスを私の部屋へ来させること。


 もう一つはダスゲイル子爵とユリウスの繋がりを探ること。

 ダスゲイル子爵がユリウスに接近した時にどうにかして話の内容を探ってほしいと頼んだのだ。


 とはいえ、一度術をかけられているミディを一人で行かせることは心配だったので、アノンが加護の神術を使った上で、ビリーが影からサポートしてくれることになっている。


 ユリウスを罠のような形で誘い込んだこれは、アノンの指示を元に即席で作った疑似神殿だ。

 ソファや箪笥の影にはアノンの書いた魔法陣が幾つも仕掛けてあり、この室内で神の力に反するような力は使えないように常に浄化の術を作動させているらしい。


 もし、ミディと同様にユリウスにも呪術がかけられていたりするならば、何らかの反応が見られるだろうし、反応が無ければ……。

 その時は、ユリウスが自ら不正にエルヴィンを陥れようとしたと考えなければならない。


「別にそこまで怒ることじゃないと思うんですが。ここは私の部屋ですし、公爵家は確かに王都の中央神殿と対立していますが、お姉さまだって教会の教えは重視していらっしゃるじゃありませんか」

「っ!」


 王都や中央神殿のせいで仲がいいとは言えないが、北部の神殿には毎年決まった額が公爵家から寄付されているし、お姉さまも教会の教え自体は前回の生からよく守っていた。

 ここで働く人々の居住区にも一応教会の小さな礼拝堂があるのでそう拒否感を抱かせるものではないはずだ。


 大体、あくまで風、であってユリウスに言った通り、気分転換にもなる日替わりで内装を変えるくらい良いではないか。

 お姉さまにも、故意な破壊でなければ、公爵邸のほとんどは好きにして良いと言われているのだ。

 全く問題ない。


 私の言葉に、何かが癇に障ったのか、ユリウスの表情が怒りに変わる。

 これは、彼の素か、否か。


 もし、彼が単にエルヴィンに向けるのと同様の憎悪を教会に向けているなら、この反応もあり得なくはない。

 ただしそれはほぼ確実に自らの意思でダスゲイルと組んだという事。


 逆に、自分でも言い表せない衝動でこれだけ動揺しているならば、術をかけられている可能性が高い。


 私はそれを見極めるために、もう一歩踏み込んでみる。


「大体、そんなこと今は良いじゃないですか。私があなたを呼んだ理由は聞いたんでしょう? ……エルヴィンに会わせてください」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 7/1

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