#62
短めだし、ギリギリだし(なんかあった)
当主不在の間の差配を任されたうちの一人、ユリウス・カルストは、主君の妹付きの侍女、ミディからの報告に一瞬だけ煩わしそうな顔をする。
対峙しているミディの顔も、困り顔でどこか疲れ気味の表情だ。
「リリアーネお嬢様が? ミディ、お前がなんとかなだめてはくれないか?」
「すみません、ユリウス兄様。私からの説明では何一つ納得できないとおっしゃられているんです。閣下からも出立前に許可を得たから、自分をシュトゥルム卿に会わせろと……」
力なく首を横に振った彼女に、ユリウスはため息を吐きながら言葉を返す。
「はあ、閣下もお嬢様には甘くて困るな。こちらにも命の危機がない限り、お嬢様のお望み通りにするようにと言われている」
元々留守を命じられた時には、内向き以外は全て裁量に任せるという話であったはずなのに、出立の直前にいくつか条件が付けられた。
その一つが、リリアーネ・ブルーメの意思を出来るだけ妨げることをしない、というエルヴィンと敵対するユリウスにとって、厄介極まりない条件だ。
「あの、シュトゥルム卿は牢の中なのですし、檻越しにであれば大丈夫なのではありませんか? 尋問は閣下がご帰還なさってからだそうですし、我々が共に行けば安全面は大丈夫だと思うのですが」
「それは駄目だ!」
ミディの言葉にユリウスは咄嗟に声を張り上げる。
滅多にない彼の大声に思わずびくりと肩を揺らしたミディは困惑の表情を浮かべた。
ユリウスも一瞬自分の想定以上に声が出たのか、片を強張らせたが、すぐに表情を取り繕った。
内心はさぞ焦っていることだろう。
主の命令に背いて、先に拷問じみた尋問を始めてしまったことは、憎きシュトゥルムの悪事の証拠が出るまでは誰にも知られてはならないからだ。
「ど、どうされたのですか、兄様。らしくありませんよ」
「……いや、すまない。お嬢様はまだ幼いのだから、万が一トラウマにでもなったら困るだろう? そう言って説得してくれ。……どうした? 顔色が悪いぞ?」
それらしい言い訳をしながら、ユリウスはふとミディの表情の暗さに気付き、理由を尋ねる。
「すみません、ユリウス兄様。私があまりにシュトゥルム卿への恨みを込めてしまった所為か、私への信用がなくなりつつあるみたいで。私が何を言っても、ユリウス兄様に伝えず勝手に言っているのだろう、と。お願いです、今からお嬢様に直接お話してくださいませんか?」
ミディの発言に対して、ユリウスは少し困ったように眉を寄せる。
「今すぐか? これから来客の予定なのだが」
「来客? 閣下がいらっしゃらない間は外からの人間は入れてはならないとのご命令では?」
主人が不在で手薄の屋敷にか弱い妹を残していかねばならないのだから、貴族であっても来客は断るように、と命令が下っていることは、使用人ならば全員が知っている。
主の命が絶対的なものであることは貴族に仕える者にとっては当たり前のことだ。
ましてや、それをまとめ、監督する立場であるユリウスがそれを破るなど、本来あってはならないことだ。
「……シュトゥルムの件で調査を頼んでいてな。調査結果を持ってきてくれる予定なんだ」
「でしたら、私が受け取っておきましょうか? どの道お嬢様に同席するなとも言われていますし」
単純な手伝いであるからと裏のなさげな表情で提案するミディに対して、ユリウスは幾分か消極的な表情を見せた。
「だが、機密書類であるし……」
「私のことは信用に値しませんか? そうであれば仕方がありませんが……」
泣きそうな顔で肩を落とした妹分に慌てたようなしぐさでユリウスはとりなした。
「信用してないなんてそんなことはあるものか! 分かった。お前に受け取りを頼む。くれぐれも中は覗かないように。執事長とお前の両親には恩義があるし、お前のことも妹のように思っているから、下手に情報を知って巻き込まれてほしくはないんだ」
その言葉に感動したように目を潤ませ、ひっしと彼の両手を包み込んだミディは笑顔で宣言した。
「分かっています。私は兄様のお役に立ちたいだけですから。それで、その調査結果は、どなたが持ってきてくださるのですか?」
一瞬の緊張。
ユリウスは自然にその名前を口にする。
「ダスゲイル子爵だ」
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