#61
約束は守られないものと思ってください(開き直り)
追いつめるようなアノンの言葉に、ミディは真っ青な顔をしながらも口を開きかける。
「わ、私は……」
「馬鹿、言いすぎだ」
「いったぁ!」
ゴン、と音を立てて、アノンの頭にビリーが拳骨を下ろした。
涙目で恨めしそうにビリーを見つめるアノンに、ビリーはため息を吐きながら指摘する。
「ある程度までは俺も同感だけどさ。お前途中からはただ八つ当たりしてただけだろ? お前までリリを困らせてどうするんだ」
図星を突かれたのか、一瞬詰まったアノンは、しぶしぶと言った風に私に向かって謝る。
「ぅ……ごめんね、リリ」
「謝る相手が足りない」
ビリーから謝る相手は私だけではないとさらににらまれたアノンは、先ほどよりさらに渋い顔をして、悪態をつくように吐き捨てる。
その様子は先ほどまで追い詰め方とは対照的に年相応の子どもが我儘を受け入れてもらえず拗ねている様にすら見える。
まあ、その我儘の内容はミディをいっそクビにして晒してしまえという些か過激ともいえる内容だけれど。
「……あんまり脅しみたいな言い方をしたのが良くなかったのは謝る。けど、僕が言ったことは全部本心だから」
「……はい」
「ミディ、あまり重く受け止めないでね。貴女が辛い思いをしてしまったのは事実だし」
私がフォローを入れても、ミディの顔色は良くならず、落ち込んだ表情のままうつむき気味に唇を噛みしめている。
と、寝起きだというのに、ミディはすっくとベッドから起き上がって出ると、いきなり土下座をする。
「いえ、その……申し訳、ありません。彼の言う
通り、私はお嬢様にお仕えする資格はないと、私も分かっております。……お嬢様の優しさに漬け込む形にはなってしまいますが、私の身一つでどうかご容赦いただけませんか」
「え⁉ えっと、ミディ?」
私自身には、微塵もミディをクビにしたり責任を負わせたりする気持ちは全くない。
けれど、床に座り頭を下げた土下座状態のまま頭を上げようとはせず、こちらの話も聞いてくれそうになかった。
ミディは必死に爺やだけでも助けてほしいと頼み込む。
「祖父は、執事長は、私と違って有能ですし、必ずお嬢様のこともお守りできます! ブルーメ家を裏切ったりもしません! ですからどうか、私一人に罰を受けさせてください!」
ビリーが暴走したミディを落ち着かせるように、空になっていたコップにまた水を注いで彼女に差し出しながら話しかける。
「落ち着けって、ミディさん。あなたがそれだとリリが話したいことも話せないだろ? まだ、リリの使用人の自覚があるなら、一旦黙って話を聞いてやってくれ。それぐらいはできるだろ」
「っ、はい。すみません」
ビリーの方がミディよりも年齢的には幼いのにも関わらず、ミディに話しかける態度は、まるで私たちに対する態度……弟妹への接し方が基礎になっているように感じられた。
正論に切られるようにまた俯いてしまったミディにそっと話しかける。
「あのね、ミディ。さっきも言ったけれど、私は貴女がすべて悪いとは思っていないの」
確かに、この状況下で知らぬ間に怪しい術をかけられて、あまつさえ自分の主の前で発動させてしまったという結果はある。
本人が恐らく気にしているように、あるいはアノンがずっと危惧している通り、他の使用人より精神的に不安定だったからこそ、それに付け込まれてしまったのだ。
けれど、私は結局負傷しなかったし、怪我人もでていない。
むしろ私的には、裏で仕組んでいた人の候補が見つかったので心象的にはむしろプラスだ。
「全くのおとがめなしにはできないけれど、私はミディのことも執事長のこともクビにしたりするつもりはないの。……私はただ、お姉さまや大切な人たちと幸せに暮らしたいだけだから。貴女も私の大切な人の一人なのよ?」
ミディは私の初めての侍女で、私に自ら伝えたいと思って仕えてくれた貴重な人でもある。
私付きになってから、毎日私に丁寧に、けれど温かみのある仕え方をしてくれた大事にしたいと思える人だ。
それに、私が巻き戻り前には一切かかわってこなかった彼女がこんな目にあってしまったのも、私の行動のせいかもしれない。
お姉さまの幸せの為にも、私の幸せの為にも変えるべきだったことを変えたことに後悔はない。
けれど、そのせいで他の誰かがあぶれてしまった不幸を拾ってしまったなら、私の責任でもあるのだ。
ミディの手を両手で包み込み、真っ直ぐその目を見つめる。
「お嬢様……」
「だから、大切な貴女も危ない目に合わせた黒幕を絶対に許せないわ。お願い。私に協力して犯人を捕まえるのを手伝ってちょうだい」
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次回更新予定(希望的観測) 6/26




