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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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59/64

#59

やっと間に合った!(なお、ストックはない)

6/21追記:タイトルミスして投稿してました!ごめんなさいorz

 私の指摘にクラウスは気まずげに頬をかくと目線を剃らしながら答えた。


「お恥ずかしい話ですが、まだ両親が生きていた頃一人で貧民街のごろつきの巣窟に乗り込んだことがありまして。うっかり高位貴族も絡んだ闇取引を目撃して口封じに追われていた所を、たまたま情報収集に来ていたエルヴィン様に助けていただいたのです」


 クラウスの両親もまた、私の両親に仕えていた者たちで共に事故で亡くなっている。

 クラウスは私の二つ上であるから、両親が生きていた頃なら十歳を迎えたかどうかという頃だろう。

 クラウスは身分へのこだわり___正確には『ブルーメ公爵家』に仕える者としての誇り___こそあれ、正義感は強く見て見ぬふりというのが出来ない男でもあるので、そんな彼の幼少期ともあれば、堂々とその場に乗り込んで文句くらいは付けるだろう。

 既に彼も私の側近候補として名は上がっていただろうから、そんな少年が馬鹿正直に出てきたら、エルヴィンとて助けざるを得まい。


「知ってしまったきっかけは偶然ですが、シュトゥルム家には後継者がいませんから、いざとなれば私にその役目を、と。……まあ、ご覧の通りの直情型ゆえにその話はすぐに立ち消えましたが……」


 遠い目をしたクラウスには悪いが、エルヴィンの判断は正当だと思う。


 主人であろうと、自分が思い込んだものと違うことをした人間には真っ直ぐ異議を唱えずにはいられないこの男に、知り得た情報を隠し通すことは無理だろう。

 今思えば、クラウスがいるときにエルヴィンが訪ねてくるようなことが少なかったのも、彼が何かしらを顔に出してしまうのを避けるためだったのかもしれない。


「なぜ私には教えてくれなかったのだ? 止められていたからか?」

「確かに言わないようにしてくれと頼まれてはいましたが。迂闊にお教えすることは重圧にもなり得ます。そういった見極めに自分がエルヴィン様より優れているとは思いませんので」

「そうか。今の私はお前から見たら秘密を知るに相応しい力をつけたように見えているか?」


 ふと思いついて、クラウスに尋ねてみる。

 エルヴィンには、今なら指揮権を返せると言われたが、特に明確な変化といえばリリアーネを迎え入れたぐらいで、私自身が成長したようなことはない。

 まさかエルヴィンも、家族が出来たら一人前、などという旧時代的考えの持ち主でもあるまい。


 クラウスは少し考え込んだあとに、口を開く


「もとより力不足などとは思っていませんが……そうですね、リリアーネお嬢様に出会われてから閣下は少し柔らかくなられたように思います。ああ、いえ、弱くなったなどとは決して思っていません」


 それではまるで、私が退化したようではないか。

 思わずぎろりと睨むと、クラウスは慌てて首を横に振りながら、否定する。

 クラウスは柔らかい表情で私に向かって言った。


「ただ、私がお仕えするようになってからの閣下は、ずっと険しい表情をなさっていたので。きっとリリアーネお嬢様というご家族を得られたからでしょう。……守るべき者があればこそ、人は強くなれると申しますから」

「……そうか。守るべき者、か」


 リリアーネ。私の可愛い妹。

 私には足りなかった愛らしさと、優しさと、ひたむきさを持った、私の大事な家族。

 私の代わりに運命を背負わされながら、迎えに来るのも遅く危険にすら晒してしまった私のことを、決して責めないその心の強さに私はずっと救われている。


 リリアーネの存在が私を変えてくれたというなら、それよりも嬉しいことはない。

 強くあれる為の想いをきっとリリが支えてくれる。

 そう確信するだけで、確かに私はただ前だけを向いていられる。


「クラウス。お前の言う通りエルヴィンは決してブルーメ家を裏切らない。だが、エルヴィンを裏切り者だと判断させようとする証拠が出た。意味は分かるな?」

「ブルーメ家に翻意を持つ者が、それもエルヴィン様を重要人物だとみなすほどの中枢に潜り込んでいるのですね? ……ならば、リリアーネお嬢様が危ないのでは⁉」


 クラウスの懸念は当たらずとも遠からず。

 もし、リリアーネが一人であれば、ここぞとばかりに取りいって私と仲たがいをさせようとしたり、意のままに操ろうと考える輩が接触しに来るだろう。


 あくまで一人であれば、だが。

 執事長であるゼルスや、暴走気味のユリウスはリリアーネの傍に四六時中いることは叶わない。

 ミディについても、出立前に聞いた話では療養が必要かもしれない。


 だが、リリには少し悔しいことだが、もう一つの家族がある。

 仮にも守護者を名乗った男までいるのだ。

 私に見せた力以外にも、彼らが何かを隠していることは予想がつく。

 彼らがリリアーネと共に居れば、少しは助けを呼ぶための時間が稼げる。


「大丈夫だ。リリアーネの傍には彼女を守れる人間を付けている。ただ、私の不在が長引けばまた状況も変わってしまうだろう。だからこそ、確実にこの反乱は鎮圧しなくてはならない」


 そう、それでも彼らは保険であって、その力が発揮されるような場面があるべきではないのだ。

 妹も含め、精神性が大人びていても、肉体的には子どもなのだから。

 決意を込めて、お守りをそっと額につける。

 私の家族に誓って、私の大切な者はこれ以上失わせるものか。


 私のことをじっと見つめたクラウスは、一つ頷くと、口角をあげ、私に提案をする。


「ならば早急に動かねばなりませんね。……閣下、このように仕掛けるのは如何ですか?」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 6/22

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